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第83話 六人目の嫁

「神々が地上を去り、残された技術を元に文明を発展させた第二の時代。その時代には、今よりも高度な力が溢れておりました」

「それを知るという事は、お主は探索者か」


 探索者トレジャーハンター、それは遺跡を探索する者たちの総称だ。


 原作の説明いわく、“一等の宝くじに当たるくらいの確率で貴重な品を発見し、ひと財産を築く者がいる”……との事だ。


「はい。各地の遺跡を探索しつつ、行く先々で人々を助けております」

「それが襲撃者とどのように繋がる?」

「第二の時代の遺産を用いて、世に混乱をもたらす組織……その構成員である可能性が高いかと」

「黒翼の者共か……」


 聖王母の言う黒翼の者共は、“黒翼の女帝”率いるテロ組織だ。


 “魔獣たちの姫君”、“山賊女王”と同様のお邪魔イベント要員である。


「流石は聖王母様。ご存知でしたか」

「城塞都市を単騎で落としかねない実力者が所属している……のみならず、大陸西部にまで活動の手を広げている、か。由々しき事態であるな」

「はい。個人的にも因縁がある為、引き続き調査を進める所存です」


 俺の言葉を聞いたスノリエが、「えっ……」と驚きの声をあげる。


「それじゃあ、先輩……遠くに行っちゃうの……?」


 涙目になり寂しげな表情を浮かべるスノリエ。


 頭を撫でながら、安心させるように告げる。


「通信結晶で連絡は取り合うようにするし、定期的に戻るようにするから、行かせてくれ」

「うぅ……でもぉ……」

「お前が本当に困った時や戦いにおもむく時は、駆けつけるさ。活動範囲も、ひとまずは大陸南部に留めるよ」


 告げておでこにキスをすれば、スノリエの顔がボンッと真っ赤になり、こくこくという頷きが返ってきた。


 そんな俺たちを見て、聖王母が微笑みを浮かべる。


「聖王国は本当に良き縁に恵まれた……。そういう事であれば、ヴァッサゴ殿。支援は惜しまぬゆえ、必要なものがあればいつでも言ってほしい」

「ありがたき幸せにございます」


 こうして俺は聖王国の中枢に食い込む事に成功した。


 聖王母からの信頼も得られたし、魔石の毒素も信じさせる事も出来るだろう。


 さて次はどこの国に行くか……そんな事を考えていた俺は、すっかり気が緩んでいた。


「ねぇ、先輩……お別れの前に、ボクの中に先輩を刻みつけてほしいんだ」


 王城に用意された客室が二人用だったのも、影響したのだろう。


「ボク、先輩に恋しちゃったみたい。先輩がいない人生は、もう考えられないや」


 俺はスノリエに押し倒され、馬乗りされていた。


「スノリエ……」


 見上げた先にあるのは、恋しさに蕩けた色っぽい表情。


 純朴な顔立ちのスノリエがそんな表情をするものだから、ギャップが凄まじい。


 色気を感じてしまえば、シスター服に包まれた双丘やスリットから覗く太股にも目線が行きそうになり――慌てて智略を上げる。


「むぅ……先輩、ボクの事を女の子として意識してないよね?」

「そんな事ないぞ。スノリエは可愛い女の子だ」

「えへへ、じゃあ良いよね、先輩。ボクもう耐えられないんだ……」


 そう言ってスノリエがシスター服を脱ごうとしたので、ガシッとその肩を掴む。


「二つ言わせてくれ、スノリエ」

「な、何っ?」

「仮にそういう行為をするとしても、安易に脱ぐのは良くない。良くないぞ」

「そ、そうなの? ご、ごめんね。ボク、初めてだから作法とか良く分からなくて……」


 一息入れたあと、言葉を続ける。


「そして二つ目だが……俺には妻たちがいるんだ」

「……っ!?」


 ヴァッサゴとして、ユミリシスとは異なる愛を重ねる事も考えた。だが、それは違う気がした。


 今はまだ本当の名前を告げる事は出来ないが、それでも愛に関しては偽りたくなかったから、正直に告げる。


「結婚したからにはみんなを背負う覚悟があるし、一人ひとりと向き合うって決めてる。だから……お前だけの男にはなれない」

「そっか。……ボクは良いよ、それでも。だって、ボクには先輩しかいないから」


 それは、重たい言葉だった。とてもとても重たい言葉だった。


 だけど、背負いたいと思う重みだった。


「分かった。落ち着いたら結婚しよう。その時には、俺が隠している事も言えると思う」

「そっか。実はボクも先輩に隠してる事があるから、お揃いだね」


 それは恐らくもう一つの人格の事だろう。彼女が“自らに宿った神”と信じて疑っていない存在。


……いつかもう一人の彼女とも話したいと思うが、ともあれ。


「それと、行為をするのは結婚してからにしたい。良いか?」

「うん……えへへ。本当は、結婚前の性交渉は許されてないから……正直に言うと、ホッとしちゃった」


 信仰心の厚い彼女が、教義に逆らってまで迫ってきた……その心に思いを馳せて、胸が切なくなる。


「ごめんな、スノリエ。ありがとう」

「ボクってば、出来る女だからね。でも……キスは、してみたいな」

「ああ、もちろんだ」


 瞳を閉じて、受け入れる態勢になる。


 ほどなくして、


「んっ……♡」


 チュッと唇に柔らかい感触が触れて、俺たちは互いの想いを伝えあった。


――そして一日を贅沢に使い、スノリエと聖都巡りをした翌日。


 ヴァッサーブラット領に帰還した俺は、嫁たちと過ごした後、再び空の旅へ。


 次は、翼を持つ騎士たちの国――クロスエンド共和国だ。

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