第61話 一人の超人に頼る国は脆い、という実例
実際に魔石を見て創作意欲が爆発したらしく、地面に式を書き始めようとしたヴィブラレット。
ルリが鉛筆と大量の紙を押しつけ、ヴィブラレットを簡易ハウスに叩き込む姿を見届けてから、いったんヴァッサーブラット領へ。
そしてメラニペやウルカと交流しつつ、サッと書類に目を通し、今度こそフソウへ飛ぶ。
「悪いな、怪鳥さん。行ったり来たり」
「Kueeeeee!!」
怪鳥さんは、気にすんじゃねぇよ旦那、とでも言わんばかりに嘶くのだった。
それから数日間の旅を経て、ついでにとある物をフソウで購入し――俺は、キノカの国境線付近に到着した。
「戦いは……ギリギリまだ始まってないか」
怪鳥さんの背に立ち、上空から眺める視線の先。既にフソウとキノカが布陣を終えて睨み合っている。
「さて……」
武勇を高めて視力を強化し、それぞれの軍団の陣容を確認していく。
フソウ陣営で目を引くのは、やはり軍団最後列の移動式櫓に立っている巫女姫だろう。
烏の濡羽色の長髪をひとつ結びにし、緋袴に白色の衣を纏った巫女。
女性の中では高めの身長。スラリとした立ち姿ながら、出る所はしっかり出ている……というより、とても大きい。
神が手ずから作った人形めいた顔立ち、そこに含まれる憂いは、これから始まる戦いに胸を痛めているからだろうか。
「そして兵力は、と」
概算だが、数だけで言えばフソウの側が三倍以上。
キノカは鬼人族の国だから、一般兵の基礎スペックが高いので単純な数だけでは測れないが……やっぱりこのくらいの兵力差になるよな。
「そこに戦術級武官の数の差も加われば、普通はフソウの勝ちだよな。戦略級の巫女姫もいるし」
――キノカ側に、切り札がいなければの話だが。
「……いた」
キノカの布陣、その最前列に立つ人物。
白地に青ラインの入ったミニスカ着物を纏う、小柄な少女。
髪色は、深々と降り積もる雪を思わせる白。
大気の流れに沿って靡く長髪は、まさに風花という言葉が似つかわしい。
歳の頃はウルカよりもさらに幼い。クラーラと同じくらいだろうか。頭から小さく生えた二本角が鬼人族である事を表している。
「――動いた!」
白髪の少女が、弾かれたように駆け出した。風を思わせるような速さでグングンとフソウの布陣に近づいていく。
突然の単騎駆けに戸惑いながらも、フソウの軍勢が弓による一斉射撃を開始。
無数の矢が少女に降り注ぎ、当たる直前、その全てがあらぬ方向へ飛んでいった。
「おお、これが矢返しの理か。凄いな」
少女の一つ目の固有スキル、あらゆる遠隔攻撃を無効化する効果。
その力を見せつけたのち、少女は大地を蹴って飛び上がり――砲弾の如く空を奔り、巫女姫に突撃する。
「来た! 二つ目の固有スキル【夜叉雪】!」
兵力差が三倍以上の場合、敵軍にいる任意のユニットに一騎打ちを挑む事が出来る。
加えて個人戦闘時、二人以上との戦闘で敗北しない。
櫓付近に控えていた武官や翼を持つ武官が、総出で少女を止めようとするが――その全てが少女を透過する。
「そうか、この世界ではそういう形で発現するのか!」
すでに巫女姫との一騎打ちが確定しているから、誰もそこに割り込む事が出来ないのだろう。
そして、統率と魔力は最高峰だが武勇が低い巫女姫に、武勇特化の少女を止められる訳もなく。
障壁を一撃で割り砕いた少女の拳が、そのまま巫女姫を直撃した。
「なるほどな、障壁のお陰でギリギリ生存すると」
巫女姫は明らかな重傷だが、息をしている。命さえあれば回復スキルで徐々に回復していくだろう。
しかし――象徴的存在たる巫女姫が倒れて士気は最悪。
おまけに、巫女姫の負傷で彼女の固有スキル効果も消失。
そこにキノカの軍勢が突撃し、フソウが敗走するという訳だ。
一人の戦略級武将に頼りすぎる脆さが出た戦いと言えるだろう。
「よし、そろそろだな」
白髪の少女が武官たちを蹴り飛ばした光景を見て、動く事にした。
巫女姫に死なれては困る。
「第二能力、開放」
“円環・至聖三者”の第二効果。それは、指輪に“食わせた”あらゆるアイテムを再現する力。
元となるアイテムを消費しておく必要があるが、現在この瞬間に必要なモノを即座に用意出来る。
今回俺が再現したのは、フソウで購入した武者鎧。顔を隠す面付きだ。
再現する際にカラー変更も出来るので、赤から漆黒へと変える。ついでに闇色のオーラも纏う。
「それじゃあ怪鳥さん、行ってくる。指定した場所で待機しておいてくれ」
「Kueee」
頑張ってくだせぇ、と言わんばかりに鳴く怪鳥さんの背から飛び降りる。
一瞬の浮遊感のあと、凄まじい速さで落下して――。
「――そこまでだ。巫女姫は殺させない」
白髪の少女と倒れた巫女姫が向かい合う櫓の上に、衝撃を殺しながら着地した。




