八十九話 【侵入】
巨岩の大地にあるヴァルスケルハイトの魔導飛空船の基地を破壊する為に俺、エイル、レア、アンの四人で忍び込んだ。
基地の中は入り組んでいて、魔導飛空船の発着場を探すのは苦労しそうだ。
「……私に任せて……」
アンは少し先に行くと、三枚の黒いローブを持って来た。
「これどうしたんだ?」
「……向こうで手に入れた……」
受け取ったローブを俺、エイル、アンで着る事にしてレアは小さい猫に変身してもらい俺の懐に入る。
「発着場や整備工場は何処だろうか?」
「ご主人様、私が探してみますにゃ」
レアはしばらく目を瞑ると、人の出入りが多いと思われる空間と、人がほとんどいない広い空間がある事に気がついた。
「よし、そこに向かってみよう」
基地の中は結構入り組んでいるが、なんとなくリュビナイトがあった場所に似ている。
時折すれ違う黒ローブの人にはなんとかバレずにすんでいるようだ。
「ご主人様、だいぶ近づきましたが、急に人の気配が無くなりました。 動きがなんだかおかしい気もします」
「おかしい?」
「はい、急にいなくなったように感じます」
ふ〜む……、なんだろう?
罠っぽいな……。
「エイル、アン、俺とレアはこれからレアが気になった場所に行って来る。 だが、罠の可能性もある。 二人はもう一つの空間が広い場所があるらしいからそっちに行ってみてくれ」
「それならケンジ達も私達と一緒の方が良くない?」
「どっちが正解かわからないからな。 だけど危なくなったら逃げてくれよ」
「……わかった……エイルは私が守る……」
「私だって頑張るよ」
二手に別れ、俺とレアは急に人がいなくなった場所に向かっていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「アン、こっちで良いんですか?」
「……多分……」
エイルとアンは俺達とは別ルートで基地の中を進む。
「……エイル隠れて……」
アンはエイルの腕を引っ張り近くの部屋に入ると、部屋の前をローブの人達が通り過ぎて行く。
「別に隠れなくても良いんじゃない?」
「……私は大丈夫だけどエイルが……」
「私そんな簡単に見つかるようなドジじゃないよ」
「……わかってないなら良いい……」
ここのローブを着ている人達の中には女性もいる。
しかし、エイルのようにローブのサイズが合わず、一部が盛り上がり過ぎて胸元が開いている人はいない……。
アンの助けもあってか、二人は広い空間に到着する。
そしてそこで見た光景に驚きが隠せなかった。
「え! ……うそ……」
「……やばそう……」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ご主人様、この先にゃ」
「中に誰かいるか?」
「……一人だけいるにゃ」
「そうか、一人ならなんとかなりそうだ」
俺達は広い部屋に入る。
部屋の中は何も無く、テーブルも無ければ椅子も無い。
ただ広い空間があるだけだ。
「待っていたわ」
中にいた人から声をかけられた。
「あれは……、暗緑の塔で会った銀薔のムーン……」
「あら、覚えていてくれて光栄だわ」
「何故君がここに?」
「私だってヴァルスケルハイトよ。 いてもおかしくないでしょ? ね、兄さん」
「兄さん?」
ムーンは俺達の後ろを見ると、ローブに身を包みフードを被った人が立っている。
「気がついていたか……」
フードを取ると、サンドライトの姿がある。
「もしかして着いてきたのか?」
「妹の足取りを追っていたら、お前らがいただけだ」
「兄さんもしつこいわね、それともこちら側になりたいのかしら?」
「ムーン……、お前を取り戻すっ!」
「出来るかしら?」
ムーンの鉤爪がサンドライトを襲う。
お互い激しくぶつかっている。
「兄さん、前より出来るようになったじゃない。 で、も、私もあれから変わったのよ」
ムーンは姿を狼人間へと姿を変えると、鉤爪が外れかわりに鋭い爪で攻撃してくる。
「ほらほらどうしたの兄さん! 防戦一方じゃ私は倒せないわよ!」
部屋中を飛び回り、かろうじて防御しているがムーンの爪でサンドライトのローブは破れ、狼人間の姿が現れた。
「……やっぱり兄さんは誰も守れない、助けられないのよ!」
「ムーンっ!」
サンドライトは俺達の方へ吹き飛ばされた。
その時、別行動していた二人が戻って来た。
「ケンジ無事?」
「エイル! アン!」
「……こっちは無事終了……」
エイルとアンが一人の人物を連れて来ている。
「エイシスさん! どうしてここに!?」
「いや〜、研究の旅をしていたら捕まってしまいまして」
エイルとアンは飛空船に爆弾を仕掛け終わって戻る途中、エイシスさんとばったり会ったらしい。
「あら? お友達かしら? それならそれなりのおもてなししないとですね」
ムーンは俺に向かって攻撃してくる。
「くっ! おい! サンドライトはお前の兄貴だろっ! なんで攻撃するんだ!」
「そうね……、それじゃ少し私の話しをしてあげる」
ムーンは少し距離をとって俺達に語る。
「私と兄さんは幼い頃からいつも一緒。 仲良く暮らしていたわよ。 でもある日、私はヴァルスケルハイトに捕まって、狼人間としての能力の為に実験体にされたわ。 それは辛い日々が続いたわ……。 そんな時、あるレリックが見つかったの。 そのレリックは狼人間としての私にピッタリ合ってヴァルスケルハイトの一員になったのよ」
「だからって、自分の兄貴に牙を向くことは無いはずだ!」
「そうね、だから兄さんの事は無視していたのだけど、兄さんがしつこく追いかけてくるから仕方ないじゃない」
「それはまた一緒に過ごしたいからじゃ無いか!?」
「私はもうそのつもりは無いの。 ヴァルスケルハイトの一人として生きていくつもりよ!」
ムーンは語り終えると襲ってくる。
「やめろ! ムーン!」
サンドライトがムーンの後ろから羽交締めをし、動けないように押さえた。
「くっ! 兄さん離して! 私はこいつを倒さないといけないの!」
俺を倒さないといけない? どう言う事だ?
