8話 白雪小百合−newcomer−
純とレイが同じアパートの住人でしかも隣同士だと判明してから2週間が経ったある日の朝。
「行ってきますよ…っと、まぁ、誰も返してくれる人はいないんだけどね」
純が会社に向かおうと部屋の扉を開けると、目の前に部屋着姿のレイが立っていた。
「うぉっ!!?な、なんだよ!?」
「…んっ!」
「…え?なにこれ?」
レイは純に手に持っていた小さな犬のデフォルメキャラがたくさんプリントされたランチバッグを差し出してきた。純は反射的に手に取ってしまう。
「貴様いつも昼はコンビニで済ませているだろう?紅緒ママが心配していたのだ。…紅緒ママがな!そこで丁度ママに最近料理を習っているこの私が練習ついでにこれから直々に弁当を作ってやることにしたのだ。ありがたく思え」
「これ、毒とか入ってないよな?」
「あ?」
「いや、冗談だよ冗談!もちろんありがたいけどさ、遅くまで仕事だったんだろ?仕事終わって疲れてるのに更に負担かけるのは悪いよ」
「ふん、私はこの程度で根を上げる程貧弱ではないぞ。仕事だって始まる時間が遅いのだ。今から寝ればなんの問題もない。そもそも今日は私は休みだしな」
「あぁ、そうすか。じゃあ、ありがたく…」
「もし一品でも残したら次の日のおかずは全てそれにしてやるからな」
「はいはい」
仕事に向かう純を見送ってレイは欠伸をひとつ。
「さて、寝るか」
所変わって、有栖川製作所。昼休みになったので、いつもの面子で休憩室に集まる。ランチバッグを出すと、コンビニのおにぎりをパクついていた蟹江が鋭く反応した。
「あれ、緑川さん今日はコンビニじゃねーんすか?」
「あぁ、まあね」
「しかもそのランチバッグ、どう見たって30の独身のオッサンが持ってるようなもんじゃない。さては緑川さん、彼女でもできたんすか!?」
「え、マジなの緑川君!?水臭いなぁ、そういう事は言ってくれよ」
「いや、そんなんじゃないですよ。ただ知り合いが料理の練習してるからって、その練習ついでに作ってくれてるだけですって」
「なんだ、つまんねー」
「いや、蟹江君、僅かだがラブコメの波動を感じるぜ!」
「水野さん、そういうのキモいんでやめたほうが良いっすよ?」
「え…」
時は流れて、場所はスナック『トリカブト』。その扉の前に1人の女性が立っている。
「…ついに見つけたわ、マイハニー」
女性はひとつ深呼吸をすると、店の扉を開けた。
「ごめんなさいね~、まだ開店前なのよ〜」
「私をここで働かせてほしいのだけれど」
「あら、デジャヴ〜」
紅緒はとりあえず女性をボックス席に座らせ、面接を始める。
「私は白雪小百合、22歳」
「あたしはここでママやってる紅緒よ〜。早速だけど、こういうお店で働いた経験はある?あ、この質問は形式的なもので、結果には関係ないからね」
「いいえ、初めてよ」
「成る程、じゃあウチで働くとなったら、週何日くらい入れそう?」
「定休日以外毎日でも問題ないわよ」
「…採用!!」
「ふっ、当然の結果ね」
スナック『トリカブト』に新たな従業員がやって来た。
やっと女性の新キャラ出せた…