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第12話 悪徳領主と秘書官の密談

 明けて翌日。


 溜まっている報告書を処理する為、早朝から執務室に来ていた。


 書類に目を通す俺にアイルが声を掛けてくる。


「御主人様、女王陛下から早く会いたいとの恋文が届いてますけど、いつ会いに行きます?」

「恋文……あながち間違ってないのが怖いな」


 ディアモント王国の女王――ケイテ=クラーラ・フォン・ディアモント。


 先王の急逝により若くして王位を継ぎ、摂政せっしょうの下で帝王学を学んでいる女の子。


 何故か対面前から好感度が高く、対面してから狂信を向けてくるようになった。正直、少し怖い。


「婚約の件も報告する必要があるし、ちょうど良いか。二日後の昼に、と伝えてくれ」

「かしこまりです!……そう言えば、陛下が御主人様に心酔しているわけですし、摂政閣下も心酔させられるのでは?」

「いや、摂政は俺を嫌ってるし、好かれる事すら難しいんじゃないか?」


 摂政や他の領主から見た俺は、若き女王を篭絡して侯爵の強権を振りかざしている悪徳領主だ。


 とは言え、女王の心酔は想定外だったし、領内の配置転換は不満が出ないよう全力で心を砕いた。

 責められるいわれはないはずだが――。


「領地を豊かにして国にも還元してるのに、悪徳領主って言われるの……冷静に考えるとおかしいな?」

「嫉妬や理解出来ない成果への恐怖も混じっていると思います。でも、御主人様は止まらないんですよね?」

「ああ。ヴァッサーブラット領に絶対の安寧をもたらす。それを実現するまでは止まれないさ」


 前世の記憶が蘇る以前、ただのユミリシス・フォン・ヴァッサーブラットだった頃の思い出。


 亡くなった父母の葬儀に駆けつけてくれた、多くの領民たちとその涙。


 若くして領地を継いだ俺を支えてくれた家臣団の忠節。


 それらは今でも深く心に刻まれている。守りたいし、報いたいし、幸福であってほしい。


「では、悪徳領主を貫きましょう」

「つまり?」

「やっぱり摂政閣下も心酔させちゃうんです。御主人様ならきっと出来ます。そして王領直轄地の開発と王の特権(レガーリエン)を効率化して、それによって得た金銭をこちらに融通してもらいましょう」


 こういう事を笑顔でさらっと言えるあたり、アイルも良い性格をしている。


「国の中枢を掌握して裏から牛耳る、か。名実ともに悪徳領主だな」

「気になるなら、ウチで実績を出した技術を一つくらい各領主に提供しても良いと思います」


 施策や技術を指折り数えながら言葉を続けるアイル。


「それで文句は出なくなると思いますし、そこまで配慮してなお反乱を起こすなら、制圧して軍団に経験を積ませても良いですし」


 似たような事は転生を自覚した直後に考えた事があるが、当時は何もかもが足りなかった。

 だが、確かに今ならやれるだろう。


「問題は、摂政殿にどんなアクションを取るかだな」


 ディアモント王国の摂政は原作にいなかった人物なので、どうすれば心を開いてもらえるか分からない。


 その上で嫌われているのだから、難易度は高い。


「女王陛下に聞いてみるのはどうです?」

「それしかないかぁ……」


 陛下は余りにも俺を盲信しすぎていて、話していると辟易してしまう。


 ただ、確かにそろそろ向き合うべきかもしれない。


「分かった。ありがとな、アイル。お前の率直さにはいつも助けられてる」

「えへへ、はい!」


 無条件に俺を信頼しつつ、ただ委ねるのではなく、客観的な視点から意見をくれる秘書官。


 悩みに直面した時には、常に俺の心を汲んだ言葉をかけてくれる存在。


 彼女がいなければ過労死していたか、心の死んだ支配者になっていだろう。


「ただ、残念なのは摂政閣下が男性という事ですねぇ。女性なら良かったんですけど」

「結局そこに帰結するのか……」

「もちろんです! アイルが仕える理由の四割は、御主人様のもとにいれば魅力的な女の子と沢山触れ合えるからですし」


 ぐぐっと拳を握りしめて言うアイルを見て、ブレないやつだな、と苦笑する。


「ところで、残りの六割を聞いても良いか?」

「ふふっ、それはもちろん――」


 アイルが頬を染めながらも微笑み、唇に指を当てる。


「御主人様のことが大好きだから、です♡」

「……っ」


 可愛らしい声から繰り出されるあざとい仕草にドキッとする。


 アイルも自分で言って気恥ずかしくなったのか、「そ、それではアイルはこれにて失礼しますねっ」と言って執務室を出ていってしまった。


「はあぁ……仕事をしよう、うん」


 顔の熱を払うために首を振ったあと、俺は再び報告書に目を落とすのだった。

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