第132話 ドライアド、攻略完了
思わぬ攻防を乗り越えた後。
目に見えて元気になったドゥルキスには、魔獣たちと一緒に遺跡の発見に尽力してもらう事になった。
パンドラの元でも遺跡を探索していたらしいが、今の彼女と魔獣たちの力があれば、これまで以上の効率を発揮してくれる事だろう。
そして、サリヌスだが――。
「わああああああ! 花族だああああああ! 珍しいねええええええ!」
「人魚デスか。伝説上の存在……実在したのデスね」
とある考えの元、水妖さんの所に連れて来ていた。
互いに自己紹介を終えた後、水妖さんの胸をジッと見つめたサリヌスは、フッと笑みを浮かべる。
「そういう事デスか。これほどのものを見慣れていては、私が誘惑出来ないのも無理はありマセン」
「いや、そういう事でもないんだけどな」
今日のサリヌスの服装は白のブラウスだが、相変わらずボタンが弾け飛びそうで目に毒だ。
かと言って視線を逸らせば、今度は水妖さんの人外魔境の胸が視界に入る。
我ながらとんでもない状況を作ってしまったが、ネコミがいないだけマシだろう。
「お花さんは王様が好きなのおおおおおお?」
「これほど種が欲しいと思ったヒトは初めてデス。ただ、振られてしまいマシタが」
「ええええええ! 王様ダメだよおおおおおお! 好きには好きで応えるんでしょおおおおおお!」
水妖さんは、どうやら恋バナがしたいお年頃らしい。
……訂正しよう。二人だけでも十分に危険だ。
「そもそもアレはハニトラだった訳で、乗る訳にはいかないだろ」
「つまり、今アタックすれば考えてくれマスか?」
真っ正面から見つめてくるサリヌス。その真剣な眼差しにドキッとしてしまう。
「本気で俺の事が好き……なのか?」
「最初は誘惑出来なかった悔しさと、してやられた苛立ちばかりデシタ。牢屋の中で、ずっと貴方の顔がグルグルしていマシタ」
そこで言葉を切った後、サリヌスは頬を赤らめて再び口を開く。
「その内に、怒る事に疲れて……楽しかった会話を何度も思い返すようになりマシタ」
綴られる言葉に、こちらの頬まで熱くなる。
「私の誘惑で落ちなかった初めての殿方……貴方の事ばかり考えるようになって、今に至りマス」
「お花さんは王様が大好きなんだねええええええ!」
「そ、そうデスね……」
水妖さんの言葉を聞いて顔を真っ赤にするサリヌス。
百戦錬磨であるはずの彼女が見せた、初心な乙女のような反応にドキッとする
「思えば……恋、と呼ばれるモノをしたのはこれが初めてかもしれマセン」
「分かるよおおおおおお! 王様カッコいいよねええええええ! 種族超えてくるよねええええええ!」
頬を掻いた後、まっすぐにサリヌスを見つめる。
「俺は好い加減な気持ちで恋愛はしたくないし、出来ない」
「分かっていマス。パンドラ様と同じように、私も貴方を振り向かせてみせマス」
「ああ。よろしくな、サリヌス」
と、これで終われば良かったのだが――。
「ちなみに王様はお花さんくらいのおっぱいも大好きだよおおおおおお! 必死に我慢してるだけなのおおおおおお!」
「ちょ、水妖さん!?」
「まあっ、そうなのデスね」
ユミリシスです……。嫁たちが嫁を増やす事に積極的で戸惑いを隠せないです……。
「――よし! その話はまた後でな! 今は仕事の話をしよう、仕事の話!」
「ふふっ、分かりマシタ。お仕事の後に、いっぱい誘惑しマスね」
「私も手伝うよおおおおおお!」
どうやら、Wの暴力に晒される事は確定らしい。
と、そんなやり取りがありつつも、仕事モードへ移行。
「それで、私は一体何をすれば良いのデショウか」
「水妖さんの力で水路を作ってもらいつつ、サリヌスの植物を操る力で田畑を作ってもらいたいんだ」
サリヌスが目をぱちくりさせる。
「私の力をそんなふうに使おうとする人は初めて見マシタ」
「共同作業だああああああ! よろしくねええええええ!」
「二人だけで手が足りないなら、魔獣さんたちの力を借りてくれ」
このやり方が上手く行けば、人の手では開墾出来なかった土地も開墾可能になる。
それは、ヴァッサーブラット領にしかない圧倒的なアドバンテージとなるだろう。
「ふふっ、こんなに平和的な事に力を使うのも、これが初めてデスね……。ヴァッサーブラット卿は、私に初めてを沢山くれマス」
「分かるよおおおおおお! 心がぽかぽかするよねええええええ!」
そんな二人のやり取りで、再び頬をポリポリと掻いてしまったのはここだけの話だ。
……こら、そこの魔獣さんたち。微笑ましいものを見るような眼差しはやめなさい。余計に気恥ずかしくなるでしょう。




