第127話 もしもし、私、悪徳侯爵。今あなたの近くにいるの。
どうやら黒翼の女帝は、俺の事を強く警戒しているらしい。
そして、それがサリヌスにとっては理解出来ないようだ。
「確かにあの侯爵は有能デスが、貴女がそこまで警戒するほどの男には見えマセン。いえ、アレの力を疑う訳ではありマセンが……」
……アレ、か。
黒翼の女帝は何かを手に入れて、その力で俺に行き着いた、という事だろうか。
「え? はい、今はすっかり眠りこけていマス。……え?」
バッと振り返ったサリヌスは、そのまま机にあった魔銃を向けてきて――!?
どうしてバレた、と思うよりも先に俺は声を上げていた。
「猫!」
「なっ――うぐっ……」
即座に天井から降り立ったネコミが、瞬く間にサリヌスを気絶させる。
急いで通信結晶に駆け寄れば、既に通話は終了していた。
「ネコミ、黒翼の女帝の場所は分かるか?」
「分かるし、千里眼の術で視えているでござるよ。ただ……」
サリヌスの拘束を終えたネコミが、指で輪っかを作って目に当てる。
そして、部屋の壁越しに北西の方角を見つめながら困惑の声を上げる。
「え、マジでアレが黒翼の女帝でござるか? ウチ、てっきり……」
「お前の驚きはもっともだが、どんな様子だ?」
「アレは水晶玉でござるな。それを見つめて……あ、なんかハッとした様子になって、胸元から通信結晶を取り出したでござる」
ネコミの報告の直後に、ウルカの通信結晶から連絡が入る。
「お、おにーさん、ドゥルキスとユキノちゃんが交戦を開始しました!」
「何があった!?」
「ドゥルキスが通信結晶で連絡を受けて、すぐに変身しようとしたんですけど……それに気付いたユキノちゃんが咄嗟に飛び出して、街の外に蹴り飛ばしたんです」
つまり黒翼の女帝がドゥルキスに連絡を取り、暴れるよう指示を出したのだろう。
グッジョブだ、ユキノ。後でたっぷりご褒美をあげるからな。
「ユキノは単独で戦う時が一番力を発揮する。誰にも加勢させるな。それと各街の衛兵隊に連絡して潜伏者たちを捕らえてくれ」
「わ、分かりました!」
「ネコミ、黒翼の女帝の様子はどうだ?」
「めっちゃ迅速に荷物をまとめてるでござる。逃げる気マンマンでござるな」
どういう事だ。余りにも動きが早すぎる。
「今から追えそうか?」
「ここからだと流石に無理でござるなー。ただ拠点の屋敷を調査すれば何かわか――うわぁ、マジでござるか」
「今度は何だ?」
「黒翼タソ、逃げながら屋敷を爆破したでござる。まさに大☆爆☆発でござるな。あれは証拠なんて残らないでござるよ」
その思い切りの良さは原作通りだが――。
「どうやら、俺が知っているよりも厄介な力を持っているらしいな」
「どうするでござるか?」
「サリヌスを牢に入れた後、情報を引き出してくれ。俺はユキノの元に向かう」
ユキノの勝利は疑っていないが、どんな逃走手段を用意しているか分からない。念には念を入れておきたい。
二人を失った黒翼の女帝がどんな動きをするかについても、情報を聞き出す中で見えてくるだろう。
――結果から言えば、ユキノは自分の力だけでドゥルキスを捕縛。
ネコミも忍法を駆使してサリヌスに催眠をかけて、きっちり情報を吐かせる事が出来た。
出来たのだが、手に入れた情報は厄介極まりないものだった。
「未来を見る事が出来る水晶玉、か……」
ネコミの報告を受けた俺は、思わず唸り声を上げる。
一体、何をどうしてそんなアイテムを手に入れたのやら。
「黒翼の女帝が何をしても、未来で御館様に捕まるらしいでござる。それを回避する為に色々と手を打つけど以下略、みたいな」
全力で手を打ってきた成果は出ている、という事か。
「そんなぶっ壊れアイテムでもなければ抵抗出来ないとか、やっぱり御館様の力は頭おかしいでござるな」
「イレギュラーな事態は勘弁してほしいけどな……」
昨日と同じ今日が来て、平穏な明日が続いていく。
その中で嫁たちと愛し合う事が出来れば、それが一番良いのだが――。
「平和は遠いな……」
「とは言え、これでまた一つ御館様の理想に近づくと思うでござるよ」
ネコミが資料の束を渡してきたので、手に取る。
「これは?」
「黒翼タソの影響下にある国や組織の一覧でござる」
「そんな事まで聞き出せたのか」
資料をめくりながら情報量に驚く。
「暗躍の範囲が広すぎるな……」
「マジでヤバいでござるよ。ヤババでござるよ」
原作開始時点に匹敵するほどの影響力。
俺たちの動き出しが遅ければ、ディアモント包囲網を組まれていたかもしれない。
だが、分かっていれば如何ようにでも対処出来る。
「みんなを集めて作戦会議だ。ルリとヤエにも通信結晶を通じて参加してもらおう」
さぁ、徹底的に追い詰めてやるぞ、黒翼の女帝。




