第135話 十三人目の嫁
戦争をなくす為に世界を支配したいと語れば、マロリーはポカンと口を開けた。
俺の持つ力を示せば、実現可能な理想である事を理解し、畏敬の眼差しを向けてきた。
既に大国の中枢を掌握している事を知ると、再び呆気に取られた表情になり……。
俺が大陸西部の小国、その侯爵である事を明かした時には、もはや宇宙猫のような顔になっていた。
「……、……、…………つまり、あなたは神の子なんですねー」
どうやらそれがマロリーの出した結論のようだった。
そしてその結論は、彼女の中で腑に落ちたらしい。
何もかもを納得したような表情になった後、彼女は諦観の溜め息を吐いた。
「もう実質的に世界を支配していますよねー。わたしたちも抗えないですー」
「まだ盤石とは言えないからな。不確定要素は可能なかぎり無くす必要がある」
「つまりこうしてわたしと話しているのも、その一環なんですねー」
「マロリーが大好きで独占したい気持ちも本当だぞ」
「~~~~~~~っ」
頬を真っ赤にしたマロリーは、俯きながら「ううぅ……」と小さく呻く。
ちなみに今の態勢は、執務椅子に座った俺の膝上にマロリーが座っている状態だ。
翼が顔に触れてくすぐったいが、それが愛おしくもある。
「はあぁ……確かに神は“産めよ、増えよ、地に満ちよ”と言ってますけどー……言ってますけどー、ううぅ……」
しばし呻き声を上げていたマロリーが、悔しげな顔になって口を開く。
「同じ事を何人もの女の子に言っていると思うと、複雑ですー」
「ここまで素直に独占欲を話したのはマロリーが初めてだぞ」
「そう……なんですー?」
「他国の人間にここまで事情を話したのもマロリーが初めてだしな」
魔導都市は国家ではないからノーカンという事にしておこう。
「ふふふー。それは悪くない気分ですねー」
満更でもなさそうな笑みを浮かべるマロリーに、言葉をかける。
「もっと言いたい事があれば、遠慮なく言って良いんだぞ。どんな恨み言だって受け止める」
「最初からわたしを恋に堕とす為に近づいたんですかー?」
「正直に言えば、最初は恋愛なんて考えてなかった。理想を果たす中で幸せにしたい、とは思っていたけどな」
だが、原作でヒロインだった彼女たちと触れ合う中で変わった。
「途中から“やっぱり好きだ、誰にも渡したくない”って思って……まぁ、うん、そんな感じだ」
頬が熱くなるのを感じて言葉を切り上げたが、気持ちは伝わったはずだ。
「だったら良いですー。わたしの魅力があなたの考えを変えた、という事ですからー」
安心したように笑うマロリーに向けて、気になっていた疑問をぶつけてみた。
「国を好き放題にしているけど、それは良いのか?」
「良い方向に変わっているのは事実ですからー。それに、“世界から戦争をなくす”というのはクロスエンドの目的とも一致しますー」
クロスエンドの……マロリーの願いは、大陸が平和であり続ける事。
俺のしてきた事が受け入れられずとも、その一点で協力出来ると踏んではいたが――。
「ここまで全面的に受け入れてもらえるとは、正直思っていなかったな」
「あなたは自分が思っているより、ずっとずっと“善”ですよー。そしてその善なる心は、あなたが思う以上に周りに伝わっていますー」
そこまで言われると気恥ずかしさを感じるが、しかし、心が一気に軽くなったのも事実だった。
「一つだけ気になるんですけどー、他の十二の氏族長たちの事は、どうするんですー?」
「どうする、か……」
それは恐らく、彼女たちの好意についてだろう。
「俺の意識としては、教え子って感じなんだけどな……」
「でもー、皆さん機会があればあなたと“そういう事”がしたいと思っていますよー?」
わたしが牽制しているから口に出す事はないですけど、と付け加えるマロリー。
……そんな事もしていたのか。
「告白されたら、好きになる努力をするだろうな」
「はぁ……。生真面目なんですねー。だったらこれからも牽制し続けますー」
やれやれと溜め息を吐いた後、マロリーが膝の上で横座りになり、俺と目を合わせる。
「改めて確認しますけど、わたしは十三番目の婚約者なんですねー?」
「ああ」
「もっと早く告白してくれれば良かったんですけどねー。でも十三という数字は嫌いではないので、よしとしますー」
「そうなのか?」
こくんと頷いたマロリーは、指で1と3を作りながら言葉を続ける。
「第二の時代においては、呪いに打ち勝った席次ですからー」
「そういうものか……」
「という事で、あなたの全てを受け入れます。だから――」
気恥ずかしげに頬を染めたマロリーが、そっと唇を差し出すようにして、瞳を閉じる。
「わたしの全てを、受け取ってくださいー……」
陽光のヴェールにも似た金髪と、白い翼を持つマロリー。
比喩なく天使のように愛らしい姫騎士。
小柄な背中に大きな覚悟を背負った女の子。
「ああ。愛してる。幸せになろう、マロリー」
俺は、そんな彼女の唇にそっと口づけを落とすのだった。




