九十五話 【魔導獣再び】
エルメリオン王都を出発し、港町【ミクシル】を目指す。
「風が気持ち良いね〜」
エイルは窓から入ってくる、そよそよと吹いている風を感じている様子。
俺達は丁度ミクシルに向かう予定の獣車がいると聞いて乗せてもらっている。
初めは歩いて行こうと考えていたが、エイルが獣車がどうしても良いと言うので獣車で向かう事になった。
「どの位でミクシルに着きますか?」
「この獣車なら大体五日だね」
俺達が乗せてもらっている獣車は、行商人のご家族が商売様に使っている獣車だ。
丁度ミクシルに向かうと言うので、獣車を運転している旦那さんにミクシルまでの日数を聞くが、なかなかに時間がかかる。
歩きだったら倍はかかっていたかも知れない。
獣車にして正解だな。
獣車の荷台には俺達の他に行商の荷物と奥さん、そして五、六歳位の女の子が乗っている。
旦那さんは【ダリル】 奥さんは【ポーラ】 娘さんは【タニア】と言う名前らしい。
そのタニアちゃんが俺の肩に乗っているレアを見つめている。
運賃を安上がりにする為にレアには小さい猫になってもらっているからだろう。
レアを見つめていたタニアちゃんが俺に話しかけて来た。
「お兄ちゃん、その子はお兄ちゃんの?」
「そうだよ」
「名前はなんて言うの?」
「レアって言うんだ」
「可愛いね、撫でても良い?」
「レアはどうかな?」
「ニャ〜」
「良いって言ってるよ」
「お兄ちゃんネコちゃんの言葉がわかるの?」
「まあね」
レアは俺の肩から降りてくると、タニアちゃんの膝の上に飛び乗り丸くなり座る。
「わ、わ、ネコちゃん!」
タニアちゃんは嬉しそうにレアを撫でる。
「すいません」
「いえ、構いませんよ」
「よろしければどうぞ」
ポーラさんに飴を二つもらった。
飴を舐めながらタニアちゃんが嬉しそうに撫でているレアを今度はエイルが羨ましそうに見ていた……。
今度撫でさせてもらうと良いよ。 撫でさせてくれるかわからないけど。
夜は獣車の周りに魔生獣避けの魔導具で囲い、俺達はダリルさん達とは別で夕飯を食べる事になる。
ダリルさん達は獣車の中に残り、俺達は夜営をする事にした。
夫妻には俺達二人共ガルと伝えてある。
本来なら護衛として依頼を受けるのだが、この辺の魔生獣ならダリルさんでも倒せるらしく依頼は出さないらしい。
その夜、見張りは俺がやるのでダリルさん達家族には寝てもらう事にした。
エイルは先にテントで眠っている。
タニアちゃんはレアとどうしても一緒に寝たいらしいので一緒に寝る事になった。
レアはいつも大人気。
こうして道中、強い魔生獣に襲われる事も無く、順調にミクシルの町に向かっていた。
明日にはミクシルの町に到着するはずの四日目の夜、魔生獣のムーガウの群れに襲われた……、いや、何かから逃げている?
ムーガウはこちらから攻撃さえしなければおとなしい。
だが一度怒らせると、その水牛の様な巨体で角をギラつかせて攻撃してくる。
そのムーガウは魔生獣避けの魔導具を蹴散らし、獣車を避け奥の森へと逃げて行く。
「ムーガウが……」
群れの地響きで目が覚めたダリルさんも驚いている。
エイルもさすがに起きて、何事かと慌てている。
「なに!? なに!?」
「魔生獣だ! エイルはポーラさんとタニアちゃんを見てくれ!」
「うん! わかった!」
さすがガル、エイルは素早く二人を見に行ってくれた。
荷台からタニアちゃんの鳴き声が聞こえる。
「ママーー!!」
「大丈夫、大丈夫よ」
ポーラさんは泣いているタニアちゃんを抱きしめ、エイルは魔導銃を取り出してかまえている。
レアも勿論タニアちゃんの側から離れない。
「一体なにが?」
「わからない……、この辺りでムーガウの群れに勝負を挑む様な魔生獣はいないはずなんだが……」
この辺りに詳しいダリルさんがわからないって事は、つまりムーガウの群れに勝負を挑んでも勝てる魔生獣がいるって事になる。
ムーガウの群れが去った後、何かが近づいてくる気配を感じる。
暗闇の中、二つの目が赤く光る。
ムーガウの血がベッタリと口の周りを汚し牙を赤く染め、現れたのは大きな蟷螂の様な見た目の魔生獣だ。
「な……、なんだ、あれは……」
ダリルさんは顔色が青くなり、引きつらせている。
「知ってる魔生獣ですか!?」
「い、いや、知らん……。 だが、最近正体不明の魔生獣が出ると聞いたが……、まさかこいつが……」
ダリルさんでも知らないとなると……、もしかして魔導獣かも知れない。
ムーガウの群れに喧嘩を売って勝てる相手はそうはいないだろう。
そいつは逃げたムーガウを追う事を辞め、こちらに狙いを定めて来た。
「荷台にエイルもいます! ダリルさんは獣車を走らせてください!」
「そんな事をしたら君が!」
「俺は大丈夫です! 急いで下さい!」
「わかった、ガルの君を信じよう! 必ず追いついて来てくれ!」
「はいっ!」
ダリルさんは獣車を走らせ、この蟷螂から離れる事が出来た。
「さて……と……」
俺は獅堂剣を構え、蟷螂と対峙する。
先に動いたのは蟷螂の方だ!
二本の鎌を凄い速さで振り抜いてくる。
その鎌を躱し剣で攻撃しようとしたが、蟷螂の腹の辺りから更に二本の鎌が勢い良く振り抜いてくる。
「しまっ!」
こんな隠し球があるとは思っていなかったので、隠し鎌の一本は防げたが、もう一本が防げない!
やられたと思った時、レアが大きな猫の姿でその鎌を根本から噛みちぎっていた。
「レア! なんでここに!?」
「ご主人様が残るなら私も残りますにゃ」
「ダリルさん達は!?」
「エイルさんがいますから大丈夫にゃ」
「そうか、助かったよ」
「油断大敵ですにゃ」
「ああ、そうだな……。 レア、あいつ……」
「はい、おそらく魔導獣ですにゃ」
「やっぱりそうか……」
ヴァルスケルハイトの誰かが召喚していた魔導獣なのかも知れない。
「いくぞレアっ!」
「かしこまりましたにゃ!」
俺達は蟷螂の魔導獣に向かって行った。
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