第80話 不死身の聖女、攻略完了
音もなく踏み込んできたヤエの斬撃をガントレットで打ち落とす。
だが斬撃は打ち落とされた先から軌跡を変える。速度を増して襲い掛かってくる。
幾度も響き渡る激突音、乱れ散る火花、閃く無数の軌跡。
互いの速度はもはや、達人クラスの武官でも追えぬ域に達していた。
「わ、わわ……」
スノリエはその速さについて来る事が出来ず、杖を持ったまま硬直している。
ヤエはそんなスノリエを無視し、ひたすら俺に白刃を浴びせていた。
「さあさあさあ、もっと舞ってくださいませ――!」
「チッ……!」
舌打ちの演技を入れつつ、劣勢を演じる。
演じると言っても、武勇を下げた状態なので拳が追いつかず、裂傷が増え始めているが。
「スノリエ、治癒を頼む!」
「あ、う、うん!」
スノリエが杖を掲げれば、身体に走り始めた裂傷が癒えていく。
だが、その回復速度より斬撃の方が遥かに速い。
「だ、ダメだよっ。ボクの治癒じゃ追いつけない……!」
悲鳴にも似た声を上げるスノリエの眼前で、裂傷が加速度的に増えていく。血飛沫が吹き出し、辺りを血で染めていく。
「あらあら、微力ではありますが……それでもその回復がある限り、終わりは遠いですか」
一際強烈な斬撃で俺の拳を弾いた後、ヤエがスノリエに向けて地を蹴り、刃を振りかざす。
「ぁ……」
当然、スノリエにその刃を防げる訳もなく。
ヤエの刃が、割って入った俺の身体を深く斬り裂いた。
「……っ」
余りにも鮮やかな斬撃は、最初、痛みすらなかった。
だが、吹き出す鮮血を認識した瞬間――灼熱のような痛みが全身を襲った。
「せ、先輩ッ!? あ、あぁ……」
倒れ込む視界に映るのは、絶望的な表情をしたスノリエと、そして……。
狐面の奥の瞳を、激しい動揺と恐怖で染めたヤエの眼差しだった。
……ヤエも、そんな顔をするん、だな。
意識が遠のきかけた、まさにその時。
「やだ……っ。やだやだっ、やだよっ! 先輩、先輩、先輩……っ。あ、ぁあ、あぁぁぁぁぁぁ―――――――ッ!!」
天を衝くような悲嘆の叫びと同時に、スノリエの身体から強烈な蒼光が迸った。
「ッ!?」
咄嗟にヤエが飛び退くと同時、俺の身体が一瞬で再生する。
「ぅ……俺、は……」
「先輩ッ! 先輩先輩先輩ッ!!」
嬉し涙をあふれさせたスノリエが、ぎゅうっと強く抱きしめてきた。
「はは……凄いな、スノリエ。これがお前の本当の力か」
「ぼ、ボク、無我夢中で……」
無事に覚醒してくれて良かった。
覚醒しなければ、指輪の第三効果を発動するハメになっていただろう。
「……先輩は、休んでて。アイツはボクが倒す」
涙を拭いながら立ち上がり、ヤエを睨みつけるスノリエ。全身から放たれる蒼光が勢いを増す。
「……、あらあら。あらあらあら。素晴らしい力です」
そんなスノリエを見たヤエは、歓喜に声を震わせながら長剣で居合の構えを取る。
一方のスノリエも杖を構えて、大地を蹴って突撃――速い!
それは、先ほどまでの俺に匹敵する速さ。スノリエの強さは異次元の進化を遂げていた。
だがヤエはその上を行く。
「――!」
間合いに入った瞬間、抜剣。
スノリエの胴体が、真っ二つに切断された。
そして。
切断された身体が即座にくっついて再生し、杖の一撃がヤエに叩き込まれた。
「……現実で見ると、凄い光景だな」
生きてさえいればあらゆる傷を瞬時に直せる【聖女の奇跡】。
そのスキルは対象が自身の場合、無限の自動蘇生として機能する。
「ジャンルがストラテジーじゃなければ、間違いなく公式チートだよな」
何度斬られても立ち上がるスノリエ。
自分の方が圧倒的に強いのに、殺せない相手――そんな相手を前に、流石のヤエもこれ以上は無駄と判断したのだろう。
「今日の所は、ここまでにしておきましょう」
「逃げるの!? ボクと戦え! お前がフラフラになるまで殴り続けてやる!」
スノリエの言葉を聞いたヤエは、興奮で身体を震わせる。
「ふふふ、倒せぬ相手と出会えば帰還せよ、とのご命令ですので。その無限を断つ一撃を見出した先で、またお会いしましょう」
そう言い残し、ヤエが立ち去ると同時に、スノリエがヘナヘナと地面に座り込む。
「はあぁ……つ、疲れたぁ」
「お疲れ様だ、スノリエ。凄まじかったな」
無限に蘇生しようと精神的な疲労はどうにもならない。
ヘロヘロなスノリエの身体を支えると、そのままギュッと抱きつかれる。
「えへへ……あー、ボク今、先輩成分を補充してる……」
「はは、なんだそれ」
「先輩さえいれば、ボクはいつまでも、いつまででも戦い続けられる気がする……。これからもボクの隣で支えてね、先輩」
原作では聞いた事のない、“俺”への想いにあふれた言葉。
俺なりの接し方で、スノリエの新しい一面を引き出す事が出来た――その事実が、無性に嬉しかった。




