廃部寸前の文芸部の部活紹介の前日
私立星空高校の旧校舎二階の文芸部部室(仮)。ほとんど一年中、静かなことが多いこの場に似つかわしくない大声が部室内に響く。
「今年度の部活紹介についての会議を始めるぞ!!!」
ただむなしく響いた。
大声の主、星空高校三年文芸部部長、三上はわざとらしく咳払いをすると、もう一度大声で宣言する。
「今年度の部活紹介についての会議を始めるぞ!!!」
しばしの静寂の後、星空高校三年文芸部副部長、市沢は「新作の納豆フレーバーせんべい、がちでうまいんだけど」と言う。それを聞いた星空高校二年文芸部、菅原は「先輩、まじっすか?」と市沢の言を疑う。
市沢は「まじまじ、食ってみ」と言って、菅原に投げてせんべいを渡す。菅原はキャッチすると、鼻に近づけてみる。そして、すぐに「匂いやばっ」と言って、鼻から遠ざける。市沢は「匂いはすごいけどうまいから食ってみ」と菅原に向けて言う。「まじっすか?」と言って菅原は本当にうまいのかと半信半疑でゆっくりと口に持っていく。
その時、
「お前らーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
と三上の先ほどよりも大きな声が部室に響き渡る。
菅原と市沢の二人はびっくりして、三上のほうを向く。
「どうしたの?三上君?」
「どうしたんすか?部長?」
この段階でも二人のきょとんとした表情に三上は苛立ちを爆発させる。
「今年度の部活紹介の会議するって言ってんだよ。聞こえてたよな?」
「「一応」」
二人の一致した答えを聞いて三上はさらに苛立ちを募らせる。
「だったら反応しろよ。せんべいの話そのあとしてんのおかしいだろ」
菅原と市沢は顔を見合わせる。そして、二人はうなずく。
「「三上君(部長)に任せる(ました)」」
と言って、二人は三上から視線を外す。
「任せねえで協力してくれよ。今年新入部員が来なかったら廃部になるんだぞ。危機感持てよ」
そう言いながら三上は机をばんとたたく。それでも二人の雰囲気は変わらない。
「廃部かぁ。今度から放課後どこでグダグダしようかなぁ」
「市沢先輩の家グダグダできないっすもんね。近くの公民館穴場っすよ」
「でもあそこさぁ、飲食基本禁止じゃん」
菅原と市沢は雑談を始める。その様子を見て、三上はもう一度机をたたく。
「お前ら、廃部になったら先輩たちに申し訳ないだろうが。危機感持て」
菅原と市沢は別によくない?とでも言いたげな雰囲気を二人してかもしだす。三上はそれを無視して、続ける。
「ということで、廃部にならないために、入部者が続出する部活紹介の案を募集するぞ」
「てか部活紹介いつだっけ?」
三上は市沢からの問いを聞いて、うっと詰まったような表情を見せた後、視線をどこかにそらす。そして、先ほどまでの勢いはなんだったのか、しおらしく、ボソッと何か言う。市沢は「聞こえないけど」と言う。
その時、菅原があっさりと言い放つ。
「明日です」
と。それを聞いた市沢はえっという顔をした後、三上のほうをじとーという視線で見る。三上は市沢から目をそらしたまま、何事もなかったかのように「早く、案あるやついないか?」と言う。
市沢ははぁとため息をつく。菅原も市沢に続いてはぁとため息をつく。三上は何事もなかったかのように、「案あるやついないか?」とボットみたく何度も言う。
「部長はなんかないんですか?」
と、菅原は三上に問う。三上はよくぞ聞いてくれたとでもいいたげに、自信満々な様子を見せながら、言い放つ。
「ない!!!」
部室が静寂を支配した。
静寂が部室を支配する中、菅原は納豆フレーバーせんべいを口に入れる。菅原のバリバリというせんべいの咀嚼音のみが部室に響く。そして、一言、「うまっ」と菅原が驚いた顔で言う。それを聞いて、市沢は「でしょ~~~」と嬉しそうに言う。
「味はいいっすねこれ」
