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After:第2話

「……はあ、なんでこんなことに」

 調理場で一人、お湯を沸かしながらアッシュはぼやいた。


 一波乱起きそうになった屋敷の玄関をまとめたのはレオンだった。

 彼はアリシアに対して突然訪問した無礼を丁寧に詫びると、自らの素性を明かし、ミハエル(アッシュ)とゆっくり話をさせてほしいと告げた。

 アッシュの過去はアリシアも知っていたため、素直に屋敷に入れることも逆に断ることも難しかったが、覚悟を決めたアッシュが頷いたためにダイニングで二人の応対をすることになった。


 薬草採り用の恰好では客人の相手はできないと着替えに部屋に戻ったアリシアを待つ間、アッシュは調理場で紅茶の準備をしていた。

 アリシアがあまりそういうものを飲まないため、ほとんどお茶を淹れることなどないのだが、ヴァルトシュタイン家では客人には紅茶を出していたので、その習わしが染みついていたアッシュも来客の際には淹れるようにしていた。

 紅茶を淹れてダイニングに戻ると、ちょうどアリシアも着替えが終わって戻ってきたところだった。

 すでにステラはテーブルに着いており、その後ろでレオンは直立不動で立っていた。

 ステラの正面にアリシアが座ったため、四角いテーブルに残った席はどちらも彼女たちのあいだに座るような位置になってしまった。さすがにそんなところに座りたくはなかったアッシュはレオンのようにアリシアの後ろに立つことにした。

「お待たせしてしまってごめんなさいね」

「いえ、こちらこそ急にお邪魔してしまったのに、屋敷にあげていただいてありがとうございます」

 女性二人が笑顔を向け合っているはずなのに、一歩間違えれば戦いになりそうなほどの殺伐としたナニカを後ろに立つ二人は感じていた。

「自己紹介が遅れてしまい、申し訳ございません。私はステラ。以前、あなたも住まわれていたかの国の王女です。……後ろの彼はもう挨拶していましたが、あらためて私の婚約者のレオンです」

「ご丁寧にありがとうございます。私はアリシア、……大変不本意だけれど、北部に住んでいた魔女と言った方があなたたちにはわかりやすいかしら。————彼については、紹介しなくてもいいわよね」

 アリシアのその言葉で視線は自然とアッシュへ集中した。そして、それは二人が屋敷にやってきた理由がわかっているということを暗に伝えたものでもあった。

「単刀直入に言わせていただきます。私たちは、彼を、ミハエルを連れ帰しに来ました」

 ステラが口にしたその要求はアリシアの想定した通りのものだった。ゆえに返答は瞬く間に発せられた。

「————いやよ。彼は私の下僕だもの」

 あまりにも傍若無人なその返答に、後ろに立っていたアッシュは苦笑いを浮かべた。かと思えば、同様に立っていたレオンもこめかみに手を当てて頭が痛そうなそぶりを見せていた。

 要求をたった一言で蹴散らされてしまったステラは、そうですか、と一言だけ口にしてすぐに次の言葉を紡ぐことはできないようだった。

 その隙をついて、アリシアは最初に持った疑問を解決することにした。

「それにしてもあなたたち、どうやってこの屋敷へ?普通に船や馬車でってわけじゃないんでしょう?」

 痛いところを突かれたのか、二人はバツの悪そうな顔を浮かべた。

「じつは……」

「お義兄さま、私が話します。————私たちは、伯爵と契約して、その対価としてもらったコレを使ってこの屋敷を訪れたのです」

 レオンが話そうとしたところに割り込んできたステラが懐から出したのは、紫色をしたきれいな水晶だった。それがなんなのか、アッシュにはわからなかったが、アリシアにはわかったようで驚愕の声をあげた。


「まさか、それは魔水晶!?」


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