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After:プロローグ

 数か月前、アッシュたちにヴラドと名乗った影は、自らが築いた裏世界の城の大広間でグラスを傾けながら笑っていた。これからここにやってくる人物が起こすであろう騒動を予想すると笑いが止まらなかったのだ。

 裏世界で悠久の時を生きる影にとって、表の世界で起きる人間の騒動を見ることが唯一といってもいいほどの楽しみだった。今回は特に最近のお気に入りが関わることだったので、特に期待していた。それこそ珍しく自らの姿を影に変えているほどに。


 コンコンというノックの音が広間に響いた。とうとう待ちかねた客人がやってきたのだ。

「入りなさい」

 返事をするとまず召使の小鬼が顔を出した。

「お客様をお連れいたしました」

「そんなことはわかっている。早く中へ案内しなさい」

 そんなわかりきっていることを改めて言ってくる小鬼がじれったく、影は思わず棘のある口調になっていた。

「申し訳ございません。……お客様、こちらへどうぞ」

 叱られてシュンとなった小鬼に案内されて入ってきたのは、見目美しい男女二人だった。

 女性の方は美しく長い金髪に翡翠色の瞳が特徴的で、煌びやかなドレスに身を包んでいた。その立ち姿には気品と教養があり、貴族や王族であることは疑いようがなかった。人間の基準で言えば、キレイというよりも愛らしいという表現が近いだろうか。

 連れの男性は先日見た弟よりも髪色は明るい赤色で、ひょろりと背が高かった。見た目からしてまさに文官といった感じで、髪色以外はあまり弟とは似ていなかった。

 影はこの二人の来訪を心待ちにしていたのだ。

「やあやあ、遠いところ、わざわざありがとう」

 二人の顔を見たことで先ほどまで小鬼のせいで悪かった機嫌もすっかり良くなっていた。普段なら座したまま立ち上がることなどないのに、グラスを置いて歓迎までしたほどだ。

「こちらこそお呼びいただき光栄です。伯爵には祖父の代からお世話になっていると伺っておりますから」

 相手が得体のしれない影だというのに女性の態度は敬意が感じられるものだった。それは幼いころから学んできた礼儀作法なのだろうが、自然かつ堂に入っていた。それに比べて男の方はあきらかに影を不審に思っており、背中にじっとりと汗をにじませていることに影は気づいていた。

「そんなところで立ってないで中に入りなさい。……いろいろと聞きたいこともあるのでね」

「ええ、私たちも教えていただきたいです。————ミハエルの居場所を」

 両者は笑顔を浮かべていたが、その瞳は相手を見ていなかった。おそらく、見ていたのは同じ場所だろう。

「もちろんですよ、————ステラ王女、レオンさん」


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