2話 運命の再開…?
「…マ、マママママ、お、お俺、やっぱりももう帰る、帰るわ…お釣りは要らないんで、じゃ!」
「あ!ちょっと純ちゃん!?」
純はまさかの再開に動揺しまくり、震える手で財布から札を取り出すと、カウンターテーブルに置いて逃げるようにスナック『トリカブト』をあとにした。
(流石にヤバいだろ!?万が一にでも俺が元ジャスティファイブだってバレてみろ、最悪戦闘だってあり得る!そうなったら俺一人でディアボロス最高幹部に勝てるはずない!そもそも変身デバイスだって無いし!…でも、すげー可愛かったなぁ…。あの素顔を見れただけでも良しとしよう、うん!でも『トリカブト』に行けなくなったのは辛いな)
一方、『トリカブト』。
「…行っちゃったわ。お代足りてないわよ〜」
「私が行ってやる。ママはここで待っているがいい」
レイは純を追って出ていった。
「あ、ちょっとレイちゃんまで」
(あの男、私の正体を知っていた…!?何者だ?ディアボロスの元戦闘員か?基地内では皆常に戦闘コスチュームに変身していたから素顔を見たことはないが…それに昔から人の顔を覚えるのは苦手だ。だがあの声、どこかで聞いたことがある。まさか、ジャスティファイブか!?不味い、このまま逃げられると他の奴等に私のことを喋られる!その前に何としても見つけなくては!)
レイは辺りを見渡すと、帰宅ラッシュを過ぎて人通りが幾らか少なくなった道に残業終わりのくたびれたサラリーマンに混じってフラフラと千鳥足で歩く男の姿をマサイ族並の視力で捉えた。
「見つけた!逃がさんぞ貴様!!」
レイは自転車くらいなら余裕で追い越せるのではないかというスピードでその男を追う。長い銀髪三つ編みポニーテールを夜風に靡かせそのスピードと声量に驚いたサラリーマン達を華麗に抜き去り、その距離は見る見るうちに縮んでいく。
「待て貴様ァ!!」
「え、な、にゃにぃ!?」
純が振り返ると、スナック『トリカブト』に居たはずの新人バイトで元ディアボロスの最高幹部、シャウラ・バロネス、本名毒島レイが人間離れしたスピードで追いかけて来ていた。
「うおあああぁ!!ヤバいって!変身前だろ!?ディアボロスの最高幹部は化け物か!?」
純は千鳥足で必死に逃げるが、つい先程まで現役のヒーローだったからといっても今となってはただの酔っぱらいのオッサンである。当然逃げ切れるわけもなく、すぐに追いつかれた。
「はぁ…ひぃ…うぇっぷ、ど、どうか命だけは…!」
(なんだコイツ、なんだこの情けない姿は。ジャスティファイブか?こいつが…?だがこの声、聞き覚えがある、と言うよりあの人の声ととても似ている…10年前のあの人に。いや無いな。あの人がこんなに死にかけのドブネズミのように情けない男なはずがない!コイツはおそらくディアボロスの元戦闘員だ。ならこの私の正体を知っていてもまぁ不思議ではない)
「おい、貴様」
「ひぃ!やめて殺さないで!」
「何を言ってる?貴様が置いていった今回の飲み代、足りていないのだ」
「…え?」
「貴様あれほど飲んでこれだけで済む訳がなかろう。さっさと出せ」
「あ、はい。すいません」
純は飲み代の不足分を支払い、帰ろうとするが、レイが立ち塞がった。
「待て」
「ま、まだ何か…?」
「貴様、何故私がシャウラ・バロネスだと知っている?貴様のような無様で情けない男がジャスティファイブな訳が無いし、貴様もディアボロスの元構成員か?」
「えっ…と…」
(ちくしょう!さっきから下手に出てりゃ上からものを言いやがって!こいつどう見たって20歳くらいだろ?ったく、最近の若い奴は年上に対する口の聞き方知らねーのか)
と、心では思っても口には出さない。
「はい、そうです!自分元ディアボロス戦闘員であります!さっきはその、思わぬところでシャウラ樣に再開したのでつい口に出してしまいました!申し訳ありません!」
「ふむ、やはりそうか。てっきりジャスティファイブかと思って焦ったぞ。人前ではシャウラの名で呼ぶなよ。以後気をつけろ」
「ラジャーであります!」
(あ、あぶねえええ!こいつがチョロくて助かったー!)
「ディアボロスの仲間と再開出来るとは思わなかった。また店に来い。ではな」
「お疲れ様であります!」
純はなんとか絶体絶命のピンチを乗り切った。