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第96話 悪徳商人の帝国攻略録3/女帝の攻略進捗:40%

 商人ユミルがヤエを従えた事。そして、メンショウ帝国に尽くしたいと告げている事。

 

 リンファを上手く誘導した事で、その情報は真っ先に女帝に伝えられた。


 結果として、俺とヤエはリンファと共に豪奢ごうしゃ()()()に来ていた。


「ケホッ、コホッ……貴様が、件の商人か……」


 天蓋てんがい付きのベッドで横になっていた女帝が、咳き込みながら声を発する。


 俺たちの目の前にいるのは、桃色の髪を結い上げた色白の女性。


 病に冒されていなければ、絶世の佳人として見る者を魅了しただろう。


「はい、ユミルと申します。拝謁はいえつの栄に浴し、恐悦至極にございます」

「あらあら、以前お会いした時よりもさらに力が落ちておりますね」


 ヤエの言葉を聞いた女帝が愉快そうな笑みを浮かべる。……五十を越えてるはずだけど、三十代にしか見えないな。


「く、くく……相も変わらず不遜ふそんな女よ……。他人を強弱でしか測れぬ破綻者はたんしゃめ……」

「今は違いますよ? わたくしめは、この刃を主様に捧げておりますから」


 ピタッと俺に寄り添ってくるヤエ。……さり気なく胸を当てるのはやめような。


 そんなヤエの様子を見て、女帝が驚愕きょうがくの表情を浮かべる。


「凶剣が、収まる鞘を見出しただと……? このような男が……?」


 愕然がくぜんとしたままこちらを見つめる女帝。


……さて、早々に終わらせるとしようか。


 商人を演じるために下げていた武勇を、再び高める。

 全盛期の女帝と同じ数値――99へと。


 途端、変化は劇的だった。


「……ッッ!! こ、これ、は……」


 女帝が限界まで目を見開き、引きつった声を発する。


「ゆ、ユミル……なのか?」


 同席していたリンファも困惑の表情になるが、そちらは今は置いておく。


 「お、ぉお……この力の波動……このような力の持ち主が、ヤエ以外に……それも男で、存在したとは……」


 感極まったような声。

 女帝はすぐに悔恨かいこんの色を浮かべ、口惜しそうに言葉を続ける。


「このような傑物の男と同じ時代に生まれながら、何故……せめてあと五年、早く出会っておれば……」


 女帝は何よりも力を尊ぶので、対面さえ出来れば好かれる事は分かっていた。


 とは言え、問題はここからだ。


 原作の設定を踏まえるなら、女帝が見せる反応は恐らく……。




()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……!」




 激しく歯ぎしりをして、心底から悔しげにする女帝。


 そう――女帝は優れた種で子を産み、要職につける事で帝国を発展させてきた、まさに女傑なのである。


「あらあら、主様と相互愛情なく交わる事は、このわたくしめが許しませんよ?」

「くく、妾が病に倒れておらねばこのような若造、容易く籠絡ろうらくしてくれるわ」

「主様を誘惑するなど、神仙しんせんであっても無理な事でございます」


 少女時代の女帝の立ち絵がストライクゾーンど真ん中だった事は、そっと胸の内に秘めておこう。


「ユミルよ、我が娘たちをはらませてみんか? 貴様の種と皇族の血脈で最強の帝国が出来るぞ」

「私には妻たちがおります」

「種だけ残していけばよい。妾の娘たちは皆、美しいぞ。生娘も、夫帯者も、未亡人も、選り取り見取りよ。貴様なら好きなだけ種付けしていって構わん」

「愛なく子を産む事は、教義に反します」

「むぅ……宗教観の違いか。それは、どうにも出来んな」


……ふぅ。よし、乗り切った。


 メンショウ帝国の貴族階級は、女尊男卑の風潮が強い。


 男は種だけ提供しお払い箱、生まれた子は幼い頃から英才教育を施される。


 仮に俺がハッスルしたとしても、帝国が強くなるだけで禍根かこんにしかならないのである。


「まぁ、よい。いや、よくはないが……無理を通してヤエに暴れられては敵わん」

「はい。主様とわたくしめが、メンショウ帝国の為に力を尽くす。それだけで十分で御座いましょう」


 深々とため息を吐いた後、女帝はリンファへと眼差しを向ける。


「リンファよ。これほどの傑物を見出した事、大義であった。流石はリュウ家の娘」

「ハッ! 勿体なき御言葉に御座います!」

「妾の名において、ユミルとヤエに帝城内を自由に出入りする権利を与える。ユミルに関しては皇族専用区画の出入りも許す。その旨、周知させよ」

「承知いたしました!」


 片膝をつき、頭を垂れて返答したリンファ。やがて彼女は、チラリと俺の方を見る。


 手の届かぬ場所に行ってしまった、恋しい男を想うような眼差し――。


 そんなリンファの表情を見て、さてどう接するべきか、と。心の中で腕を組むのだった。

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