五十一話 【共闘 そのニ】
ガスパとの戦いがやっと終わったと思ったらヴァルスケルハイトの魔血のハイブラとの戦闘が始まる。
【赤き月のワルキューレ】の配下である【ヴァルキュリア隊】のララとラル。
二人はエイル、ルルア、そして助っ人に来てくれたリーナとラヴィンが戦っている。
「美しき薔薇の舞い!!」
ラヴィンの奥義が炸裂する。
ララとラルは二人で息ぴったりにラヴィンの奥義を防御した。
「やれやれ、二人とは言え僕の華麗な技を防ぐなんてね」
「あんた、相手が可愛いからって手加減してんじゃないだろうね!」
「とんでも無い……、僕は全力ですよ。 防いだのはあの二人の実力です」
「そうかい、それはそれで厄介な相手だね」
ララとラルの実力は本物だ。 ラヴィンとリーナの間を抜け二手に別れると、攻撃力の低いエイルとルルアを狙ってくる。
「あんたの相手は私だよっ!」
ルルアの前に立ちはだかってラルの攻撃をリーナは大盾で防ぐ。
エイルに攻撃してきたララの攻撃はラヴィンが受け止める。
「お嬢さんどうかな? 僕の強さは?」
「そう言うのはケンジに勝ってからにして下さい! でも助かりました」
エイルはラヴィンの後ろから魔導銃をララに向けて打ち牽制する。
エイルの魔導銃は一つの魔導石で三発しか撃てないと聞いている。
アームダレスの王様から魔導石を少しもらってはいるが、撃ち終わったら魔導銃に魔導石をはめ込まないといけない。
ルルアのマジックハンドは片方切り落とされてしまっている。
四対二の戦いだが、実質は二対二だ。
ラヴィンもリーナも試合のせいで完璧な状態では無いだろう。
なんとか戦っている状態だ。
助けに向かいたいが、俺の前にはヴァルスケルハイトのハイブラがいる。
恐らくあの二人より強いだろうな。
「あの二人もなかなかやるようですね……、ですが死合いでお疲れのご様子です。 ララとラルに任せておけば大丈夫でしょう。 ではこちらもそろそろ死合いましょう」
ハイブラは地面から少し浮かびフヨフヨとしていたが、お姫様めがけて勢いよく飛び込んで爪を伸ばしお姫様の腕を裂いた。
「くう! まさか私の闘気ごと皮膚まで切られるなんて!」
「大丈夫か!?」
「もちろんです。 この位、お父様との修行に比べたら大した事ございません」
お姫様はそう言うが、三本の爪痕から赤い血が滴り落ちている。
「ふっ!」
お姫様が闘気と力を込めると傷が小さくなり血がピタッと止まる。
「おお! すげぇ!」
「貴方程の回復では無いですが、私にだってこの位は出来ます」
ハイブラはお姫様を見て「良いですね、素晴らしいです」 と拍手をしている。
「随分と余裕そうですね……。 あんまり私をナメないで下さいっ!」
お姫様はハイブラに真っ直ぐ突っ込んで行く!
それじゃいい的だ!
ハイブラも勿論カウンターを取ろうと向かってくるお姫様を待っている。
「はああああ!!」
お姫様の拳がハイブラの顔面めがけて放たれる!
「そんなつまらない攻撃を!」
ハイブラのカウンターがタイミングバッチリで鋭く尖った爪がお姫様の体を貫いて…………無い……。
「なっ! これはっ!」
ハイブラの手足に地面から伸びた鈍色のツルのような物が絡みついて動きを止めていた。
「チェストオオオオオ!!」
お姫様の一撃がハイブラの顔面に直撃すると、壁際まで吹き飛んで行く。
鈍色のツルは直ぐに解け、一つにまとまりポヨンとしたスライムに変わる。
「このスライムは!」
「……そう……私……」
いつの間にか俺の後ろにアンが立っていた。
「なんでアンが? ハイブラは君の雇い主だろ?」
「そう……でも、ケンジをいじめる奴は許さない……」
「そ、そうか……、でも助かる」
「……褒められた……」
アンは両手で頬を押さえながらレアの方を向いてドヤっている。
「ご主人様を助けるのは私です!」
「……私の方が強い……」
二人は睨み合っているが、今はそんな事をしている暇は無いぞ!
