11 切ない物思い
シャロンは、窓辺に立っていた。半年間の花嫁修業は順調に進み、レアルを出立する日も刻一刻と近づいている。
寝間着にショールをかけ、彼女は窓辺からの景色を眺めていた。
外は雨が降りしきり、薔薇の花を打っていた。まるで今のシャロンの胸中であるかのようだった。
アルクトゥールスに会いたい。その気持ちは本当だけれど、会っても、また同じような時を繰り返さないかの不安はあった。
シャロンは、窓に額をつける。窓ガラスはひんやりとしていた。雨だれがガラス越しにいくつもいくつも連なっては落ちていく。
今頃、アルーアでは、きっと彼は憂鬱に思っているだろうと思う。彼は1年間、シャロンに手を出そうとはしなかった。憂鬱にしている様は容易に思い浮かべられるのに、仲睦まじくしている様は、中々思い浮かばない。
大丈夫だろうか、とシャロンは不安になる。また、一人きりで泣くことにならないだろうか、と。
そう思って、シヴァの存在を思い起こし、ほっとする。回帰前にはいなかった彼の存在は、シャロンに大きな安心をもたらした。
ふうと大きく息をつく。
素直になろう、とシャロンは思う。できることなら、この気持ちを素直に彼に伝えたい。彼のことが好きだと、例え振り向いてもらえなかったとしても伝えたかった。
素直に伝えても、受け入れられるかどうかはわからないけれど、回帰前のようになって後悔するよりはずっと良い。
雨足は次第に強くなり、雨だれが次々へとガラスの向こうを滑り落ちてゆく。
シャロンは彼を想う。
芽生えた恋心を消すことは、もう難しい。できる限り精一杯、頑張るしかないのだ。
ましてや、この結婚には両国の和平がかかっている。知らず、背筋が伸びた。アルーアとの交易が進めば、レアルに富をもたらすだろうから。レアルの将来が双肩にかかっていることも、回帰前よりも強く意識されていた。
天主には幼い頃からよくしてもらった。たくさんの数え切れない優しさをもらった。その恩を返せたらと、シャロンは思う。
雨は降り続く。
シャロンの切ない物思いと共に夜はゆっくりと更けて行くのだった。