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第70話 おや、巫女姫の様子が……?

 ヒョウカや巫女姫と、異なる時間帯で毎日2時間ほど通話する日々を送る中。


 フソウ国内にいる時間を無駄にしないため、俺は朝早くからキノカを訪れていた。


 領内の雰囲気は暗く、敗戦国の悲惨さが垣間見えて心が引き締まった。


――さて、何故キノカに来たのかと言えば、もちろん感傷にひたる為ではない。


「……ここが実験場か」


 俺が訪れたのは、キノカの地下洞窟内に造られた10m四方ほどの空間。


 様々な拷問器具や、何かしらの薬品が入っている竹筒の山、血で汚れた不潔そうなベッド、他にも醜悪なモノ多数。


 そんな陰惨いんさんな光景が広がる研究室に、足を踏み入れる。


「な、なんだ貴様は!!」


 白衣を着た鬼人族が俺を見て動揺を露わにする。


 武者鎧を纏って闇のオーラを放っているから、余計に恐ろしく感じる事だろう。


 ここは、ユキノを戦闘兵器へと変えた実験場。


 フソウに接収されたのち、皇の主導で新たな戦闘兵器が生まれる場所。


「我、月神の使いなり。貴様の非道、成敗す」


 研究所を制圧し、脅し、他に施設がない事を確認。その後、念の為に資料を回収しつつ施設を焼き払った。


「思いの外早く見つかったな……よし。今の時点で潰せるフラグ、回収出来るフラグは処理していくか」


 という事で、俺は月神の名前を便利に使い倒してフソウ巡りを敢行。


 今の時点で入手可能な様々なアイテムや情報を手に入れるのだった。


――ヒョウカとの通話の日々が終わりを迎えたのは、そんなフソウ巡りを終えた頃だった。


 それはつまり、カフカス崩壊が目前に迫っているという事でもあり。


 その状況を最大限に利用する為、俺は再び巫女姫に会いに来ていた。


「よっと……こうして直接会うのは、十日ぶりくらいか?」

「シス様……!」


 天守閣の最上階にやって来た俺に駆け寄り、ギュッと抱きついてくる巫女姫。


 むにゅぅっと形を変える膨らみを見て、武者鎧を脱ぎたくなる気持ちをグッとこらえる。


 明鏡止水、明鏡止水……。


「シス様のお声を聞く日々も楽しかったですが……やはりこうしてお会いする歓びには敵いません」


 頭をポンポンと撫でれば、巫女姫は頬を朱に染めて、心地良さそうに目を細める。


 そんな彼女の肩に手を置き、真剣な口調で語りかける。


「今日は巫女姫に大切な話があって来たんだ」

「大切な話、ですか……?」

「月神からの言葉を預かってきた」

「……っ!」


 ハッと息を呑む巫女姫に対し、俺は一つの言葉を告げる。


「“そなたが皇となり、この国を導く女皇となれ”……それが月神からの託宣たくせんだ」


 巫女姫は唖然あぜんとした表情になったあと、ひどく慌てた態度を取る。


「そ、そのような事、出来ません! わ、私が皇などと……私にはまつりごとなど分かりませんし、そもそも制度的にも無理で……」

「ああ、やるならクーデターって形になるだろうな」

「……っ」


 悲鳴を抑えるように口元に手を当てる巫女姫。

 そんな彼女に向けて、言葉を続ける。


「俺も月神に賛成だ。今の皇は、随分な悪徳を働いているみたいじゃないか。民たちも巫女姫を支持してる」

「それは、それは……ですが……」

「巫女姫も、今の皇の治世に問題がある事は分かっているはずだ。俺も出来る限り協力する」

「シス様が……私に力を……?」


 統率と政治を高めて、力強く頷きを返す。

 これで了承してくれれば話は早いが、


「で、出来ません……っ。そのような事、私には……」


……やっぱりそうなるよな。


 巫女姫が現在の皇を廃し、女皇になるまでの道を描く前半パート。


 女皇になった巫女姫が立派な為政者になるまでを描く後半パート。


 それがフソウルートの構成だが、とにかく前半パートは巫女姫が優柔不断で、やきもきする展開が多い。


 ここ十日間の通話でかなり親密になったが、やはりまだ足りないらしい。


「巫女姫が決断出来ないなら仕方ないが、苦痛を背負うのは誰だと思う?」

「え……?」

「民たちだ。――あの男が皇である限り、フソウが破滅し、民が苦しむ未来が待っている。それが月神が俺に見せた未来だ」


 巫女姫の顔面が蒼白になる。


「う、嘘です、そのような事……」

「月神の言葉を疑うのか?」

「っ、い、いえ、ですが……」


 俺への信頼も神への信仰もあるが、不安と恐れから“月神の言葉が嘘だ”と思いたいのだろう。


 だから、月神の力を信じさせて退路を断つ。


「……、実は、月神が俺に見せた未来がもう一つある。人の身にはどうにも出来ない事だが」

「そ、それは一体……」

「もうすぐ世界全土に大揺れが発生する」

「!?」

「そうなった時、今の皇がどこまで的確に復興出来るか……でも、それは序の口だ。お前が皇にならないと、遠い未来でさらに悲惨な末路が待っている」


 実際、原作にも“巫女姫が皇にならねばフソウは破滅していただろう”というモノローグがある。


「でも、これだけ言葉を重ねてもお前は決められないんだろうな」

「そ、それは、ですが、ですが……」


 今にも泣き出しそうな表情。

 追いつめ過ぎたかもしれないが、決断が早くなればなるほど良い。


 俺にとっても、フソウにとっても、そして巫女姫自身にとっても。


「しばらく連絡を取るのはやめよう」


 背中を向けて、別れを告げるように言葉を続ける。


「巫女姫が月神の見せる未来を、託宣を信じて未来に進めるようになったら連絡してくれ」

「ま、待ってくださ――」


 武勇を跳ね上げて、瞬時にその場から移動する。これでフッと姿が消えた風を装えるだろう。


……俺に出来る事は、やった。あとは彼女の決断を待つだけだ。頑張ってくれ、巫女姫。


 振り向く事なく怪鳥さんに乗った俺は、そのままカフカスでルリを拾い、ヴァッサーブラット領に向かうのだった。

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