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第25話 悪夢の未来を変える為に手段は選ばない

 ルリと共にメラニペたちに合流すると、そこには仲睦まじく談笑している姿があった。


「ソウカ! ユミリシスハ、オ前ホドノ強者ニモ勝ッタノカ!」

「それは見事な圧勝でございました」

「流石ユミリシスダ! ドンナ戦イダッタンダ!?」

「はい、お話いたしましょう。ただし、メラニペ様がご存知の主様の話と交換ということで一つよしなに」

「ヨシナニ? ウム、ヨシナニダ!」


 何やら俺の話題で盛り上がっているらしい。


 メラニペとヤエが主に会話し、それを聞いた三人娘がきゃあきゃあと黄色い声を上げている。


「お、随分ずいぶんと仲良くなったみたいだな」


 話しかけながら輪の中に入って行けば、メラニペが嬉しそうに立ち上がって抱きついてくる。


「ウム! 今ヤエカラ色々ナ話ヲ聞イテイタ! 流石ハ我ガ夫ダ!」

「はい、主様の素晴らしいところを沢山聞かせて頂きました。ルリ様ともじっくりお話をさせて頂きたいですね」

「ええ、アタシもヤエがどんな人か気になるし、もちろん良いわよ。そこの三人も、時間が出来たらゆっくり話しましょ。ただ……」


 ルリがチラリとこちらを見るので、こくんと頷いてから言葉を引き継ぐ。


「作戦会議をする必要が出来たから、怪鳥さんに乗ってすぐにヴァッサーブラット領に戻る。ゆっくり話をするのはそれが終わってからだな」

「ム? ソウナノカ?」

「ああ。メラニペには、キツイ話になるが……それは領主館に戻ってから話そう」


 ルリという明確な論拠をもとに話せる人間がいる以上、カフカスの崩壊について話さない理由がない。


 カフカス崩壊をもとに今後の計画を練る、というのが今回の作戦会議の目的だ。


「怪鳥さんも、そういう事だから到着早々悪いんだが、ヴァッサーブラット領まで飛んでくれるか?」

「Kueeeee!!」


 任せてくれ、とでも言うように鳴く怪鳥さん。


 全員乗せても速度を落とさずに飛ぶ彼のお陰で、1日と掛からずにヴァッサーブラット領に到着。


 そして、ヤエたちを見て毎度の如くはしたない顔を浮かべるアイルを引っ張り、作戦会議が始まった。


「――っていう理由で、カフカス大森林は一年も経たない内に崩壊するわ」


 ルリの説明を聞いたメラニペは愕然がくぜんとした表情になり、アイルは何かを考え込むような仕草を取る。


「ワタシタチノ森ガ……滅ブ……?」

「ええ。……何とか出来れば良かったんだけど、ごめんなさい。どうすることも出来ないの」

「ソレハ……、ソレハ、ユミリシスデモ、ドウニモ出来ナイノカ……?」


 すがるような眼差しと震える声。


 その視線を、声を逃げずに受け止めて頷く。


「ああ、どうにも出来ない。ごめんな、メラニペ」

「ソウカ……デハ、本当ニドウニモ、ナラナイノダナ……」


 悲しみに暮れるメラニペを見て居ても立っても居られず、傍に行って抱きしめる。


「俺にカフカスは救えない。でも、メラニペとそこに住む魔獣たちに出来ることはなんでもする」

「……、ユミリシスハ、暖カイナ。デモ、イツモナラ、ギュットサレルト嬉シイノニ……今ハ、……ッ、ウゥ……」


 それ以上は言葉にならなかったのだろう。


 涙を零しながら、俺の腕の中で嗚咽おえつを漏らす。


 そんなメラニペを抱きしめながら、背中を撫で続けながら、彼女が落ち着くまで寄り添う。


 そしてしばらく経ち、落ち着いたメラニペが「モウ大丈夫ダ……アリガトウ、ユミリシス」と口にする。


 そんな彼女を膝の上に乗せて、席に座る。


「ユ、ユミリシス? ナ、何ヲ……」

「今日は一日、ずっと一緒だ」

「ワ、ワタシハモウ大丈夫ダゾ」

「俺がこうしていたいんだ」

「ッ、ワ、分カッタ……」


 メラニペが恥ずかしそうに頬を染めながら、甘えるように身を預けてくる。


 ルリの方を見やれば、微笑みながらこくんと頷いてくれた。


「さて、と。それじゃあ再開しましょうか。一年あれば移住に関しては問題ないから、侵略が予想される他国の軍団にどう対応するか、っていうのが焦点になると思うの」


 再びルリが口火を切り、話を主導していく。


「上手く移住の時期を調整すれば、既に崩壊したカフカスだけが残るから他国が侵略する意味もなくなる。防衛に時間を割く必要がなくなるから、そのあたりの詳細を詰めることになるかな、って思うんだけど」


 どうかしら、と、ルリがアイルに尋ねる。


「そうですね、その一年後というのは、どのくらい正確に予測出来るのでしょうか」

「時間が経てば精度は高まるわね。一ヶ月前になれば何日後に発生するか分かるし、一週間前なら何時頃に発生するかも分かるわ」


 アイルが驚きを浮かべるが、俺もそこまでの精度とは思わずビックリしてしまった。


「そこまで正確に分かるものなのですね。流石は世界最強にして最高の魔法使いです」

「生産分野だとアタシより凄い人がいるし、最高は名乗れないわ」

「俺からすれば、十分に名乗って良いと思うけどな……」


 何せ現代の日本でも実現していない技術を有してるのだ。


 ルリが最高の女の子であることを差し引いても、最高と言って良いと思う。


「も、もう、話がズレるじゃない。こほんっ、とにかく精度に関しては任せてちょうだい」

「そういうことであれば、作戦も立てやすいですね」

「ン、ワタシニ出来ルコトガアレバ、遠慮ナク言ッテクレ」


 そんな風に魔獣たちの移動経路を考え始めた三人とは裏腹に、俺の中に一つの考えが浮かんでいた。


 ルリがそこまで正確に崩壊のタイミングを測定出来るなら、可能であろう作戦。


 ただ、それは今までのように相互のメリットを引き出すような策略ではない。


 相手を一方的に罠にハメて破滅へ導くような謀略だ。


 外道、と罵られるようなやり方だが……しかし、悪夢を現実にしない為の強力な一手でもあった。


「みんな、聞いてくれ。思いついたことがあるんだ」


 三者三様に首を傾げる彼女たちへ、意を決して一つの提案を投げ入れた。


「――カフカスに大国の軍団をおびき寄せて、崩壊に巻き込んで壊滅させるのはどうだろう」


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