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第59話 それ、マッチポンプって言うんですよ

――メンショウ帝国、カフカス大森林に行軍す。


 その報告がディアモント王国に届いたのは、ちょうど結婚式に伴う諸々の後処理が終わり、一息ついている時だった。


 すでにメンショウの軍勢は国境線を超えているので、カフカス到達までの猶予はそう長くない。


 そこで俺は、最新の世界情勢を確認するため、魔導都市アドラニスタにてリリスリアと面会していた。


「随分と早いのね……」


 目を丸くするリリスリアを見て、そう言えば話していなかったなと思う。


「ああ、実は――」


 メラニペや怪鳥さんの事を伝えれば、返ってくるのは呆気に取られた表情。


 実際、無軌道な事をしている自覚はあった。


「貴方が、世界各国に空を飛んで移動出来るって……それは、ダメじゃないかしら?」

「それくらいしなきゃ、小国の戦力で大国と渡り合うなんて出来ないさ」

「大国ね。もしかして、メンショウ帝国の進軍も貴方の策略かしら?」


 ノータイムでそこに繋がる辺り、やはり頭の回転が早い。


「ああ。もうじきカフカス大森林が崩壊するからな。その崩壊にメンショウ帝国の軍団を巻き込んで壊滅させる」

「……、なるほど、なるほど。……貴方、やっぱり神さまよね?」


 遂に理解する事を放棄したらしい。話が早くて助かる。


「それで、付け入る隙が出来そうな国はあるか?」

「その前に、今の貴方がこの世界をどうしたいのか教えてちょうだい」

「各国に介入して戦争を裏から支配する。ディアモント王国に火の粉が降りかからないようにな」


 俺の言葉を聞いたリリスリアは、何かに納得したような表情になった。


「雰囲気が変わったと思ったけれど……国内を平定して、戦力も整って、他国に干渉する余裕が出来た、と」

「本当に話が早いな」

「ヤエ・シラカワがいて心臓が止まりかけたもの。それに、その指輪。ルリちゃん達の指輪もそうだけれど……それほどのモノを製作可能な鍛冶師を手に入れたのね」


 どうやらネコミの存在はバレていないようだ。流石は忍者。


「ま、この数ヶ月あちこち奔走したからな」

「その言葉で片付けて良いモノではないと思うけれど……ええ、分かったわ。それなら、貴方が何でも出来るという前提で話すわね」


 俺の頷きを確認して、リリスリアが言葉を続ける。


「確定で情勢が動くのはフソウ皇国ね。帝国が大森林を制圧したら、周辺の小国はあっさり呑まれて……そうなったら次に帝国が狙うのは、フソウの同盟国であるミノエナ王国だから」


 つくづくフソウに縁があるな、と思う。だが、それも当然かもしれない。


 原作開始時点で中規模国家から大国に成長している――。


 それはつまり、拡大の余地やポテンシャルがあり、情勢が動きやすいという事なのだから。


「ミノエナ防衛の為に軍団を送りたいフソウは、けれど現在、隣国のキノカ王国と小競り合いの真っ最中」

「つまりキノカを制圧して後顧こうこうれいを断ちたい状況な訳か」

「ええ。ウチから魔法使いを借りる契約もしていて、巫女姫も出陣させるみたい」


 巫女姫――それは、フソウが有する戦略級の逸材。


 固有スキルで軍団の被ダメージを50%カットし、持続回復を付与するため、防御力にバフが掛かる防衛戦において無類の強さを誇っている。


 そして、原作ゲームの二周目以降でフソウを選ぶとルートが開放される、五人いるメインヒロインの内の一人。


「フソウのキノカへの侵攻はいつ頃だ?」

「およそ十日後ね」

「いったん領地に戻る時間くらいはあるか」


 何せこちらは新婚である。スキマ時間があれば少しでも嫁の為に使いたい。


「……その顔、もしかして貴方が直接向かうのかしら」

「ああ、俺にしか出来ない事だからな」


 設定を踏まえるなら、キノカとの戦いで巫女姫が負傷し、フソウは撤退寸前まで追い込まれる。


 正史ではヤエとその弟子たちが参戦し、フソウが逆転勝利を飾るが――当たり前だが、今のフソウにヤエたちはいない。


 だから、人員不足を俺が補う。


「ありがとな、リリスリア。その情報はまさに値千金だった」

「他の国の情勢も後で纏めるから、覚えて帰ってちょうだいね」

「至れり尽くせりだな……」

「貴方の為だもの。私が捧げられるものは全て捧げるわ」


 魔導都市と顧客である各国を平然と裏切るリリスリア。


 その瞳に宿る信仰に、一応の釘を差しておく。


「リリスリアなら平気だと思うけど、バレないようにしてくれよ。お前がリコールされたら俺の計画が壊れる」

「フフ、安心してちょうだい、抜かりはないもの。……ちなみに、一日くらいは滞在出来るかしら?」

「ああ、そのくらいの時間はあるけど、どうした?」

「貴方に紹介したい子がいるの」


――そうしてリリスリアに紹介されたのは、実に意外な人物だった。


「お久しぶりですぅ。その節はありがとうございましたぁ」


 紫髪の三つ編みおさげを揺らす、白衣の女性。ニット生地のセーターの上からでも分かる胸の膨らみ。


 かつて魔導都市に来た時に助けた眼鏡女子が、キラキラと輝く眼差しで俺を見つめていた。

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