「匂いやばいんだけどね、ほんと味はいいよね。とりあえずここに残りあるから好きにたべて」
「あざっす」と二人は雑談を再開する。
すると、
「頼む~~~~~~~、俺を助けてくれーーーーーーーー」
と、三上はいきなり情けない声でそう言うと、二人に向かって頭を下げる。
菅原と市沢は黙って顔を見合わせる。そして、大きくとても大きなため息をつく。
「とりあえず、去年の文化祭で作成した作品集を配りましょうよ。どっかの考えなし部長が先輩と先生というか周りすべてからの助言も無視して無駄にすごい量刷ったからいっぱいあるし。どっかの考えなしの部長の自腹だったから文句あんまないっすけど」
「そうだね。どっかのあほ部長が無駄に張り切ったせいで無駄に余っていて、すごい邪魔だし。うちの活動を知ってもらうにはちょうどいいものであるし。どっかのあほ部長がどうせ今年も無駄に刷るだろうし、今のうちに少しでも在庫処分しよ」
菅原と市沢は部室の端っこに積みあがっている段ボールをみながら言う。どっかの考えなし部長兼どっかのあほ部長の三上は菅原と市沢から意見が出て来ることを嬉しく思う。
「お前ら他にはなんかないかな?」と涙目で三上は二人に尋ねるのだった。
そして、菅原と市沢は時折三上をけなしながら案を出していく。三上は菅原と市沢が案を出してくれることに嬉しさを覚えながら、案をまとめていく。
約二時間後。
菅原と市沢と三上、文芸部三人が案を結集すること(三上の案はすべてぼつ)で部活紹介にやるべきことと役割分担が決まった。
といっても大したことをやるわけではないが。
時間も予算もないので、部活の説明をし、文化祭で作った作品集の中にあった詩を一つ朗読することになった。作品集もちゃんと全員に配ることにした。
役割分担は10分以上の激論の後、公正公平な決め方の結果、朗読を市沢が、部活説明を三上が、作品集の配布準備は菅原が担当することになった。
市沢は朗読担当が決まった瞬間、辛いものが大の苦手の三上の口に超絶激辛せんべいをすばやく突っ込んだ。あまりの早業に三上は、驚き、つい口を閉じた。閉じてしまった。
そのため、三上は超絶激辛せんべいを口に含むことになり、一瞬なんと表現したらいいかわからない表情をした後、「ぎゃーーーーーーーーーー」と叫んだ後、部室から消えた。10分ほどして、物凄く消耗した様子で部室に戻ってきた。
戻ってくるなり、
「市沢と菅原、君たち二人のおかげで、明日の部活紹介はなんとかなりそうだ。助かったよ」
と、どこか遠い目をしながら三上は言う。菅原と市沢はうなずく。
三上は咳払いをわざとらしくする。その後、本気の咳を少しして、残る元気を振り絞るように大きな声で言い放つ。
「じゃ明日の部活紹介は三人力合わせてがんばるぞーーーーーーーーーーーーー」
三上の大きな声が部室内に響いた。
「市沢先輩、それでですね。駅前の弁当屋、麻婆豆腐弁当だけ。麻婆豆腐とごはんを単品ずつで分けて頼んだ方がお得なんですよ」
「えっそうなの?私あそこの麻婆豆腐好きでよく頼んでるんだけど」
「分けて頼むほうが麻婆豆腐が少し多いし、漬物がつくんですよ。値段一緒で」
「まじー知らなかった」
菅原と市沢は部室を片付けながら、三上がいなくなる前にしていた雑談の続きを再開する。三上などいないかのように無視して。
三上は小声で「おー」と言って右こぶしを小さく上げる。
そして、
「あそこのハンバーグうまくね」と二人の話に割り込む。
「部長、わかってますね。あそこはハンバーグが最強なんですよ。僕のお気に入りはトマトソースです。ハンバーグの素材の味がダイレクトに感じれます」
菅原は三上のほうを向いて、後半早口で反応した。
「私はデミグラス派だけどね。ソースが、がちうまい」
「「わかる」」
菅原と三上は声を合わせる。
そして、三人は部室を片付けながら、楽しそうに雑談を続けるのだった・・・