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戦隊グリーンを辞めたその後で  作者: しゃーく
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おまけ2  ある日のトリカブト

 時は純が就活に励んでいる時。

「ほらウィスキーロック」

「ありがとう。…ふぅ、ママ、最近随分と若い娘が入ったって聞いて来たけど、いい娘を雇ったね」

「ふふふ、ありがと〜」

ある日のスナック『トリカブト』。常連客の1人、松永が訪れていた。

「うん、本当に。スタイルいいし、顔めっちゃ可愛いし、というか、何よりおっぱいでかいのが良い」

「死ねカス」

「あんたは相変わらずクズね〜」

彼はこれでも、街の教会の牧師である。

「そもそも、聖職者とは飲酒をしても良いものなのか?」

「ふふ、初めて君から話しかけてくれたね。いい質問だ。宗派にもよるが、僕の所属するところでは禁止にはしていないのだよ。理性を失わない程度にならオッケーさ。あとついでに、カトリック教会の神父と違って、プロテスタント教会の牧師は妻帯も可能だ、ぜ?」

レイを松永のウインクが襲う。

「今まで理性があったことに驚きだな。このプロテスタント教会の汚れめ」

 松永はレイの毒も全く意に介した様子はない。彼はおもむろに本を取り出し、ページを捲る。

「毒を吐く女性ほど、実は汝に気があるものなのです。つまりは愛の裏返し。汝、決して怒ったりせず、広い心で受け止めましょう。(ローズ花園 著『いい女の堕とし方』第三章十二節より)」

「いかがわしい本の内容をを聖書の引用みたいに言うな!ママ、この性職者は永久的に出禁にするべきだ」

「こいつのゴミクズっぷりは今に始まったことじゃないし、お金を落としていってくれるなら別にいいわよ〜」

「こんなにもイラつく相手は初めてだ。こいつの存在は神を冒涜している」

「効くぅ~!この毒が寧ろ気持ちいいッ!」

「うぇっ…」

ドン引きである。

「はぁ…」

「あらあら珍しいわね〜。レイちゃんが溜息なんて」

レイは松永のあまりの奇特さに疲れ果てていた。

「それはそうだろう。何なのだこいつは!この街にこんなにも奇特な人間が居るとは」

「ウチの常連さんって結構変わった人が多いけど、コレは特別ね~」

「生理的に受け付けないと思った人間はこいつが初めてだ」

「レイちゃん、コレを人間扱いしちゃダメよ〜。あんたはどうせなら畜生に生まれてきたほうが幸せだっただろうにね〜」

「ふふっ、2人共辛辣だな。だが、それがいい」

 などと話していると、店のドアが開き、新たな客が来店した。20代半ばくらいのスーツ姿の男性だ。

「いらっしゃ〜い。あら、初めてのお客さんかしら〜?ゆっくりしていってね〜。はいおしぼりどうぞ」

「あ、どうも…すいません、隣失礼します」

「あぁ、どうぞ。ふむ…」

松永は男性の全身を舐め回すように見る。

「え、な、何ですか…?」

「いや君、見ない顔だなって。ここに若い客が来るのは珍しいからさ。僕は松永。ママ達には畜生とか、ゴミクズとか呼ばれてる。この店は初めて?」

「この店というか、スナック自体初めてなんです。作法とかわからないですけど、何事も挑戦だと思って来たんですが、どう楽しんでいいのか…」

「作法なんて気にしなくっていいのよ〜。スナックっていうのはね、ママに話を聞いてもらいたいとか、ママの手料理目当てとか、他の客との会話とか、楽しみ方なんてなんだっていいのよ〜。そしてあたしはここでママやってる紅緒よ〜。こっちはバイトのレイちゃん。お客さんのお名前は?」

「毛利と申します」

「なぁ毛利くん、スナックってのはね、こうやって楽しむのだよ。見てな?レイちゃん、スリーサイズ教えて?」

「マジで殺すぞカス」

「ふぉああぁ〜、効くぅ!な?楽しいだろ?」

「それ本気で思ってます?はぁ…なんか余計に疲れたな…」

「あらあら、なんだか疲れているみたいね。…ふむ、ここはママの出番だわ。毛利ちゃん、飲み物はなんにする?」

「えっと、じゃあ、焼酎水割りをお願いします」

「はいお待ち〜」

「どうも…。…ッ!?お、美味しい…!ぼくの好みの濃さだ!なんで分かったんです!?」

「ふふふ、この仕事を長く続けてるとね、お客さんの顔を見た感じで分かるのよ〜」

(これが常連客から長年愛されるママの実力か…!一体どれほどの修練と経験を積めばあれ程に…!?)

「…実は今日、上司のミスが原因で残業だったんですが…はっ!今無意識に愚痴を…!?これが、紅緒ママの能力!?」

「毛利くん、君見かけによらずノリいいね」

「ふむふむ、で、その上司は定時で帰っちゃったと…」

「はい…こういう時って、どうすればいいんでしょうか?こういうことをいちいち気にしすぎるといけないような気もしますし…」

「そういう相談なら、今丁度うってつけの職業の客が居るわよ?」

紅緒ママとレイの視線が一点に集まる。

「え、…僕?」

「貴様しか居らんだろう」

「毛利ちゃん、コイツね、意外かもしれないけど、牧師さんなのよ〜」

「え、松永さん、そうだったんですか!?」

「ふぅ、仕方ないな。どれ、毛利くん、そんな疲れた君にこの言葉を送ろう。汝、疲れたのなら、その分慰めてもらいなさい。そこに愛はいらないのです。(ローズ花園 著『疲れた貴方へ』第二章四節より)」

「何ですかこれ?」

「だいたい、ローズ花園とは何者なのだ」

「ホントに救いようのないくらいにクズね〜」

こうして夜は更けていく。















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