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第17話 作戦名:無能な領主を傀儡化して全権を支配する

――森を見て回った結果、住むのに十分という評価をもらえた。


 ただ、カフカスの魔獣とヴァッサーブラットの魔獣は相性が悪いらしい。


 種族の違いというよりは、民族性の違いという表現が近いだろうか。


 魔獣に対して使う単語ではないが、いわゆる民族紛争が起こる可能性もあるとのことだった。


 さらに大きな問題が一つ。


「将来的な土地不足、か……」

「ウム。我ガ友タチハ人間ホド増エナイガ、ソレデモコノ森ダケデハ手狭ニナルト思ウ」

「ん? だったらヴァッサーブラットの魔獣には、こっちの森林地帯に移ってもらえば良いんじゃない? それで完全に棲み分けちゃえば良い気がするけど」


 ルリが地図を開き、領内の端のほうにある森を指差すが――。


「いや、その森はダメだ。隣の領地に移住の件を話さなきゃいけなくなる」

「話さず内密に済ませる……のは、ダメか。魔獣たちへの攻撃を止める大義名分がなくなっちゃうものね」


 ルリが考え込むようにしながら言葉を続ける。


「でも、一度メラニペの指揮下に組み込んだ魔獣は言いつけを守るんでしょ? だったらその辺りをきちんと説明して、説得しても良いんじゃない?」

「隣の領主は巻き込みたくないんだよな」

「それは、信用出来ないから?」


 それもあるが――。


「こういう言い方は、俺も嫌いなんだが……隣の領主、その、言葉を飾らずに言うと無能なんだ」

「あ、うん、そっか。足を引っ張られたくないって話ね」


 察し、みたいな顔をした後、ルリは思考を繋げるように言葉を続ける。


「ただ、ユミリシスはこれからドンドン多くの人を従えていくわけでしょ? 力を持たない味方の扱いも身につけたほうが良いと思うのよね」

「……それは、確かにそうかもしれないな」


 力のない味方を上手く扱う、か。

 確かに、将来的には必要になる技能かもしれない。


「友タチニモ強イヤツ、弱イヤツ、賢イヤツ、馬鹿ナヤツ、色々イルガ、皆、出来ル事ガアル! ソイツニモ、何カ出来ル事ガアルハズダ!」

「ふむ……」


 隣の領主の顔を思い出してみる。


 野暮ったい見た目で不気味に笑う顔が特徴的な、ちょっと近づきたくないタイプだったはずだ。


 確か先代から領地を受け継いだものの何もかも失敗し、挙句の果てに引きこもっていると聞いている。


「二人がそこまで言うなら、会ってみるか」

「ええ、それが良いと思う。隣の領地を自由に出来るなら、もっと沢山の魔石を採掘することが出来るし」


 それが本音だったのだろう、ルリがウキウキとした表情になる。


「そこまで行くと完全に傀儡化する事になるな」

「力がないのに何かを成そうとするのは、周りにも本人にも不幸しか招かないわよ。地位があるなら尚更」


 実感の伴っている言葉は、学院時代の出来事によるものだろう。


「って言っても、洗脳じみた事は出来ないし、やりたくないぞ」

「アタシだって洗脳魔法は嫌いよ。そうじゃなくて、レーゲンって摂政の時と似たようなものでしょ」

「む……」


 心酔と傀儡化は違う気もするが……試してみるか。


「ま、ダメならその時はその時ね。アタシが良い感じに山を成形して魔獣が住みやすい形に変えてあげる。期間はかかるし、魔石採掘にも遅れが出ちゃうけど」

「ソンナ事ガ出来ルノカ!?」

「ええ。今のアタシなら山を吹き飛ばす事なく、芸術的に魅せる事だって出来るんだから」


 失敗から学び努力出来る天才、だからこそ最強の名をほしいままにしている。


 そんな自負を感じる言葉だった。


……でも、やっぱり今でも山を吹き飛ばした失敗は引きずっているんだな。


「分かった、やってみようか」

「ユミリシス、コレカラ出掛ケルノカ?」

「いや、流石に明日以降だぞ。連絡なしに訪問は出来ないさ」

「ソウカ! デハ今日ハ宴ダナ!」

「良いじゃない、やりましょうよ!」


 こうして、その日の夜はメラニペの歓迎会を兼ねたうたげが開かれた。


 ちなみに、メラニペを見たアイルがまたしても女の子がしてはいけないような顔をしていたのはここだけの話だ。


 そして宴会が終わり、夜空に星々が瞬く時間になった頃。


 俺とルリはバルコニーで二人きりの時間を作っていた。


「んーっ、お酒は飲まれない程度に飲むのが一番ね。それで、どうしたの。突然呼び出して」

「メラニペについて、実際の所どう思ってる?」

「ああ、そういう事。言った通りよ。もちろんユミリシスとの二人きりの時間が減るのは残念だけど、相応の財力があればハーレムなんて普通じゃないの。それに……」


 バルコニーの手すりにもたれ掛かったルリは、過去に想いをせるように月を見上げる。


「あんたなら知ってるかもしれないけど、アタシには妹がいたの。……もし妹がいたら、こんな感じだったのかなって。そう思ったら、メラニペの事がとっても可愛く思えちゃって」


 一度言葉を切ったあと、小さく笑みを零す。


 メラニペと過ごした時間を思い返しているのだろうか。


「だから気にしなくて良いっていうか、そんな事を気にするなんて、あんたってばアタシの事好きすぎでしょ」

「好きにもなるさ。こんなに最高の女の子、他にいないだろ」


 前世でガチ恋して今生でも惚れ直したのだから、筋金入りである。


「全くもう……ふふっ。でも、ちゃんとメラニペの事も大切にしなきゃダメよ。泣かせたら許さないんだから」

「ああ、もちろん」


 笑い合う俺たちを、月灯りが見守るように照らしてくれていた。

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