クラスのワガママな社長令嬢に罰ゲームで説教をすることになった俺、退学を覚悟するも気づいたら口説いていた件
「おい、胡座瑞希」
「急になんですか?」
「お前に話がある。放課後教室に残れ」
ああ、どうしてこんなことになったのか。休み時間には寝て、学校からはなるべくすぐ帰る。言ってしまえば俺は陰キャだ。
そんな俺が、アグラノ財閥のご令嬢の瑞希になぜ喧嘩口調で放課後呼び出しているのか。
いや、喧嘩口調なのは普段女子と話慣れてないから緊張してこうなっただけだろう。
肝心なのはそこじゃない。瑞希は、いわゆる手のつけられない問題児だった。
自分の立場をいいことに、学校ではやりたい放題。授業中のスマホ、遅刻、他者へのマウント、嫌がらせ。
それ故にみんなが瑞希を心の底から嫌っていた。だけど先生も、クラスメイトも瑞希に逆らえないでいた。
瑞希が親に言いつけたら、消される可能性があるからだ。それほどに、アグラノ財閥の力は大きかった。
そしてなぜ俺が彼女に歯向かうことになったか、説明しよう。
俺にも一応、友達がいた。まあ陰キャ集団だが、それなりに楽しくやっていた。だが瑞希は俺たちのことを見下し、よく嫌味を言ってきた。
「あいつにガツンと言いましょうよ!」
耐えかねたグループの1人が、声を上げた。最初はみんな気が進まなかった。だが彼の熱意にだんだんと押されていった。
最終的に、とあるfpsゲームで負けたヤツが瑞希に説教をするということになった。
そこで見事に俺は負けてしまったというわけだ。
いやいや、最初に声あげたやつがやれよと思うかもしれない。でもそれが出来ないからこそ、陰キャ集団にいるというわけだ
もちろん馬鹿正直に瑞希に説教しに行く気なんてなかった。負けても俺は乗り気じゃなかったと逃げるつもりだった。
でもみんなの反応がガチすぎて、やっぱり出来ないなんて言えなかった。
「お前に話がある。放課後教室に残れ」
そして今に至るというわけだ。
「あなた、名前はなんでしたっけ?」
「佐々木優太だ」
「どうも。私記憶力はいい方なんですけど、あなたの存在感の薄さのせいで忘れてました」
相変わらずの憎まれ口だな。俺は苦笑いをうかべることしか出来なかった。
「とにかく、今日放課後残れ」
「はいはい。そんな口の利き方して、私もただで帰す気はありませんよ。放課後、楽しみですね」
背筋が凍った。父さんと母さんにもっと親孝行をすればよかったな。
「「「さようなら」」」
帰りの挨拶、つまり俺の死が始まろうとしていた。教室にさす夕日は、心なしかいつもより綺麗に見えた。
「さて、人も居なくなりましたし話しましょうか。まずあなたから用件をどうぞ」
「ああ」
今にも気絶しそうな程に、俺は怯えていた。心臓の鼓動はどんどん早くなって行った。
「ずっと思ってたんだけど、お前学校で人に迷惑かけすぎ。令嬢だかお嬢様だか知らんが、やっていい事と悪いことあるよな?」
瑞希は一瞬困惑の表情を見せ、微笑んだ。瑞希のその表情が、逆に怖かった。
「ふふ。私にそんなことを言って、タダで済むと思ってるのですか?パパに言い…」
「パパに頼んないで、自分で語れよ!何でもかんでもパパに言うパパに言うって、そんな生き方はいつまでも通用しないぞ!!」
俺は瑞希の言葉をさえぎり、叫んだ。教室中に俺の声が響いた。
「今はいいかもしれない。みんな怖くてお前の言いなり状態だ。でもこの先何があるか分からない。もしもの時に、お前は独りになるぞ!!」
しばらく沈黙が起きた。数十秒だが、とても長く感じた。
「わた、わたしは」
ようやく口を開いたかと思うと、瑞希は泣き出してしまった。意外な反応に、俺は少し焦った。
「大丈夫か?ハンカチならあるけど」
「だい、じょうぶです。私は、今も昔もずっと独りですよ。みんな私を特別扱いして、本音で接してくれる人はいませんでした」
「そう、だったのか」
「はい。でも私も悪いんです。今の偽物の、友情なんてどこにもない人との繋がりにすがって、それが崩れるのが怖かったのです」
「ご、ごめんな。俺も何も知らずに、大声で説教してしまって」
「いえ、私嬉しかったです。本気で私と向き合ってくれる人なんて、家族にもいませんでしたから。散々迷惑かけてごめんなさい」
「反省したなら、もういいんだよ。」
「ありがとう、ございます。その、もしよかったら私と友達になってくれませんか?」
「えっ!?」
「そう、ですよね。虫がいいですよね」
「いや違くて、驚いたっていうか。俺で良かったら、よろしくね」
俺がそう言うと、瑞希は普段からは考えられない無邪気な笑みを浮かべた。
「もちろんです。よろしくお願いします!」
泣いたからだろうか、瑞稀は少し頬を赤らめていた。
最初は怖かったが、今日瑞希と話してよかったな。
「その、私嬉しくて。優太くんのこと、好きになってしまいました」
「なっ!?」
「でも、今までみたいにワガママしません。実力で優太くんの恋人なってみせます」
「お、おうがんばれ」
俺は混乱していた。頭の中に入った情報のインパクトのデカさに、脳が耐えれなかった。
「それではまた明日」
「おう、またな」
しばらく俺は教室で放心していた。明日から一体、どうなってしまうのだろうか。
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