ヴァルスケルハイトを名乗る相手だ。 この位で倒される相手では無いはず。
「そこ! 今は戦闘中です! 遊んでいる暇は無いですよ!」
ほら怒られた。
なんて考えている場合じゃ無い。
俺も気合い入れ直さないとな。
「…………ふ〜……、良い奇襲でしたよ」
体に着いた土埃を落としながら起き上がり首をコキコキ鳴らし服を直している。
殴られた顔の歪みは既に無い。
「ご主人様、あの再生は厄介です。 全員で攻撃を集中させないと倒せないかも知れません」
確かに俺程の再生力は無いだろうが、あの一撃は顔だけで無く首まで折っていたはずだ。 それを何事も無かったように立ち上がるなんて……、これがヴァルスケルハイトの実力か……。
「なかなか良いパンチですが今の攻撃で私を殺せないのは頂けない。 もう少し楽しませて下さいませ!」
ハイブラは口から赤い霧を吐くと、俺達を包み込んで行く。
辺りが赤い霧で覆われ、皆んなが見えない。
「皆んな、大丈夫か!?」
「私は大丈夫です!」
「……へっちゃら……」
「ご主人様、私の探索でハイブラの場所を確認して━━、きゃあ!」
ゴッ! と言う音がすると、レアの声がし無くなる。
「レア! レア! どこだレア!!」
俺がレアに気を取られていると、お姫様がハイブラに攻撃を受けている音が聞こえる。
「くそっ! 何にも見えない!」
「……私ならわかるよ……」
アンは俺の腕を掴む。
アンはこの霧の中でもわかるのか!
「アン、レアは何処にいる!?」
「……あっち……」
あっち……? 俺には見えないからあっちと言われてもわからない。
「……大丈夫、私のスライムが守ってる……」
「それは助かる! ならお姫様を探さないと! アンは俺の腕を離さずお姫様の場所を教えてくれ!」
「……わかった……」
アンに引っ張ってもらい、お姫様の元へ向かう。
アンの案内でお姫様のいる場所に出ると、拳が目の前で寸止めで止まる。
「なにしてる! 危うく殴ってしまう所だったぞ!」
お姫様は体中傷だらけとなり、立派な毛並みは血で染まっている。
俺達はお互い背中を合わせ、ハイブラの攻撃に備えた。
「やっと揃いましたね。 ではもう一段階上げますので簡単に死なないで下さいませ」
ハイブラは霧の中を凄いスピードで動いているようだが、霧はその風で散る事は無い。
ハイブラは俺の前に現れた。
その瞬間に魔導法術機が付いた拳で攻撃するが、ハイブラの体を貫き消えていく。
その直後にお姫様の前に現れるが、攻撃すると俺と同じく直ぐに消えてしまう。
アンの前に現れたハイブラは消えずにアンの肩を鋭い爪で突き刺し、また消えていく。
「どうなってる……?」
「……幻術だよ……」
幻術だと!
「気がつきましたか。 そう幻術です。 私の得意技なんですよ」
俺達の周りにはハイブラが複数現れた。
幻術と実体、それぞれを使い分けて攻撃してくる。
「これではやられるだけだ」
「私に考えがあります」
お姫様が小声で話す。
「この中で一番頑丈な私がハイブラの攻撃を受けます。 その時に動きを止めますから、お二人で攻撃して倒して下さい」
「そんな無茶はダメだ!」
「でもこれが一番勝算があると思います」
「なら攻撃を受けるのは俺がやる!」
「受けるだけではダメです。 攻撃を受けて捕まえられますか? その体では無理でしょう。 だから私がやります!」
ハイブラの実体がお姫様を攻撃するまで俺達は防御し、お姫様が捕まえたらアンと二人で攻撃する。
無茶な作戦だが仕方ない。 俺の体がもう少しマシだったら……。
「作戦会議は終わりましたか? では改めていきますよ!」
ハイブラは攻撃を始めてきた。
「いまっ!」
お姫様はハイブラの攻撃をあえて肩に受け、ハイブラを押さえた。
だがお姫様はダメージを受けすぎていたのかも知れない。
掴んだ腕が外れてしまった。
「ガアアア!」
霧の中から大きな黒い猫がハイブラの腕に噛み付いた。
レアの変身した姿だ。
一瞬動きを止めたハイブラにアンがクナイのような武器で斬りかかるが、噛み付いているレアをアンに投げつけた。
だが俺は既に魔闘気を打ち込む態勢になっている。
そしてハイブラめがけて打ち込む。
俺の攻撃は紙一重でハイブラに躱されてしまった……。
その瞬間、ハイブラの背後から腹部を槍が貫いた。
「ぐ……ふっ……、な……に……」
貫いたのはアンのスライムが槍に変化し貫いたのだ。
ハイブラは貫いたスライムの槍を引き抜くと、赤い霧を消した。
「なるほど……、なかなかやる事は認めましょう……。 実力もわかりましたし、そろそろ引かせて頂きます」
既に貫いた傷は再生して消えている。
「ララ、ラル、そろそろ戻りますよ!」
ララ、ラルと四人は良い勝負をしていたようで四人とも無事なようだ。
「しかしまだ!」
「殺しておりません!」
ララとラルはまだ戦おうとしている。
「かまいません。 お二人を失うと私がワルキューレに怒られてしまいます。 早く戻りますよ!」
ハイブラに睨まれ、ララとラルは攻撃を止め、直ぐにハイブラの元に戻る。
「今回はなかなか楽しかったですよ。 次も楽しませて下さいませ。 それでは……」
ハイブラは赤い霧を出すと、その場から消えていた。
倒す事は出来なかったが、ヴァルスケルハイトを追い返す事は出来たようだ……。
安心して俺とお姫様はその場に倒れ込んでしまった……。
読んで頂きありがとうございます。
次話も頑張ります。




