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第十九話

 彼が生まれたのは、王都でも一番大きな屋敷の一室だった。

 出産は城にも出入りするほど腕の立つ医師たちに見守られながらおこなわれた。

 おかげで生まれた子供は怪我や障害もなく、一族の証である真っ赤な髪を宿して元気に誕生した。

 その誕生に母は安堵し、王国の騎士団長であった父はその野望の炎を燃やし始めた。

 その時生まれた子供は、父によって『ミハエル』と名付けられた。


 ミハエルは、二歳年上の兄レオンと比べて活発な子供だった。

 五歳で木登りを覚え、六歳になるころには屋敷の塀を乗り越えて外に出て行ってしまうほど身体能力が高く、周囲の手を焼かせていた。両親はその身体能力に期待を寄せていた。


 彼の一つ目の人生の転機は、七歳の時、父に連れられて兄弟二人で城へと行った時のことだった。

 父と兄が王と謁見している間、城内を一人散策(迷子)していたミハエルはたまたま王女誘拐の現場を目撃してしまう。

 妙な正義感から事件に首をつっこんでしまったミハエルは、王女と一緒に誘拐されることになってしまった。

 事件自体はすぐに解決し、王女とミハエルは無傷で救出された。一緒に誘拐されたという奇妙な縁からミハエルは王女に気に入られることとなった。

 翌日、王様から直々に呼び出しを受けると、ミハエルは王女の友人役に任命された。ミハエルはそこでようやく王女の名前が“ステラ”ということと二歳年下であることを知った。

 王様からの命令ということもあって、高揚していたがそれはすぐに冷や水をかけられたみたいに冷めたものに変わった。なぜなら、

『ミハエル!おへやの中はつまらないから、外へ行きましょう!』

 そういってすぐに城を抜け出そうとするお転婆娘だったからである。


 活発な性格をしたミハエルも、王女が主導ということもあってあんまり気が乗らなくなってしまった。だが、友人役を任命されたことは両親も知っていたため、基本的に毎日、ミハエルは城を訪れた。そうしないと怒られるからだ。特に父は烈火のように怒るので、行かないという選択肢はなかったのだ。

 城の中庭で花冠の作り方を教えたり、王族専用の非常脱出路を使って城から抜け出したり、門番の兵士さんにいたずらしたりといろいろ付き合わされた。

 結局、花冠が作れるようになるまでかなり苦労させられたし、城から抜け出した時もいらずらした時も怒られるのはミハエルだけだったが、アッシュにはいい思い出ではあった。

 そんなこんなで一年を過ごしたあたりで、兄のレオンが海の向こうの外国へと留学することになった。政治を学ぶためであった。


 この時点のミハエルは知る由もなかったが、父であるヴァルトシュタイン卿には野望があった。————自分たちの一族が王国を手にするという野望だ。

 そのための計画として、子供を二人作った。

 一人目は、王族に婿入りし、王となる役割

 二人目は、自らの跡を継がせるための戦士の役割

 王となる役割には、レオン。戦士の役割にはミハエルを担わせるつもりだった。

 だが、この王国乗っ取り計画には大きな問題があった。

 一つ目にそもそも王族に男児が生まれた時点で、王となる役割を全うすることが難しくなること。

 二つ目に実質的な王国のナンバーツーである騎士団長の息子であっても、王族に入ることが決して簡単なことではないこと。

 しかしこの二つの問題をクリアしない限り、計画の成功はなかった。


 一つ目の問題は、王たちの子が娘一人しか生まれなかった時点で、奇跡的にクリアされてしまった。

 二つ目の問題解決のため、誘拐事件をおこし、レオンに王女を救出させ取り入ろうとした。誘拐は成功し、王女の救出も計画通りだったのだが、なぜかミハエルが巻き込まれており、結果的に彼が王女に気に入られる事態となった。

 計画からは逸れていたが、成果は想定以上だった。予定を変更し、ミハエルを王にさせ、レオンには政治を任せることにした。

 計画を考えれば、レオンに戦士の役割をさせるべきなのだが、彼は健康ではあったが、身体能力が高いわけではなかった。そのため、戦士になるには不適切だった。

 かわりに頭はよく回ったので、ミハエルが王になった際に兄を重用できるように政治を学ばせることにした。そのための海外留学であった。


 レオンが留学したことで、今まではレオンが父と一緒に出席していたパーティーなどにミハエルが出るようになった。

 そしてその頃には、ステラ王女の同伴としてもパーティーに出席することが増え、周囲の貴族たちには二人の仲は周知のものとなっていった。


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