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25 シャロンのサンドイッチ

 今日は薬草を摘みに行くことになっていた。前回はレグルスに邪魔をされて薬草もきちんと教えられなかったから……という誘いにシャロンは、喜んで頷いたのだ。

 前日から頼んでパンを焼いてもらった。アルーアの主食は白米だったが、なぜか時折、パンが出てくる。

 厨房に入ったシャロンは、疑問が氷解した。パンを焼く竈が後付けで設置されていた。レアルから嫁いでくるシャロンのために設置されたのだろうそれは、まだ新しく綺麗だった。

「ありがとう。パンをいただくわね。あと少し厨房をお借りするわ」

 料理人たちに声をかける。

「なにか手伝えることはありますか?」

「鶏のささみがあったら少しわけてくれると嬉しいのだけれど」

 シャロンは料理人たちが鶏のささみを用意してくれている間に卵を茹でた。アルーアの厨房に入るのは初めてだ。

「これでお米を炊くの?」

 釜を見て驚くシャロンに、料理人たちはいろいろ教えてくれた。

 卵が茹で上がり、冷やしてから殻を剥く。それを潰して香辛料で味つけをした。鶏肉のささみにも塩と胡椒で味つけをする。パンにバターをたっぷり塗って、卵とささみを丁寧に挟んだ。

「これはなんです?」

「サンドイッチよ。少し食べてみる?」

 切り分けて料理人たちに配ると、概ね好評だった。これならアルクトゥールスも食べてくれるだろうと安心する。

 前回は焼きおにぎりをご馳走になった。そのお返しがしたかったのだ。サンドイッチを包み、料理人たちに丁寧に礼を言うと、彼らは照れたように頭を下げてくれた。シャロンは嬉しくなる。

 部屋に戻るとアルクトゥールスが身支度をしていた。

「どこに行ってたんだ?」

「ふふ。ちょっとね」

 シャロンは、サンドイッチの包を仕舞うと、身支度を急いだ。


 今日の山は快晴だ。歩きやすく丈の短いスカートにしたのは正解だった。アルクトゥールスが、一緒に座り込んで薬草を教えてくれる。

「これがクサノオウ。葉は4枚に裂けているな。菊科の植物にも似てる。有毒性のものだから、取り扱いには注意が必要だな」

「黄色い花が咲くのね」

「そうだな。花言葉もあるぞ」

 花言葉? と尋ねるとアルクトゥールスは頷く。

「思い出。わたしを忘れないで」

「なんだか……悲しい花言葉ね……」

 自分にぴったりの花言葉だとシャロンは思う。少ししんみりとしてしまったシャロンに、アルクトゥールスはどうしたのかと訝しげな視線を向けた。

「あ……なんでもないの。それよりアルク、お腹空かない?」

 太陽はちょうど真上にある。もうお昼の時間だ。

「そうだな。どうする? もう帰るか?」

「お弁当を持ってきたのよ。良かったら食べない?」

 少しドキドキしながらそう言うと、アルクトゥールスは驚いた顔をする。

「朝から何をやってるのかと思ってたんだ」

「この前はアルクが作ってくれたでしょう? 今日はお返しがしたいと思って」

 サンドイッチの包を広げる。アルクトゥールスが、興味を惹かれたように包みを見た。

「これはなんて名前の料理なんだ?」

「サンドイッチって言うの。本当はチーズとか挟めると良かったんだけど……食べてみて」

「ああ。ありがとう」

 アルクトゥールスは礼を言うと、ひとつ受け取って律儀に頭を下げてから食べた。シャロンはドキドキしながら彼の反応を待つ。料理人たちからは好評だったけれど、お世辞と言うこともあるかもしれないと、今になって緊張してきたのだ。

「……どう?」

「美味い。これ、おまえが作ったのか?」

「パンは焼いてもらったし、たくさん手伝ってもらったけど一応そう……。手軽に食べられるでしょう?」

 ほっと心から安堵して、シャロンは笑う。アルクトゥールスの口に合って良かったと心から嬉しくなる。

「まだ食べる? あと手が汚れるからハンカチどうぞ」

「ありがとう。いただく」

 ハンカチを渡し、シャロンもサンドイッチを食べる。故郷の味とは少し違うが、それでも美味しかった。

 アルクトゥールスはよほど気に入ったようで、半分以上を平らげた。

「ごちそうさま。本当に美味しかった」

「良かった。どういたしまして」

 シャロンは心から喜んで笑顔になる。

「料理なんてするんだな。意外だった」

「驚かせられたらなによりです」

 シャロンは微笑む。少しでも喜んで貰えたのなら、それが嬉しい。

 それからしばらく他愛もないお喋りをして、また薬草を摘みに戻ったのだった。

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