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第30話 たとえ重い決断をしようとも、心はしなやかであれ

「では私はこの事を報告してくるよ。外に出ても構わないけれど、食事も用意させるから日が沈むまでには戻ってきてくれると嬉しいね」


 そう言ってリンファが去ったあと、俺とヤエは使用人に導かれ、隣り合った部屋に案内された。


 来賓室なのだろう。御簾みすのついた豪奢ごうしゃなベッドと華やかな調度品が目を引く。足元の絨毯じゅうたんもふかふかだ。


「はあぁ、疲れた……」


 ベッドにダイブしながら安堵あんどの溜息を吐く。


 罠にハメるために友好関係を築き、笑顔の裏で策謀を巡らせる事。


 それがこんなに心に来るものだとは。


「あらあら、主様。お疲れですね。お休みになられますか?」


 部屋に入ってきたヤエが優しく声をかけてくる。


「いや、眠気はないんだ。ただ、思った以上に心労がな……」

「ふふ、周囲に人の気配やまじっくあいてむの感覚はありませんから、安心して下さいませ」

「それは何よりだ。……なぁ、ヤエ」

「はい、何でしょうか」

「俺は、さ。今までも嘘を吐いたり、騙したりした事はあったけど、それが巡り巡って相手にも得になると思ったからそうしてきたんだ」


 利用するからには、相互に利益が出る形にしたいという想いがあった。


「ただ相手を罠にハメて、陥れるだけの嘘っていうのは……覚悟してたけど、結構キツいな」

「主様は不思議ですね。神の如き力を持ちながらも、そのように小さな事に悩むのですから」

「小さい事、か。そうかもしれない」


 大切な人を、領民を、国を背負う。


 そんな器なんて、本当はないのかもしれない。


「だけどさ、守りたいって思ったんだ。失いたくないって。そして俺には、それが出来るだけの力があった」


 どうしてこんな力が宿ったのかは分からない。


 だが、手に入れたからには理想を実現しなければ嘘だろう。


「……、一つ気になったのですが、よろしいですか?」

「どうした?」


 ヤエは、心底不思議だと言わんばかりの表情で続けた。


「何故、主様はリンファにそこまで好意を向けるのでしょうか?」

「えっ? そんなに向けてるか?」

「はい。雰囲気に出ております。わたくしめに対してもそうでしたが……主様にとってリンファは初対面で、しかもいずれ侵攻してくる国の将だというのに、何故そこまで?」


 言われるまで気づかなかったが、心当たりはあった。

 リンファが原作ゲームの登場人物だからだ。


「博愛、というのでしたか。その在り方が主様をわずらわせているように思えてなりません」


 そんな立派なモノではないと思うが……。


 原作でお世話になったから余計に騙すのが辛い、という側面はあるかもしれない。


「立場が違えばリンファは全力で主様を殺しに来ますし、悪辣あくらつな罠に掛ける事もいとわないでしょう。お互い様なのですから、気に病む必要はないかと」

「それは……そうだな」

「ゔぁっさーぶらっと領を、でぃあもんと王国を守る為の正しい行ないですから、胸を張って下さいませ」


 ヤエの言葉を聞いて、心が軽くなった気がした。


「ありがとな、ヤエ」

「いえいえ。わたくしめはアイル様に言われた事を実践しただけですから」

「アイルに?」

「はい。アイル様は、主様が今のように悩まれる事を見抜いておりました。そうなった時、わたくしめから声を掛けてほしいと」


 敵わないな、と思う。


 全くもって素晴らしい秘書官に恵まれたものだ。


「よし、気分転換に外を散歩するか。帝都には色んな観光名所があったはずだし、それを見に行こう」

「あらあら、うふふっ。はい、承知しました」


 そうしてひとしきり帝都の名所巡りを堪能した後、日が沈む頃には豪勢な食事が用意されていた。


 その美味に舌鼓を打ち、食べ終えたあとは部屋でのんびりとリンファの帰宅を待っていたのだが。


 俺とヤエの元に招待状が届いたのは、まさにそんな暇を持て余したタイミングだった。


 差出人の名前はセイ・ヒョウカ。

 メンショウ帝国の文治派筆頭であり、帝国が誇る軍師衆のリーダー。


 そして、今回のメンショウ訪問の二つ目の理由。


「……意外と早かったな」


 胸元のペンダントを弄りながら呟きつつ、ヤエを伴ってヒョウカの屋敷へと向かう。


 訪れた屋敷は、外観こそリンファの屋敷とほぼ同じだったが、柱の衣装が蛇の尾を持った亀。


 内装も、リンファの屋敷に比べると落ち着いた印象を受けた。


「久しぶりね、ヤエ。そしてお前がくだんの商人ね」


 使用人に案内された先の部屋にいたのは、御座ござに座り、高い位置から俺たちを見下ろす少女。


 青みがかった黒髪は、お団子ツインのハーフアップ。


 身にまとうのは、髪色を引き立てるかのような淡い青の襦裙じゅくん


 深い知性を湛える海色の瞳と相まって、例えるなら水辺の乙女と言った所か。


 原作ゲームで五人いるメインヒロインの内の一人であり、二周目以降でメンショウ帝国を選ぶとルートが開放される人物。


 それが、目の前にいるセイ・ヒョウカという女の子だった。

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