第11話 最強の魔法使いを得て、攻略は加速していく
唖然とした表情を浮かべるルリだが、無理もない。
ルリは学術の最先端でもある魔導学院の首席。つまりこの世界の理について熟知している。
そんな彼女が、常識がひっくり返るような事実を知ったのである。混乱するのも当然だろう。
「待って、待ってちょうだい。これを採掘する? だってこんなの、まともに採掘するならそれこそ大規模な地殻変動でも待たなきゃ無理よ!?」
「でも、ルリなら出来るだろ?」
「そんなの……! いえ、ちょっと待って。……、うん、出来るかも」
そう、ルリなら出来るはずだ。
なぜなら原作の個別エピソードで彼女自身がそう語っていたのだから。
「天変地異でも起きなきゃ不可能な魔石の採掘と、それを元にした世界をも変えうる新技術の開発――最強の魔法使いに相応しい仕事だと思わないか?」
俺の言葉を聞いたルリが口元を斜めにする。
可憐な乙女の顔しか見せて来なかった彼女の、魔法使いとしての顔だ。
それはきっと、久しぶりに全力を出す事が出来る歓喜の色。
「なるほどね。これがアタシを雇いたかった理由か。あんたって、やっぱりとんでもないヤツね」
「それを実現出来るルリも大概だろ」
最強の魔法使い、ルリ・エルナデット。
原作ゲームでは戦争用のデータしか用意されていなかったが、現実となったこの世界では全ての魔法を扱える。
魔法が及ぶ範囲において、彼女に出来ない事はないのである。
「任せなさい、手順はもう思いついてる。後はそれを実行に移すための魔力配分と精密操作を上手くやるだけなんだから」
未知に燃える好奇心。高い壁に挑む興奮。
そんな感情を宿しながら、ルリは再度地面に右手をつける。
同時に、彼女の周囲を真紅の魔力光が再び舞う。
だがその勢いは先ほどの比ではなく、輝きが吹雪のように荒れ狂う。
「調査魔法で魔石に当たりをつけて、対象として選択……ただ転送魔法だと均衡が崩れちゃうから、穴を埋めるために魔石と同等の質量の物質……は、手元にないから取り敢えず鉄鉱を召喚しちゃって代用、あとは交換魔法によって両者を入れ替えて、これで……!」
真紅の輝きがいっそう強く発光した次の瞬間、ルリの左手にサッカーボール大の鉱石が収まっていた。
真白の光が凝縮されたかのような純白の輝き。
間違いない、親の顔よりも見た魔石だ。
「ふぅ……。ま、ざっとこんなものね。どう? アタシはユミリシスの期待に応えられた?」
「あぁ、凄い……ルリ本当に凄いな! まさかこんなにあっさり……」
「ふふん、もっと褒めなさい。並の魔法使いが百人束になってもこう上手くはいかないんだから」
自慢げな表情だったルリは、しかし、直後に不満げな表情を浮かべる。
「ただ、もっと効率化出来る……うん。魔力を使い切った後の時間を術式理論の構築に当てましょうか」
「ちゃんと休んだほうが……」
「別に睡眠時間は削らないわよ。……そうね。アタシが雇われただけの魔法使いなら、ここまでしなかったと思う。でも、アタシはその……ほら、ね? ユミリシスの妻になる、わけだし」
ルリが両手の指をツンツンさせながら言葉を続ける。
「一蓮托生、なわけだし……。アイルと違って内政なんて全く分からないし、人と接するのも苦手だから、せめて得意分野でくらい出来る事は何でもやりたい、みたいな、そんな感じ」
照れ顔で語られる気持ちに、熱い想いが込み上げてくる。
「ありがとな、ルリ」
「……っ。あ、あと、急ぎじゃないけど石材か鉄鉱を大量に用意してほしいの! で、出来るっ?」
「石材はともかく、鉄鉱は厳しいかもしれない。何せ使い道が多くて消費が激しいんだ」
「それなら石材の余剰分、全部こっちに回してちょうだい。召喚魔法の魔力を節約出来るだけで効率が変わるから」
「分かった、手配しておく」
ルリが再び魔石の採掘に取り組む光景を見つめながら、ようやくここまで来る事が出来たことに安堵する。
ただ、滅亡を回避するにはまだまだ足りない。
原作に出てきた仮想敵国を思い描きながら、今後の予定について考えを巡らせるのだった。




