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第十四話

「さーて、今日も一日頑張りますか」

 クマの襲撃から二週間が経ち、アッシュたちの生活は平穏そのものに戻っていた。

 その日もいつも通りに目を覚まして、朝食を作り、家事をしていたところだった。

 アッシュが屋敷の周囲の掃除をしていると、玄関の前にカラスが止まっていた。

 それを見て、アッシュは不思議に思った。屋敷の周囲の森にはカラスは生息していないはずで、街のほうでも見たことはなかったからだ。

 カラスはアッシュが自身のことを見ていることに気づくと、ぴょんぴょんと跳ねながら近づいてきた。

 そこでようやくカラスがなにかを咥えていることにアッシュは気が付いた。なにしろ、カラスと同じくらい真っ黒な便せんだったので、カラスの体と一体化してしまっていたのだ。

 アッシュの足元まで来たカラスは、便せんを地面に置くと、用はすんだと言わんばかりにそのまま飛び立っていった。

 伝書鳩ならぬ、伝書ガラスだったようだ。

 手紙を拾い上げたアッシュは宛名を確認することもなく、屋敷の中へと戻った。この屋敷に届けられたということは十中八九アリシア宛であることは間違いないからだ。

 今日は一日薬の調合をすると言っていたので、アリシアはおそらく研究室にいるだろう。

 研究室は二階の真ん中、アッシュが初日に忍び込んだ資料室の隣にある。基本的にアリシアが屋敷に籠って何かをするときは、ここに籠っていることが多かった。

 コンコン、とアッシュが研究室の扉をノックしてみるが、返事はない。

「おーい、アリシア、手紙が届いたんだが」

 仕方なく扉越しに部屋の中に話しかけると、がたがたごそごそと人の動くがした後、扉が少し開き、その隙間から額に汗を浮かべたアリシアが顔を出した。

「……なに?手紙ならあとでいいのに」

「それが、この手紙なんか変なんだよ。差出人書いてないみたいだし」

 カラスが運んできた手紙の便せんは真っ黒で、宛名も差出人も書いていないことを二階に来るまでの間にアッシュは確認していた。

 不思議そうにしているアリシアに便せんを見せた瞬間、その顔が青ざめた。

「あ、あなた、それ、どこで……」

「ああ、さっきカラスが運んできたんだよ。……これ、そんなヤバいやつなのか?」

「そうね、かなり、いやヒジョーに面倒なことになったみたい。その手紙を持って一階のダイニングに行ってくれる?すぐに私も行くから、一緒に手紙を開けましょう」

 そう言ってアリシアが扉を閉めてしまったので、しぶしぶ言葉に従って一階のダイニングで待つことにした。


 待っているとじきにリッキーがあらわれ、続くようにアリシアも二階から降りてきた。

「お待たせ、リッキーもきちんと来ているわね。————アッシュ、手紙を渡して」

 アリシアに言われた通り、アッシュは手紙を渡した。すると、アリシアはもらった手紙を開かずにビリビリと破いてしまった。

「おい、なにすんだよ!?」

「いいのよ、これで」

 困惑するアッシュだったが、その行動の意味はすぐにわかった。

 バラバラになって床にばらまかれた手紙の切れ端たちが煙をあげてながら集まると、小さな人型を作り上げた。

『もぉ~、ひどいじゃないか、読まずにバラバラなんて』

「やっぱり、あなたたちが首謀者ね」

 しゃべり始めた手紙だった人型に、アリシアは恨むような鋭い視線を向けていた。

『君ならそうすると思ってたから、驚きはないがね。では、前置きはこれくらいにして、本題に入るとしよう。

 この度は、うちのペットがそちらにご迷惑をおかけしたようだから、お詫びに明後日わが城でおこなわれるパーティーにご招待しよう』

 その小さな体躯から放たれる尊大な言葉に、アッシュは冷や汗が止まらなかった。それはまるでいつかの夜、自分にかけられた言葉と同じように感じたからだ。

 言葉をかけられているアリシアは、イラつきからなのか、眉間に深いしわを作り、すぐにでももう一度バラバラにできるように両手に力を入れていた。

『ドレスなんかの必要なものはこちらで用意しておいた。

 当日は迎えを向かわせるので、君たちは着替えて待ちたまえ

 以上だ。

 ちなみにこの手紙は三秒後に爆発するから離れておいたほうがいい』

「なっ!?」

「もう、ほんとに面倒な!」

 カウントダウンを始めた手紙をアリシアは握りしめ、どこかへ転移させた。

 次の瞬間、屋敷の外ですさまじい閃光と爆発音が響きわたった。そのあまりにもすさまじい音に、アッシュとリッキーは無意識に体をかがめていた。

「……本当に、面倒なことになったわね」

 いまだに爆発の衝撃で縮こまっている二人をよそにアリシアはダイニングに現れたあるものに忌々し気な視線を向けていた。

 その視線の先には、さきほどまではなかったスーツと真っ赤なドレスが飾られていた。


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