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第120話 聖王国の騎士団長に大きな貸しを作る

 聖王国に滞在している間に、もう一つやっておきたい事があった。


 それは、デメルグが誇る聖騎士団の団長と縁を繋ぐ事。


 今の俺の立場なら対等に話す事が出来るだろう。


「うぅ……団長様かぁ。ボク、緊張してきたよ」

「スノリエは何度か話しているのか?」

「まともに話したのは一回だけだよ。この立場になったのも最近だし、団長様って忙しいし」


 そんな会話を交わした後、団長が礼拝堂にいるという話を聞き、そちらに足を運ぶ。


 そして礼拝堂の中、俺たちに気づいた彼女はステンドグラスを背にして軽く微笑む。


「んー? あー、なるほど、英雄くんと聖女ちゃんか。こんばんは」


 群青ぐんじょう色の髪をストレートロングにした、シンプルに顔の良い女性。


 ダークカラーのスキニーパンツとチュニックという中性的な服装だが、それが彼女のサバサバとした雰囲気に合っている。


「っと、英雄くんとは初対面だったね。あたしの名前はジャスミン・スペワイフ。気軽にジャズって読んでくれて良いよ」


 軽やかに微笑み、握手を求めてくるジャズ。そんな彼女に応じながら言葉を返す。 


「俺の名前はヴァッサゴだけど、その英雄くんって呼び方も良いな。よろしく頼む。ジャズ」


 躊躇ちゅうちょせず愛称で呼んだからだろうか、彼女は少しの驚きを見せた後、楽しげに笑う。


「良いね、仲良くなれそう」

「こっちも話しやすい感じで助かったぞ。団長って聞いて気難しい相手だったらどうしようって思っていたからな」

「あはは、可愛い所あるね」


 気安く会話する俺たちを見て、スノリエが「むぅ……」という不満げな顔をする。


 そんなスノリエに対して、ジャズがポンポンと頭を撫でる。


「心配しなくて良いよ、聖女ちゃん。貴女の恋人を取る気はないから」

「え、あ、いや、ボクそんなつもりじゃ……」


 少し前まで雲の上だった軍事の最高責任者。


 そんな女性の軽やかな言葉に、スノリエはすっかり恐縮してしまったらしい。


 顔を青くしたり赤くしたりする姿が可愛い。


「それで、英雄くん、聖女ちゃん。何の用かな。……あー、違うか。先にこっちからお礼を言わなきゃね」

「お礼?」


 軽やかな空気が消える。

 真剣な眼差しになったジャズが、その場で深く頭を下げる。


「ありがとう、聖都の民たちを悪霊の脅威から救ってくれて。そしてごめんなさい。本来なら、それはあたしたちが成すべき事だった」

 

 しっかり筋を通すその姿に、原作の彼女を思い返して微笑ましくなる。


「気にするな。俺はこの国と、それと大切なマイホームの為に出来る事をやっただけだ」


 はげますように肩を叩けば、顔を上げたジャズが軽く笑う。


「国と家が同列か、面白いね、英雄くん」

「俺にとっては聖王国もスノリエとの生活も、どっちも大切だからな」

「あわわ……せ、先輩……」

「言うねー、カッコいい」


 熟れた林檎のように真っ赤になるスノリエと、感心するように口笛を吹くジャズ。


 流石に少し照れくさくなったので、話題を別方向にシフトさせる。


「それで、第一陣の騎士たちは無事か?」

「死者は出てないよ。って言っても、今日感じたとんでもない瘴気の状態だったら全滅してただろうけど」


 そこまで言い終えて、ジャズが顔を曇らせる。


 曇り顔の理由が分かるので、提案を一つ投げ込む事にした。


「俺が悪霊を倒せたのは、第一陣が情報を持ち帰ったから。そして団長であるジャズの力を借りたから……そう喧伝してくれ」

「なっ、そんな恥知らずな事――」

「聖騎士団が民から侮られるのは国にとってよくないし、俺も困る」

「……っ、それは」


 原作では二年間、放置せざるを得なかった聖都の悪霊。 


 それにより聖騎士団の名声は下がり、焦ったジャズは成果を求める。


 そして心の隙間を黒翼の女帝に突かれ、デメルグとクロスエンドが開戦するきっかけとなるのである。


「ギブアンドテイクとして、俺を戦略顧問に推薦してくれ。個人としての力量にも、戦略眼にも自信がある。共にこの国を支えよう」

「……英雄くんは、栄達えいたつに興味があるようには見えなかったけど」

「ああ、興味ない。聖王国が安泰である事が、スノリエの幸せにつながるから。その為に俺はここにいる」


 掛け値なしの本音を高統率に乗せて叩きつければ、スノリエが頬を薔薇色に染めて、そして。


「……、英雄くんは、眩しいね。聖女ちゃんが……、聖女ちゃんは果報者だ」


 ジャズは、さみしげに笑って眼差しを伏せた。


――ジャスミン・スペワイフは、幼い頃から冷え切った父母の関係を見続けて来た。


 また、その強さと地位の高さゆえに、好きになった相手に身を引かれた経験もある。


「何か思い悩む事があるなら相談に乗るぞ」


 そんな彼女にとって、俺がスノリエに向ける愛は眩しすぎるのだろう。


……変にスノリエにこじらせた感情を持たれても、困るんだよな。


 彼女はサバサバしているように見えて湿度が高いので、可能性は十分にあった。


「んーん、大丈夫。戦略顧問の件、良いよ。っていうか、こっちから英雄くんに返せるモノがなさすぎて申し訳ないくらい」

「もし気にするようなら、貸しって事にしておいてくれ。そのうち返してもらうさ」

「あはは、随分ずいぶんと大きな借りを作っちゃったね。ん、ありがと」


 これで黒翼の女帝が接触して来ても、対応出来るようになったが……それとなくジャズのメンタルも気にかけておくか。

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