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第123話 原作での強さを知っているから全力で対処する

 フソウ皇国を完全支配する為に奔走ほんそうしている間も、もちろんクロスエンド共和国の掌握は進めていた。


 そして、黒翼の女帝が接触しそうな所はひとまず対応出来ている。


 ここからはじっくりやっても問題ないだろう。


「お疲れ様、ユミリシス。はい、紅茶。淹れたのはウルカだけど」

「おにーさんの為に、愛情をたーっぷり入れておきましたよ」


 そんな俺は今、休息と報告会も兼ねて領主館に戻って来ていた。


「ありがとな、ルリ、ウルカ。アイルもマッサージ助かる」

「いえいえ。こればかりはアイルが一番上手く出来ますからね」


 俺の肩を揉んでいたアイルが楽しげに笑い、それを見たルリが諦めたように溜め息を吐く。


「ま、そこに関しては譲ってあげる。だけど、ほら」


 横長のソファに座ったルリが、ポンポンと膝を叩く。


「膝枕してあげるから、こっちに来なさい」

「良いのか? ルリも刻印の研究で疲れてるだろ」

「疲れてるのは脳みそだし、それに、その……あ、あんたを膝枕してると、嬉しい気持ちになって疲れが癒やされるっていうか……」


 ルリがそっぽを向いて頬を朱に染めると、ウルカがニヤニヤ笑う。


「ルリお姉様、どれだけ経っても照れ屋さんが治らないですねー。可愛いですよ」

「う、うるさいわね。ウルカだってユミリシスに馬乗りされるとドキドキしてるじゃない」

「ね、ねやでの事を持ち出すのは反則じゃないですか! それを言うならルリお姉様だって――」


 言い合いになった二人に向けて、アイルがパンパンと手を叩く。


「はいはい、お二人とも。それではルリ様が膝枕、ウルカ様が腕のマッサージ、アイルが足のマッサージをしながら報告をするという事でよろしいです?」


 アイルの言葉にこくこくと頷くルリ、ウルカ。


 色々お世話になっているからだろう、二人もアイルに頭が上がらないのである。


 という事で、極楽気分の中、報告会が始まるのだった。


「聖都の刻印は解析が完了して、研究に移れる段階ね。生命力じゃなく、魔石で代用する事も出来そうなんだけど……アタシだけじゃ無理。ヴィブラレット先輩の力が必要だと思う」


 ルリとヴィブラレットはそれぞれの分野において、間違いなく世界最高の実力者だ。


 その二人の力が必要なあたり、やはり第一の時代の技術は凄まじい。


「ただ、ニミュエは鍛冶仕事に戻れるわ。後はアタシがどうするかだけど……」

「だったら魔導都市に向かってくれ。ヴィブラレットもルリなら開発室に入れてくれるだろ」

「うぐ、やっぱりそうなるわよね」


 深々と溜め息を吐くルリだが、嫌いというより苦手意識が強いのだろう。


「ま、でもワガママも言ってられないか。全力で頑張るわ」


 頷きを返した後、ウルカの方を向く。


「それで、ディアモントの防諜網に関してはどうだ?」

「各街の衛兵隊との連携も密になって、精度が上がってますよ。衛兵一人ひとりに至るまで忠義に厚くて優秀で、ビックリしちゃいました」


……各街の衛兵隊も、俺が一人ずつ自分で面談・勧誘して選んだからな。


 過去の努力が再び実を結ぶというのは嬉しいものだ。


「でぇ、怪しい人たちを見つけたのでマークしてます」

「怪しい人たち?」

「探索者だったり、吟遊詩人だったり、旅芸人だったり……職業は違いますけど、大陸南部から来て、居着いてる人たちがいまして。それも、主要な街に一人ずつ」


 リラックスしていた意識が警戒レベルを引き上げる。


「……、どうして南部出身って分かったんだ?」

「南部の人たちって、顔立ちもそうですけど、言葉のイントネーションが違うじゃないですか。上手く誤魔化してる方だと思いますけど……」


 悪戯っぽく笑いながら、ウルカが言葉を続けた。


「そもそも誤魔化そうとしてる時点で、何か怪しい事があるって事ですよね? おにーさん?」


 黒翼の女帝は大陸南部の出身であり、組織の構成員も大半が南部出身だ。


 既にディアモント王国は、黒翼の女帝に補足されていると思って良いだろう。


……問題は、俺の事がどこまでバレているかだな。


「アイル、黒天商会に関してはどうだ?」

「はい、ちょうど報告しようと思っていたところですね。黒天商会から、ぜひ御主人様に会いたいという話がきています」


 どうやら国外に割く時間は減らす必要があるらしい。


 ルリの膝枕に悲しい別れを告げつつ、立ち上がって指示を飛ばす。


「アイル。黒天商会との交渉を中心に、黒翼の女帝関連は俺が担当する。領主代行の任を解くから秘書官としてサポートしてくれ」

「かしこまりです!」


 この世界では、領主あるいは領主代行の政治のステータスを参照し、内政に補正が掛かる。


 たとえばフローダがヴァッサーブラットの領主なら、同じ指示を受けて同じ仕事をしたとしても、アイルたちは普段の5割も力を発揮出来ないだろう。


 不思議な仕組みだが、だからこそ代行を立てず俺が領主を務める事に意味がある。


「ウルカはネコミと協力して国内の防諜網に全力を出してくれ。後で要注意人物をリストアップして渡すから、もし見つけたら連絡してほしい」

「うわ、おにーさんの本気顔……それだけ重大なんですね」

「アタシはどうすれば良い?」

「ルリはヴィブラレットとの研究に専念してくれ。そっちはそっちで急ぎたいからな」


……さて、黒翼の女帝。お前の強さはよく知っているからな、全力で手を打たせてもらうぞ。

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