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第78話 右手に最強の剣士、左手に最強の忍者

 ヴァッサーブラット領に帰還した後、執務室にヤエとネコミを呼び出した。


 ちなみに、俺の後ろにはいつも通りアイルが控えている。


「――という事で、魔石には毒素があるという話を有力国に広めたいんだ」

「あらあら、なるほど。わたくしめを呼んだのは、メンショウ帝国でその話を広める為ですね」


 ヤエの言葉に頷きを返しつつ、「ただ……」と言葉を繋げる。


「メンショウは軍団壊滅の影響もあるから、当面は忙しすぎて取り合ってもらえないだろう」

「ではしばらくは待機でございますね」

「いや、その間にやって欲しい事があるんだ」

「……? 承知しました」


 続いてネコミの方に向き直る。


「ネコミにはフソウで噂を流す為、工作を進めてほしい。フソウの忍びたちを掻い潜りながらになるが、出来るか?」

「それは余裕でござるが……ネーベル王国の方はどうするでござる?」


 その言葉に頼もしさを感じつつ、アイルに声を掛ける。


「ウルカをリーダーにした諜報部隊、そろそろ形になっているよな?」

「形にはなりましたが、経験が不足している感じですねー」

「ああ、だから対ネーベルをネコミから引き継いで、経験を積んでもらう」


 諜報部隊のレベリングが出来て一石二鳥である。


「という事で、ネコミ。まず俺とヤエが怪鳥さんで移動するから、怪鳥さんが帰ってきたらフソウに向かってくれ」

「承知の助でござるよ」

「で、その時にこいつを誰にも見つからない場所に設置してほしい」


 第二効果で転移装置を作り、片方を執務室に設置し、もう片方をネコミに持たせる。


「随分と大きいでござるな」

「鏡の部分には触れるなよ。溶けるから」


 ネコミがギョッとした表情を浮かべながら、恐る恐る忍法で収納する。


「それで、主様とわたくしめは何処に?」

「大陸南西部の中規模国家、デメルグに向かう」

「でめるぐ……その国で一体何を?」

「作戦は、こうだ。まずは――」


 俺の作戦を聞き終えたヤエは、楽しげな表情を浮かべた後、疑問符を浮かべる。


「それを成すには、わたくしめも変装すべきでは?」

「ああ、兼ねてからニミュエに頼んでおいたモノがある。アイル、ニミュエを呼んで来てくれ」

「かしこまりです!」


 そうして執務室にやってきたニミュエは、分かっていると言うように頷き、テーブルの上に首飾りを置いた。


「つい先ほど完成した……遅くなって申し訳ない」

「いや、無理を言ったのはこっちだ。十分早いよ、ありがとな」


 頭の両サイドに揺れる輪っかヘアーを崩さないよう、頭を撫でる。


 するとニミュエは、クールな顔に恥ずかしそうな色を浮かべた。


「子供のように扱うのは……やめてほしい……」

「っと、すまない」

「ん、良い……気持ち良かった。でも……褒めるなら、手を撫でてほしい」

「手を?」


 差し出された手を両手で包んで撫でれば、ニミュエが浮かべるのは幸せそうな顔。


「手は……私の誇りだから。……それを労り、慈しんでもらえるのが……一番嬉しい」

「そっか。じゃあ、日頃のお礼も込めて、いっぱい撫でてやるぞ」

「あっ、ん……っ♡」


 という事で、俺はたっぷりと日頃の感謝を伝えるのだった。


 ……ネコミ、その“ウチは何を見せられているでござる”、みたいな眼差しはやめてくれ。気恥ずかしくなるから。


「ええと……ところで、わたくしめはこの首飾りをどうすれば?」

「っと、そうだな。ニミュエ、説明してくれ」

「この首飾りは……認識阻害の力を持つ他、事前に設定した外観を呼び出す事が……出来る」

「つまり主様のように、即座に変装をする事が出来ると?」

「ん……そういう事」


 この装身具があれば、ヤエの弱点である知名度の高さを打ち消し、今まで以上に自由に動いてもらえる。


 しげしげと首飾りを眺めたのち、ヤエは手を合わせて微笑んだ。


「ふふ、主様に首輪を頂いてしまいました」

「その言い方は怪しい雰囲気になるからやめような?」


 そんなやり取りを聞いていたネコミが、ずいっと近づいてくる。


「ヤエ殿だけズルいでござる! ウチも御館様からの贈り物が欲しいでござる!」

「分かった分かった、何か考えておくから」

「御館様、ウチの扱いが日に日に雑になってるでござるな?」

「そうじゃないんだが……」


 最近とくに距離感が近くて、どうしても異性として意識してしまう、というのが正直な所だった。


「逆にネコミはどんな機能の武具が欲しいんだ?」

「そう言われると困るでござるな……御館様から貰える物なら何でも嬉しいでござるよ」


……そういう所だぞ、全く。お前の事を好きになったらどうしてくれるんだ。


「そうだな……ネコミは忍法で何でも出来るから、基礎能力を高める事に特化した装身具を作ってもらうか」


 ゲーム的に言えば、特殊効果を持たない代わりに全能力値をアップさせる装備だ。


「おおお、良いでござるなそれ!」

「って事で、作れるか? ニミュエ」


 俺の言葉を聞くと、ニミュエがグッと親指を立ててサムズアップする。


「余裕……任せて」


 さて、話も纏まった所で――。


「それじゃあ、アイル。行ってくる、留守を頼んだ」

「かしこまりです!」


 未来の聖女に、会いに行くとしよう。

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