After:第4話
「アッシュ、二階の部屋が一つ空いていたわよね。とりあえずあそこを掃除してきてくれない?……私はもう少しこの二人と話があるから」
「え?やっぱり、泊ってくの?アリシアさん、なんとかならないの?ねえ、アリシアさん?」
「うるさい!はやく行きなさい!!……というか、二階の窓開きっぱなしじゃなかった?」
「そうだった!やべえ、吹雪いてくる前に締めないと」
アリシアに急かされるままにアッシュはダイニングを出て行った。
そして、残った三人はさきほどまでの緩い雰囲気はどこへやら、にらみ合い寸前の剣呑な空気がダイニングに広がった。……その原因のほとんどはアッシュを追い出すなり、機嫌が悪くなったアリシアのせいに他ならないのだが。
「彼もいなくなったことだし、本題に入らせてもらうわ。聞きたいことは二つ、————この魔水晶をもらうために彼らとおこなった契約の内容と、それほどの代償を支払ってまでここに来た理由をね」
アリシアは問い詰める気で真剣な表情を浮かべていたのだが、その様子は見る人によっては恫喝のようだった。が、返ってきた返事はなんとも拍子抜けなものだった。
「……契約?……特に何もしてないですけれども。それに本当の目的もなにも、さきほどお伝えした通りミハエルを連れ帰しに来ただけですよ?……そうですよね、お義兄さま」
「はい、家出した愚弟を迎えに来るにはあまりにも遠い場所ですが、それ以上の目的はありません。しいて言うなら、家庭の事情というやつですかね」
きょとんとしたステラの表情と対照的に、レオンの表情はほとんど変わっていなかったが、嘘を言っている気配はまったくなかった。
魔晶石の出所がわかった時点で妙に身構えてしまったのだ。そのせいで妙な勘繰りをしてしまった。こめかみに手を当てたアリシアはほんの少し反省をした。加えて、なにを考えて紫の魔晶石なんて希少なものをタダ同然で彼女らに渡したのか、元の持ち主たちが自身の常識の外にいるものだということが改めて実感することなった。
「ごめんなさい、私の考えすぎだったみたいね。てっきり彼に危害を加えるために来たものだとばかり……」
「そんな!?私はそんなこと絶対にいたしませんわ!————だって」
アリシアは不思議に思っていたことがあった。
アッシュを連れ帰すのなら、兄であるレオンだけで十分であろうはずなのに、王女であるステラまで付いてきていたことに。
ステラの方がレオンよりもアッシュを連れ帰すのに前のめりなことに。
その疑問はステラ本人のたった一言で解決することとなった。
「だって、————私とミハエルは将来を、《《結婚を約束した仲》》なのですから」
顔を赤らめながらそう告げるステラの表情は、どうしようもなく“乙女”だった




