三十五話 【銀薔】
俺達はヴァルスケン帝国に戻る前に俺のパワーアップをしておこうとなり、アームダレスにある暗緑燭の塔へ向かった。
塔の中で前にルルアを助けた野菜泥棒の獣人と出会う。
塔の自走式アーティファクトを一人で蹴散らし、上っていた理由は屋上にあるらしく、一人で上って行った。
俺とレアは途中の階層にある隠し部屋を見つけ出し、俺のパワーアップが開始される。
パワーアップが終わる頃、上層階から争っているような衝撃と音が聞こえてくる。
「なんだこの衝撃は!?」
「上に行ったのはあの獣人だけです!」
「まさかこの塔の主にでも攻撃されているのか!?」
「わかりませんが、見に行きましょう!」
レアの提案で俺達も屋上を目指す。
屋上ではさっきの獣人が同じ獣人の少女に襲われていた。
あの獣人結構強いはずなのに防戦一方じゃないか。
俺達が近寄ろうとすると、逃げ回っている獣人が「近寄るな!」 と合図して来た。
「こいつを止めるのは俺の役目だ!」
どうやら傷つけずに獣人の少女を押さえ込もうとしているようだ。
「あら、仲間かしら? 私は一緒でも構わないわよ」
この獣人の少女の動きが早い。
今しがたパワーアップした俺のスピードと同等かそれ以上なんじゃ無いか?
そしてパワーもある。 必死で掴もうとしているのを軽々躱して打撃を与え、屋上の床に叩きつけられている。
「やめるんだ! ムーン!」
「ふふ、こうして戯れ合うのも久しぶりなんだから良いじゃ無い」
あの獣人の少女はムーンと言うのか。 お互いに知り合いのようだが?
「ほらほら、少しは手を出さないと死んじゃうわよ、兄さん」
兄さん!?
もしかして妹さんを探していると言ってたが、あの少女が妹さんなのか!?
「あ〜、なんか飽きて来ちゃった、そろそろ終わりにしましょ。 ね、兄さん」
既にボロボロに傷つき倒れている兄を見下ろしながら、妹さんは話す。
「それじゃね、バイバイ、兄さん」
妹が腕を振り上げ兄に攻撃する直前、俺は突進し、妹さんの脇腹を蹴り上げた。
「がふっ!」
俺の蹴りで吹き飛び床を転がる。
「急に手を出すなんて……、やってくれるじゃ無いの……ゴホッ!」
俺の蹴りは命中した。 が、咄嗟に腕でガードをしていたから、ダメージはそんなに無いはずなのに、妹さんは口から血を流している。
「くっ……、手を出すんじゃねぇ……」
ヨロヨロと立ち上がると、妹さんの方に向かう。
「ムーン! 戻って来い……」
手を出しながら妹さんに向かって歩いていると、妹さんは姿を狼人間へと姿を変えた。
「今日の所は時間切れね。 また会いましょ兄さん」
「だ……めだ! 行く……な!」
その言葉を無視して、俺の方に振り向く。
「貴方とそこの獣人のネコ、今度会ったら殺してあげるわ。 そうそう、私の自己紹介しなくちゃね」
兄に近づき、顔を蹴り上げると同時にローブを剥ぎ取り、腰に巻くとスカートに見立ててお辞儀をしてくる。
「初めまして、ヴァルスケルハイトが一人、【銀薔のムーン】と申します。 以後お見知り置きを」
「ヴァルスケルハイトだと!?」
レアを攫ったシャッテと同じ組織なのか。
「それでは……」
ムーンは塔の縁に立つと、倒れ込むように落ちて行く。
「危ない!」
縁まで駆け寄ったが、既にムーンの姿は見えなくなっていた……。
上で何かあったのかと思って上って来たエイルとルルア。
力付き倒れてしまった獣人にポーションを飲ませ、回復するまで待つ。
「う……、ここは…………、! ……ムーン!」
「良かった、目が覚めたみたいですね」
「お前! …………そうか…………ムーンは……」
起きるまで看病していたルルアは獣人の男が目覚めた事を教えに来てくれた。
「もう大丈夫なのか?」
「この位の怪我平気だ」
「あのムーンって言う子は妹さんなのか?」
「…………そうだ……」
獣人の男は膝を立て座り直した。
「何故ヴァルスケルハイトに妹さんが? お前もヴァルスケルハイトなのか?」
「関係ないだろ……」
「関係はある。 レアがヴァルスケルハイトに狙われたからな」
「…………そうか……」
「話してくれないか?」
獣人の男はゆっくりと話し出した。
「俺の名はサンドライト。 アームダレスで暮らしていた獣人だ……、貧しくても幸せにな。 俺達兄妹に親はいない。 俺が妹の面倒を小さい時から見ていた……。 だがある日、食い物を持って家に帰れば、いるはずの妹は居なくなっていた……」
「それって、攫われたってこと?」
「だろうな。 だから俺は妹を探した。 攫った奴をやっと見つけ出して救いに行こうとした時、妹から手紙が届いた」
「暗緑の塔に来るようにと書いてあったって訳ですね」
「そうだ……」
サンドライトは立ち上がると、スタスタと下りる階段に歩いて行く。
「お、おい、待ってくれ。 俺達もその獣人攫いを探しているんだ。 それにそんな体で何処に」
「俺にこれ以上構うな。 妹は俺が必ず助ける。 獣人攫いと同じ人間の世話にはならん」
サンドライトは階段を下りて行ってしまった。
「俺達も行くか」
階段を下りながら、レアはサンドライトに文句を言っている。
「ご主人様をその辺の人間と一緒にしないで欲しいですね!」
まあ俺、人間じゃ無いけどな。
「大体、あそこでご主人様が助けなかったら死んでいたはずです! それにエイルさんのポーションで治してあげたってのに……」
「まあまあ……、……なあレア」
「はい、なんですか?」
「俺……、パワーアップしたよな?」
「はい。 前より強くなっていますよ」
「だよな……」
強くなっている……はず。
でもあのムーンには勝てる気がしない。
他の国にある塔も早く攻略してもっとパワーアップしないとダメだな。
塔の外に出ると、熊吉さんが、上で何かあったのかと心配してくれていた。
軽く理由を話し、砦に向かってもらう。
今度は更にゆっくりと走ってもらう事にした。
「そうそう、忘れてやした。 ケンジさん達が塔から出て来る前に、獣人が一人出て来てことづけを頼まれてました」
「ことづけを?」
「はい。 よくわかりませんが、帝都の東にある大富豪の屋敷を目指せ……って事でさあ」
「帝都の東の大富豪の屋敷……」
「ご主人様、もしかして、サンドライトが掴んだ獣人攫いの……」
「かも知れない。 助けた礼のつもりなのかもな」
「そうですね」
「よし、次に行く場所が決まったな」
俺達はその大富豪の屋敷を目指すのだった。
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次話から三章突入です。
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