第77話 魔女の献策をより良い形に直して実現を目指す
俺の話を聞いたヴィブラレットは、俄然興味が湧いたようだ。
「ユキノって子の受けた実験って、神の血を投与して、その力を付与する為のものなんですよぉ」
「神……か」
この世界の神は、正確には神族という名称で、人間やエルフ、ドワーフなどと同じような“種族”にカテゴライズされる。
ただし生きた時代が第一の時代で、その活躍は今の時代において神話として語られている。
「でぇ、ここからは推測なんですけど、ヤエって人の力って神殺しの属性を帯びてるんじゃないでしょうかぁ」
……確かに原作のテキストでは、“その一撃、神をも断つ刃”と書かれていたな。
「つまり、ユキノの中に宿る神の力がヤエの神殺しの力に反応した、って事か」
「そういう事ですねぇ。だから治療とか無理なので、ユキノって子が恐怖を克服するしかないですぅ」
どう克服するか、という問題はあるものの、ひとまずユキノの安全が確認出来てホッとする。
「他に何か、ユキノの身体で気をつけておく事はあるか?」
「んぅー? 強いて言えば、神以外に魔獣の血も混ざっていますからぁ。夜の営みは激しくなると思いますぅ」
「そ、そうなのか……」
「はいぃ。とってもエッチに乱れると思いますぅ」
「その付け足しはいらないよな!?」
ユキノのそんな姿を妄想してしまい、再び明鏡止水を発動したのはここだけの話だ。
「ちなみに、この研究施設って残ってますぅ?」
「いや、焼き払ったな」
頭に血が昇っていたとは言え、もう少し慎重になるべきだったかもしれない。
「あぁ……まぁ神の血は使い切ってたみたいですし、気にしなくて良いですよぉ。ただ、もし神の血をどこかで手に入れたら持ってきてくださいぃ。面白いモノが作れると思いますからぁ」
神族は既にこの大陸に存在しないはずだが、果たしてどこから血を入手したのだろうか。
「一つ謎が増えたな……フソウに関わる中で調べてみるか」
「あ、フソウに行くならお菓子をお土産に買ってきてくださいぃ。昔食べて凄く美味しかったんですよぉ」
「上品でしつこくなくて、美味いよな」
「そうなんですよぉ! まさにそうなんですよぉ! ユミリシス様、そのへんも話せるんですねぇ」
またしてもヴィブラレットの好感度が上がったらしい。……襲われないように気をつけよう、うん。
そんな会話を経てヴィブラレットの元を立ち去った俺は、続いてリリスリアの元を訪れていた。
「来てくれて嬉しいわ。ゆっくりしていって頂戴ね」
場所はリリスリアの私室。お洒落なテーブルを挟み、向かい合う。
眼の前にはグラスに注がれた香り高いワインと、露出度の低い瀟洒な装いのリリスリア。
「あら、私の服が気になるかしら?」
「リリスリアと言えば露出度が高いイメージがあるからな」
「興奮させてしまうとその分、抑制に力を割いてしまうでしょう? それで貴方に負担を掛けるのは本意ではないもの」
思わぬ気遣いに感動してしまった。ステータスを覗けば、【誘惑・Lv5】のスキルもオフ状態になっている。
「それに……今はもう、誰かを誘惑する必要はないもの」
「そうなのか?」
「自分の全てを捧げたい人を見つけたから」
真っ直ぐに俺を見て、ふんわりと微笑むリリスリア。
見た目もスキルも関係ない、素のままの彼女にドキッとさせられた。
「それじゃあ、貴方の為の話をしましょう。……これから、世界中で魔石が採掘されるようになるのよね?」
「ああ。各国が復興に取り組む中で魔石が発掘される。そして万能資源である事が分かって、やがてそれを巡り争いが起きる」
金儲けの為にその戦争を煽るのが、魔石を元にさらなる飛躍を遂げた魔導都市の支配者、リリスリア・グランデール。
それが原作の展開なのだが――。
「つまりその争いが起きないよう、国家間の動きに干渉する必要があるという事ね」
「出来るのか?」
「魔導都市の名前で、魔石が危険なモノであると声明を出しましょう。そうね、魔石は毒素を含む可能性がある……なんていうのは、どうかしら?」
実に頼もしい話だった。事実、効果は絶大だろう。とは言え――。
「それでも研究するやつは後を絶たないだろうし、その過程で嘘だとバレたら今度は魔導都市の信用に傷がつくぞ」
リリスリアが、ゾッとするほど嫣然とした笑みを浮かべた。
「魔女というのは、嘘に魔法を掛けて真実に変える生き物なの」
ワイングラスを揺らしながら、魔女が告げる。
「魔石に反応する毒素を、各国にバラ撒きましょう」
「それは流石にダメだ」
とっさに出た言葉を聞き、リリスリアがきょとんとした表情になる。
「なるほど、これは許せない事なのね」
「無辜の民を巻き込むようなやり方はしたくない」
それに、もっとスマートな手段がある。
「要するに、各国の首脳陣に“魔石には毒素がある”と信じさせれば良いんだろ?」
「宛があるのね……ふふっ、本当に貴方はいつも私の想像を超えていくわね。それでこそ私の神さまよ」
信仰を宿した眼差しを受けながら脳裏に浮かべるのは、原作ヒロインたちの姿。
そして、ヤエとネコミにも少しばかり力を借りるとしよう。




