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第27話 細工は流々、仕上げを御覧じろ

 明けて翌朝。


 それぞれの形で順応しようとしている三人娘の様子を確認したあと、俺はヤエの部屋に来てにいた。


「……っていうのが、昨日の会議で決まった内容だ」

「あらあら、つまりメンショウ帝国を罠にハメるということですね。その為に、わたくしめが結んだメンショウとの縁を利用すると」

「……、あぁ、そうだ」

「そのような声を出さないでくださいませ。ふふっ、わたくしめが普通の感性であれば、躊躇うのでしょうね」


 ヤエがくすくすと笑いながら俺の手を取り、自らの首を掴ませる。


「ですが、わたくしめはあの瞬間、主様に振るわれる刃となったのです。世界で最も恐ろしく偉大なるモノの剣に。今更何を躊躇うことがありましょうか」


 ヤエなら一も二もなく頷いてくれるだろうと思ってはいたが、告げられた言葉は想像以上に重いものだった。


「世界で最も恐ろしく偉大なるモノ、か……諸国を巡ったヤエが言うと洒落にならないな」

「そうですよ? 神すら斬り殺せると思っておりましたが、実際に出会った神はわたくしめをはるかに超えた存在でした」


 リリスリアも俺のことを神と言っていたが、端から見れば全知全能に見える……のだろうか。


 そのような扱いを受けると未だに首を傾げてしまうが、そう見られているという事実は把握しておくべきだろう。


「では、主様。せっかく二人きりなのですし、刃を磨いて頂けませんか?」

「ああ、分かった。外に出ようか」


 ヤエの鍛錬に付き合った後は、カフカスに向かうルリとメラニペを見送ったのち、領内の視察へ。


 以前から密かに進めていた災害対策用の施策。

 それが順調に進んでいる事を確認しつつ、領民たちと久しぶりの交流を図るのだった。


――潜入に必要な準備が完了したのは、それからしばらく経っての事だった。


 全ての準備を終えた俺とヤエは怪鳥さんに送り届けてもらい、メンショウ帝国の帝都近くにある森を訪れていた。


「さて、どうだヤエ。この見た目」

「これは、風になびく長髪でしょうか。手触りもとてもよいですね。服も、あぁ、なるほど。はい、きっと誰が見ても美しい商人だと思う事でしょう」


 ペタリ、ペタリと俺の髪や服に触れたヤエが感嘆の声を上げる。


 執事長さん直伝の化粧で印象を変更。

 これまた執事長さんの技術とルリの魔法をかけ合わせたウィッグを用意し、美しいロングヘアーを演出。


 さらに嘘や誤魔化しにまつわる政治の能力値を高めておいたので、よほど親しい者でない限りユミリシスとは分からないだろう。


 ちなみにロングヘアにした理由はシンプルだ。


 これから会う人物、ヤエの友は長身長髪フェチなのである。


 そしてもう一つ、と、懐から取り出したペンダントを身につける。


「何かしらの装飾品でございますか?」

「アレキサンドライトキャッツアイ、っていう宝石を加工したペンダントだ」


 口頭の説明だけでこの宝石を手に入れてくれたアイルにも、魔法で希望通りの色と形に加工してくれたルリにも感謝しなければいけない。


 身なりの最終チェックをしたのち、帝都の入口、朱塗りのきらびやかな門前に訪れる。


 すると、二人いる門番の片方が、ヤエを見て愕然がくぜんとした表情を浮かべた。


「あ、貴女様は……!」


 驚きと恐怖の入り混じった叫び声だが、仕方ない。


 何せヤエは、二年前にメンショウで行なわれた御前試合にフラリと出場し、武官を軒並み叩きのめして優勝してしまったのだから。


 あまりにも圧倒的な強さだった為、ほぼ全ての者たちから天災として扱われたらしい。


 そんな彼女の武に心底から惚れ込み、恐れることなくさかずきを交わしたのが友誼ゆうぎを結んだ相手という訳だ。


「我が友、リンファに会いたいのですが、通してもらえますか?」

「も、もちろんでございます! ただいまリンファ様に連絡いたしますので、お好きなように都でくつろいで下さいませ!」


 門番が慌てて駆け出していく。


 残されたもう一人は、ヤエの顔を知らなかったのだろう、最初はきょとんとした表情を浮かべていた。


 だが、駆け去っていった門番の反応を見て、まさか、という表情になって震え始める。


「あらあら、そのように怯えた雰囲気を出さずとも大丈夫ですよ。わたくしめ、力なき者には欠片も興味が湧きませんので」


 このセリフが煽りでも何でもなく、心からの言葉だから苦笑する。


 一方の俺はそんな門番に向けて、ことさら見せつけるように胸元のペンダントを弄っておく。


 上に報告してくれる可能性を少しでも上げるためだ。


「さ、それでは参りましょうか、“ユミルさん”」

「はい。かしこまりました、“ヤエ様”」


 早速俺を偽名で呼ぶヤエに対し、こちらも腰を低くして返答しながら、二人で帝都に足を踏み入れるのだった。

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