18 王墓へ
結婚式から3日後。シャロンはアルクトゥールスと一緒に王墓に来ていた。菱形に土が盛り上げられ、見上げる程に大きい。
ふたりの結婚の報告へとやってきたのだった。
アルクトゥールスが一歩進み、シャロンはその後をついて行く。手には櫟の枝を持ち、並んで一緒に2礼をしたのち、王墓に捧げた。その後は手を合わせ、目を閉じる。
黙祷が終わると、そのまま振り返らずに後ろへと3歩下がった。また2人同時に一礼をする。
すべての行事が終わって、アルクトゥールスが驚いたようにシャロンを見る。
「どうしてそんなに良く知ってるんだ?」
「え?」
「作法が完璧だった」
「そう? 教えてくれた人が良かったのね」
実際は回帰前にやったことがあるから覚えていたのが正解なのだが、アルクトゥールスは感心したようにシャロンを見た。
そんなに感心されると、なんだかずるをしたような気持ちになってくる。シャロンはごまかすように微笑んだ。
アルーアに馴染もうとしていることは伝わっただろうか、とシャロンはほっと息をつく。
「ここには、代々のアルクのご先祖様が眠っているのね」
「そうだ。俺もいつかここに入る予定だな」
「……私も入れるのかしら」
ふと疑問が口をつく。アルクトゥールスは、驚いたようにシャロンを見た。
「もちろん……妻ならば一緒に入る」
妻ならば、か。自分は本当に妻になれる日は来るのだろうか、と思った。
しかし、くよくよと考えていてもしかたがないと首を振る。まずはこのアルーアに馴染まないと、とシャロンは思った。それは回帰前にはできなかったことだからだ。
「アルク。良かったらご先祖様のお話を聞かせて。レアルでは血の繋がりは重視しないから、とても興味があるの」
「……変わってるな」
そう言いながらも、アルクトゥールスはぽつりぽつりと、祖父の話をはじめた。
褒められたこと、叱られたこと、一緒に遊んだこと。
それはとても優しい微笑ましい記憶で、シャロンは自然に笑みを浮かべて聞いていた。
「優しい方だったのね」
「ああ。俺が幼い頃に亡くなったけれど、大きな掌で頭を撫でられたことを今でもよく覚えている」
「素敵ね……」
シャロンには祖父はおろか、父母の記憶もない。アルクトゥールスの記憶は本当に羨ましく感じたのだ。その気持ちが伝わったのか、アルクトゥールスは、少し躊躇ったあと、シャロンの頭をぽんぽんと撫でた。
シャロンは驚いて彼を見上げる。アルクトゥールスは何も言わない。シャロンも黙ったまま、ふたり並んで宮へと帰った。