「ムーン……、俺はお前をやっと見つけたんだ! お前には誰も傷つけさせない! 一緒に帰るぞ!」
「……兄さん……」
ムーンが力を抜くと、サンドライトもムーンを離す。
「……兄さんお願いがあるの……」
「なんだ?」
「私を殺して……」
「なっ! 何を言ってる!」
「私の中にあるレリックは多分もうすぐ暴走する。 そうなったら私はこの部屋の中の人を……、それだけじゃ無くて出会った人をきっとこの手にかける……。 もう時間がないの……」
「そ、そんな事出来るわけ無いだろ!」
「レア、ムーンのレリックをどうにか出来ないか?」
「私では無理にゃ」
「リュビナイトならなんとか出来るんじゃ無い?」
「その時間があるのか……?」
「なんの話しでしょう? その……リュビナイトとか? 私にも教えてください。 ねぇ、ねぇ?」
エイシスさんは状況が飲み込めていないのか、研究者として疼くのか、しつこく聞いてくる。
「……貴方はこっち……」
アンに引っ張られて行く……。
「待って下さい、私なら何かわかるかも知れません!」
アンに引っ張られて行くエイシスさんはムーンを指差して語る。
そうか、研究者のエイシスさんなら何かわかるかも知れない。
「アン、エイシスさんを離してあげてくれ」
アンはエイシスさんを離すと、エイシスさんはムーンに近づいて行く。
ムーンはエイシスさんを見ると震え始めた。
「いや〜、お二人の関係はご存知ないですがムーンさん……、これでは研究がはかどりませんよ。 しっかり実験体として活躍して下さいねっ!」
エイシスさんはムーンに何かをぶつけると、ムーンが苦しみだす。
「あああああ!! ぐっ! に、兄さん……、逃げ……て……! 早くっ!」
「おい! ムーン! 貴様ぁ! 何をした!!」
サンドライトはエイシスさんの胸ぐらを掴む。
「私にかまっていて良いんですかね? ほら、妹さんが苦しんでいますよ」
ムーンの目は赤く染まり、体が一回り大きくなると一瞬でサンドライトを殴り飛ばした。
「エイシスさん! 何を!」
「ムーンに何をしたの!?」
エイシスさんは何をした……?
「おやおや、まだわかりませんか? 私はヴァルスケルハイトの一人なんですよ」
「エイシスさんがヴァルスケルハイトだと!」
「そうです。 私は人造人間について研究していましてね。 そこの狼人間は私の実験体なんですよ」
「実験体だと! それじゃ今まで騙してたのか!」
「騙す? 人聞きが悪い。 私は研究者ですよ。 私の護衛でレアさんを見た時は興奮しました。 是非私の実験体になって欲しく、シャッテに攫ってくるようにと言ったんですが、失敗してしまいましてね。 しかしせっかくの機会です。 私の実験体と戦って研究データを取らせてくださいね」
こいつ……、こいつが元凶か……!
「ふざけるな!」
俺はエイシスに飛びかかるがムーンに阻まれた。
「ムーン! しっかりしろ!」
「グルルルル……、……ガッ!」
ムーンに向けてエイルの攻撃が当たる。
「ケンジ! ムーンは私達に任せて!」
「……ケンジはその変態を倒して……」
アンは俺からムーンを引き離し、エイルとアンで対峙する。
俺はエイシスに向けて獅堂剣を構えた。
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次話も頑張ります。




