第131話 スプリガン、攻略完了
「んあっ、んんっ♡ちょ、これヤバいって♡あっ、そこダメっ♡」
「検査に必要な事……大人しくして」
ニミュエが触れるたび、ドゥルキスの身体が震える。
頬を上気させた艶めいた反応に、こちらまでドキドキしてくる。
正直に言えば、今すぐにでも顔を背けたいのだが。
「ひぅっ♡侯爵サマ、こっち見るなぁっ♡あっあっ♡」
「旦那様は記録担当……これも必要な事」
そう、記録係として注視せざるを得ないのである。
――そんな気まずい検査の時間を乗り越えて、待つ事しばし。
「結論から言えば、対処は可能」
「ウソッ!? どうすれば良いの!?」
休んで回復したドゥルキスが、慌ててニミュエに縋りつく。
「ん。貴女の肉体は……先祖返りで第一の時代の生物に、かぎりなく近い。だけど今の環境は……第一の時代の生物には適さない」
「……つまり、世界があたしを殺そうとしてるってコト?」
「そう。だけど最後まで聞く」
ニミュエは淡々とした口調のまま、言葉を続ける。
「第一の時代の生物には……第一の時代の魔力が必要。そしてその魔力の持ち主が……そこにいる」
ニミュエが俺を指差す。……え。そんな話、知らないぞ。
「聖なる杯とその試作品は……第一の時代に遺された魔力を使い、第二の時代の始まりに創られた。だから……その指輪を身につけた旦那様は、第一の時代の魔力を帯びている……」
俺の指輪、“円環・至聖三者”は聖なる杯の試作品を溶かして創られたモノ。
それを身につけているがゆえに、という事か。
「じゃ、じゃあその指輪を付けさせてもらえば、あたしも!?」
「それは無理……性能を高める為に、一度付けたら二度と外せない呪いが掛かっている……」
そう。実はこの指輪、メリットを増やす為に様々な制約をつけているのである。
「だけど問題ない……今や旦那様が第一の時代の魔力そのもの……。だから、二人がくっつけば解決」
「「はあぁ!?」」
グッとサムズアップするニミュエの言葉を聞き、俺とドゥルキスの叫び声が重なった。
「待て待て。くっつくってなんだ。俺は嫁以外とそういう事はしないぞ!?」
「あ、あたしだって男に肌を許したコトなんてないんだケド!」
ドゥルキスの言葉に思わず視線を向けてしまう。
……そうか、口では色々言いながら、実は経験がないのか。
「行為をする必要はない……肌を触れ合わせるだけで良い。ただ、出来るかぎり触れる面積は広い方が良い……」
「そ、そんなの……」
幼さを強く残したドゥルキスが、頬を朱色に染めて、躊躇いがちにこちらを見つめる。
ユキノとほぼ同い年くらいの、扇状的な装いをした女の子。
しかも先ほどまで艶めいた声を聞いていたので、色々とマズい。
「これは命が掛かっている事……ただの治療行為。それに……貴女が生きるには、現状、他に方法はない……」
「……っ」
ニミュエの言葉を聞いたドゥルキスが、意を決したようにチューブトップとレギンスを脱ぎだして――俺は慌てて背中を向ける。
「ほ、ほら、侯爵サマ。服、脱いで。……背中に抱きつけば良いってコトでしょ?」
「そう。だから旦那様も……早く服を脱ぐ」
二人に言葉を重ねられては、観念せざるを得なかった。
服を脱ぎながら座り込みつつ、同時に智略を高める。頼むぞ、明鏡止水さん。
「うわ、これがオトナの男の背中……」
俺に近づいてきたドゥルキスは、感じ入るように呟いた後――ピタリと身体を押しつけてきた。
「……っ」
ぷにっとした感触がくっついて、思わずピンと背筋が伸びてしまう。
それからほどなくして。
「ぁ……すご。カラダ、楽になってきた……」
心地良さそうな声と共に、ドゥルキスがさらに強く抱きしめてきた。
色々なモノを誤魔化す為に、俺も口を開く。
「そんなに普段から辛かったのか?」
「まぁねー……いつもダルいし、よく痛むし……。どれだけ頑張っても、七割くらいかな。そのくらいしか力、出せないってゆーか」
言葉を切った後、一転して不満げな調子になる。
「こんなハンデ背負ってなきゃ、あの鬼人族の子にだって負けないし」
「そっか。そんなドゥルキスが味方になってくれて嬉しいぞ」
「べ、別に侯爵サマに仕えてるワケじゃないし。あたしはパンドラ様についてくだけだし……」
パンドラに命を救われて、彼女についていく事を誓った少女の想い。
そこに込められた重みと、彼女たちには記憶消去の術式が掛けられていない事実。
三人の絆は、俺が推し量れるものではないだろう。
「それで良いさ。間接的に俺の力になってくれる、それで十分だ」
「……、なんかムカつく」
「どうした?」
「さっきから侯爵サマ、平然としててズルい」
既に智略が90を超えているのはここだけの話だ。
そして、この調子なら上手くやり過ごせそうだな、と思っていたのだが。
「ん、安心して欲しい……旦那様は我慢しているだけ。小さい女の子にも弱い……」
「ニミュエ!?」
「――へぇ?」
突然のニミュエのフレンドリーファイアにより、状況が一変する。
「つまりぃ、侯爵サマって、こーゆうのにも弱いんだぁ?」
愉しげな声をあげたドゥルキスが、俺の耳をはむっと甘噛みして――!?
「耳以外にも感じやすい所は色々ある……私が教える」
「きゃはは、良いね良いね。ニミュエっちとは仲良くなれそう♡」
「ドゥルキスの魔力の波は……心地良い。精霊同士、今後ともよろしく……」
なるほど、ニミュエは水の精霊だ。
土の精霊に属するドゥルキスを引き込んで、閨での勢力拡大を狙っているのだろう。
……どうやら、改めて俺の恐ろしさを示す必要があるらしいな。
こうして、予期せぬ形で本能とのバトルが始まったのだが、その戦いの中で――。
「……こういうのも、悪くないカモ」
嬉しそうなドゥルキスの呟きが、俺の心に強く印象を残すのだった。




