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第133話 十二人目の嫁

 パンドラは動かせる人員が多ければ多いほど本領を発揮する。


 という事で、魔獣を指揮するメラニペと山賊を指揮するベルミラに引き合わせていた。


 ちなみに場所は領主館の会議室だ。


「ムム……ワタシ達ヲ振リ回シタノガ、ユキノヨリ小サイ子ダッタトハ」

「黒翼の女帝って言うから、てっきり尊大で妖艶な美女かと思ったっすよ」

「ふふっ、褒め言葉として受け取っておくの」


 魔獣たちの姫君、山賊女王、黒翼の女帝――原作でお邪魔キャラだった三人が、楽しげに会話している。


 散々手を焼かされると同時に、鮮烈な印象も残していった三人。


 その彼女たちが、俺と共に歩んでくれている。


 そんな現実に喜びと達成感を抱きながらも、話を進める為に口を開いた。


「で、だ。パンドラ。二人と協力して出来る事、何か思いつくか?」

「わたしに関しては、飛行系の魔獣を一体貸してもらえればそれで良いの。各地に散った信者たちを集めればそれなりの戦力になるの」


 一度言葉を切ったパンドラは、二人に眼差しを向ける。


「そしてわたしが二人に出来る事……それは指揮のやり方を教える事なの」


 メラニペとベルミラが、揃ってきょとんとした表情になる。


「メラニペもベルミラも、まだまだ経験不足なの。より効率的に、より効果的に魔獣を、山賊を指揮する方法を学んでもらうの」


 最初に口を開いたのはメラニペだった。


「我ガ友タチニハ、頭ノ良イヤツモイル! 任セテオケバ問題ナイゾ!」

「友達は相互に助け合うものだと思うの。でも、今のままだと一方的にメラニペが助けられているだけなの」

「ム……ソレハ、ソウカモシレナイ」

「メラニペがもっと上手く彼らに指示を出せるようになれば、彼らの負担も減るし、今より効率的にユミリシスの役に立てるの」

「ソレハ……良イナ!」


 上手い言い回しだな、と思う。

 使役というワードを使わないあたりも配慮が行き届いている。


「ベルミラには帝国式の部隊教育方法を教えるの。これを実戦すればどんなウジ虫も一人前の兵隊なの」

「あ、そういうの嬉しいっすね。全部独学だったんすよ」

「という事で、二人の為にまとめたマニュアルがここにあるの」


 ドンッと二つの紙束を取り出したパンドラは、赤い表紙の方をメラニペに、青い表紙の方をベルミラに渡す。


「ユミリシスが二人に引き合わせる事は視えていたから、まとめておいたの」

「コレハ、凄イナ! ワタシデモ読メルゾ!」

「あー、分かりやすくまとめてあって良いっすね。長々とした文章は読むの苦手だから助かるっす」


 分厚い紙束は、とても一朝一夕でまとめられるものではない。


 それはつまり、逃亡しながら書き上げたという事だ。


「凄いな……」


 思わず呟いた俺に向けて、パンドラが可愛らしくウインクする。


「ユミリシスを攻略する為に頑張ったの」

「そ、そうか……」

「そうなの」


 にこにこと笑うパンドラの言葉に照れ臭くなる。


 そんな俺たちの様子を見て、ベルミラが「むむむ……」と口にする。


「やっぱり領主様に好かれるには、子供体型かおっぱいが大きいか、どっちかじゃなきゃダメっすか」


 途轍とてつもない風評被害だった。


「ベルミラハ、脚ガ凄ク綺麗ダゾ! 羨マシイ!」

「ねー、わたしも羨ましいの。ベルミラほどの美脚はそうはいないの」

「そ、そうっすよね? えへへ、実は密かな自慢なんすよ」


 パーカーから伸びた脚を見せつけるようにするベルミラ。


 実際、彼女のカモシカのような脚はとても魅力的だと思う。原作の彼女のファンにドM が多い理由である。


「ねぇ、ユミリシス。想像してみてほしいの」

「ん? 何をだ?」

「ベルミラのこの太股で、顔を挟まれるの。見えそうで見えなかったパーカーの中身を見つめながら、両頬で太股の柔らかさを感じて、そんな自分を見下される……」

「うっ……」


 パンドラの巧みな語り口に想像をき立てられて、慌てて智略を上げるが――。


「ムッ! ユミリシスガ発情シタゾ!」

「本当っすか!?」


 バッと俺の方を振り向いたベルミラが、ズズイッと近寄ってくる。


「領主様、私の脚で興奮するっすか!?」

「ど、どうしたベルミラ、突然」

「だ、だって……」


 問いかければ、途端に勢いを失くし、寂しげな表情を見せる。


「私はユキノちゃんみたいに可愛らしくないっす。ネコミさんみたいにおっぱいが大きい訳でもないっす」


 その言葉を聞いて、四人でネーベル王国に挑んだ時の事を思い出す。


「領主様がユキノちゃんとネコミさんに向ける眼差し、凄く愛情にあふれてたっす。時間が足りないって言われたら、そうかもしれないっすけど……やっぱり寂しくて」


 口にするたびに声のトーンが落ちていき、やがて悲しげに眼差しを伏せる。


 そんなベルミラを見て、胸が締め付けられた。


「領主様の事を想って、いっぱいシたっす。だけど、満たされなくて……ただでさえ会う機会も少ないのに、どうすれば好きになってもらえるだろうって、そればっかり考えてたっす」


 ベルミラが言い終えた後、パンドラが口を開く。


「待つ事しか出来ないって、辛い事なの」

「……ワタシモ、分カル」


 パンドラの言葉に続いて、メラニペが口を開く。


「初メテ、ユミリシスニ会ッテ、触レ合ッテ……凄ク幸セダッタガ、次ニ会エル日ガ分カラナクテ、寂シカッタ」


 三人の言葉を聞き、心に浮かんだ気持ち。


「そうか……そうだよな」


 目の前で震えるベルミラを、抱きしめたい。


 そう感じるという事は、つまりベルミラの想いに心がノックアウトされたという事だ。


「ぁ――」


 だから、ギュッと抱きしめながら言葉を告げた。


「ありがとな、ベルミラ。そんな顔はもう二度とさせない、約束する」

「――っ。はい……!」


 涙と共に抱きしめ返してきたベルミラの頭を、優しく撫でる。


 そんな俺たちを見て、メラニペは嬉しそうに笑い、パンドラは楽しげな笑みを浮かべるのだった。


 パンドラが何を考えているかは分からないが、悪意は感じないので問題ないだろう。……たぶん。


――こうして、新たに加わった三人の力でヴァッサーブラット領はさらに発展する事になる。

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