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第110話 お嬢様エルフ軍師、攻略完了

――結論から言えば、女王には術式が掛けられていた。


 それは、特定の情報を吐こうとすると全記憶が消去されるモノ。


「申し訳ないでござる、御館様。術式への対応が遅れてしまったでござる……」


 全身から申し訳なさを漂わせ、激しく落ち込んでいるネコミ。


 そんな彼女の頭をポンポンと撫でる。


「いや、ネコミに無理なら世界中の誰にも無理だ。そう自分を責めるな」

「それでもウチは自分が許せないでござる!」


 顔を上げたネコミが、普段は見せないような真剣な眼差しを向けてくる。


「ウチ、正直調子に乗っていたでござる。もう二度とこんな失態はしないでござる」

「……そっか。分かった。よろしく頼むぞ、ネコミ」


 力強く頷くネコミ。

 彼女のさらなる飛躍が望めるのなら、これほど喜ばしい事はない。


「問題は……女王をどうするか、だな」


 俺たちが視線を向けた先には、きゃっきゃと笑う幼児退行した女王の姿。


「この国と周辺の情報は聞き出せたでござるが……“聖なる杯”とやらに関しては、一切分からなかったでござる」

「いや、大丈夫だ。見当はついている」

「え、マジでござるか?」


 情報の流出を阻止しつつ、命だけは奪わないやり方。


 そして、ネコミがとっさに対応出来ない術式……恐らくは、第二の時代の技術によるもの。


「その上で、“聖なる杯”に関する情報を持っていて、組織を有し、大陸西部にまで手を伸ばしている……そんなやつ、一人しかいない」


 “黒翼の女帝”パンドラ――原作のお邪魔キャラの一人で、聖王国ルートと共和国ルートのボス。


「そいつがまたネーベルに手を出す可能性はないでござるか?」

「大丈夫だ。アイツは糸の切れた操り人形に興味はないからな」


 術式が発動した事は、向こうも分かっているだろう


「めっちゃヤバそうでござるな、そいつ」

「ああ。神出鬼没しんしゅつきぼつだから、警戒はおこたれない。……ゆっくり出来るのは、まだまだ先らしいな」


 忙しくなりそうだ、と溜め息を吐いた俺の手をユキノがギュッと握り締める。


「――!――!」


 私も頑張ります、と言わんばかりにアピールするユキノ。

 頼もしくも可愛らしい彼女の頭を撫でながら、「ありがとな」と告げる。


 意識を失っていたインナが目を覚ましたのは、ちょうどそんな時だった。


「ん……わたくしは……」

「お、目が覚めたか」

「――――!」


 俺の姿を見たインナは、ボッと顔を真っ赤にして、急いで髪を整え始める。


 そして、コホンッと咳払いしてから口を開く。


「あのあの、わ、わたくし、インナと申しますの! 貴方様のお名前を教えてくださいまし!」

「俺の名前はユミリシス・フォン・ヴァッサーブラットだ」

「ユミリシス様! 素敵なお名前でございますわ!……ん? ヴァッサーブラット?」


 はてどこかで、と考え込んだインナは、やがてハッとした表情になる。


「でぃ、ディアモント王国のヴァッサーブラット卿!? ど、どうしてこんな所にいるでございますの!?」

「キミを助けに来たんだ」

「はうっ……♡」


 ハートを撃ち抜かれたような顔になり、胸を押さえるインナ。

 オーバーなリアクションは見ていて楽しい。そして可愛い。


「やっぱり御館様、小さい子の方が反応良いでござるな」

「――、――」


 ヒソヒソ声で話すネコミと、こくこく頷くユキノ。……聞こえているぞ、全く。


「って、誤魔化されませんわよ! 侯爵である貴方自身がここにいる理由にはなりませんわ!」

「流石にダメか。分かった、説明しよう」


 俺の強さと家臣団の強さ。インナの姉を保護している事。


 インナを助けると同時にネーベルの女王に力を見せつけ、手を引かせるつもりだった事。


 そして、現在の女王の状況。


 それらを聞いた彼女は、さまざまな感情が込められていそうな溜め息を吐いた。


「お姉様がご無事で何よりでございますわ。そしてヴァッサーブラット卿の力……にわかには信じがたいですが、こんなものを見てしまえば信じざるをえませんわね」


 インナの視線の先には、俺が指弾で空気を弾き、穴を開けた壁。


 手っ取り早く力を示す為、壁には犠牲になってもらった。


「それにしても……」


 インナが幼児退行した女王を見て、悔しげな表情になる。


「あんな姿を見せられては、何も言えませんわ」

「提案なんだが、女王の全てを奪う事で報復の完了とするのはどうだ?」

「どういう事でございますの?」


 利用出来る状況は利用させてもらおう。……こんな状態の女王を残しても、国が荒れるだけだしな。


「インナ、お姉さんと一緒にヴァッサーブラット家に仕えてほしい。その上で女王を“支えて”、ネーベル王国の運営をしてほしい」

「……、ヴァッサーブラット卿、恐ろしい方でございますのね」


 呆れとも感心ともつかない声で呟くインナ。その眼差しには畏敬が宿っている。


「嫌なら断ってくれて構わないし、それで恨んだり何かをしたりもしない。キミ自身の意志で選んでくれ」

「……はぁ。ヴァッサーブラット卿はズルいですわ。あんな方法で魅了を解いておいて、そんな事を言うのでございますね」


 インナが不服そうにしながらも、頬を赤らめて俺を見つめてくる。


「条件がございます」

「聞かせてくれ」

「定期的にわたくしの元に来て、ティータイムを過ごして頂きますわ!」


 それは、とても可愛らしい条件だった。


「ああ、分かった。大陸北部、東部、南部、好きな地域のお菓子も持ってきてやるぞ」

「本当でございますの!?」


 目を輝かせるインナに苦笑しつつ、こくんと頷く。


俄然がぜんやる気が出てきましたわ! ふふん、まずは民たちの税を軽くする所からでございますわね!」


 敵には容赦ないが、基本的には心優しい女の子なので、彼女に任せておけばネーベルは問題ないだろう。


 全てを奪われる女王には申し訳ないが、ネーベルの民たちを幸せにする事で寛恕かんじょを願うとしよう。

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