二十五話 【紫紺燭の塔】
俺とレアが東南にある塔に向かっている間、留守番をしているマブルさん、ルルア、エイルに危機が迫っている事を俺は知らなかった。
家の扉が蹴破られ、数人の人が入ってくる足音が響く。
私達は地下にあるマブルさんの研究室にいるので、入って来た人達にはバレていない。
部屋を荒らしている音が聞こえる。
私達を探してる?
その間、マブルさんとルルアは音には気がつかない程集中して魔導法術機をいじっていた。
しばらくすると、押し入って来た人達は諦めたのか、家から出て行ったようだ。
「よし、出来たぞい」
「やったねお爺ちゃん!」
二人は満足そうに魔導法術機を見つめている。
「あとはこの部分に魔石を入れるだけじゃな」
「早くケンジさんに持って行かなきゃ」
ルルアは完成した魔導法術機を持って研究室を出ようとする。
「ちょっと待って! まだ押し入って来た人が近くにいるかも知れません。 くれぐれも慎重に!」
「押し入って来た人ですか?」
「なんの事じゃ?」
二人は研究に夢中でやっぱり気がついていないみたい。
「私がまず上に行きます。 大丈夫なら上がって来てください」
階段を登り、ゆっくりと塞がっている扉を開ける。
大丈夫そうね……。
二人に合図をして上がって来てもらう。
「これは……」
「ひどいです!」
テーブルも椅子も粉々、本も散らばり、食器も割れている。
「誰がやったんじゃ!?」
「わかりません。 二人が魔導法術機を研究している時に、家に入って荒らして行ったようですね」
「もしかして、私を攫いに?」
「可能性はありますね。 この家も危ないです。 ケンジ達の後を追いましょう」
「そうじゃな。 早速準備しよう」
「私も準備します」
マブルさん、ルルア、エイルは家を抜け出し、俺達の後を追う事にした。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「やっと着いたな」
俺とレアは【ドオレス】の町に到着した。
ここで、有金使って準備を整えて塔に向かおう。
「ついでに少し休憩して行くか?」
「ご主人様! 悠長にしてる暇は無いにゃ」
少し休もうと提案するが、俺の腕をレアが引っ張る。
「わかった、わかった、そう引っ張らないでくれ」
レアは俺に早くパワーアップして欲しいらしい。
「でも塔の場所をちゃんと聞かないとな」
知らない土地で迷子になるのはごめんだ。
レアと二手に別れて町の人に声でもかけてみよう。
丁度前を歩いている人にでも聞いてみるか。
「すいません、ちょっとお聞きしたいのですが?」
「!!!」
俺が声をかけると、少しボロいローブのフードを被っている人はビクッと驚いて振り向き、瞬時に距離をとる。
「誰だ!!」
「あ、驚かしてすいません。 ちょっと道を尋ねたかったんです」
「…………そうでしたか…… 、でもすいません、私もこの辺りは来たばかりでよくわからないです」
下を向いたままなので顔はよくわからないが、声は若い人っぽいな。
「そうですか、急に声をかけてしまってすいません」
「いえ……、では私はこれで……」
ローブを被った人はそのまま歩いて行ってしまった。
「ご主人様ーー!」
レアが叫びながら走ってくる。
町中で大声でご主人様呼びはやめてほしい……。
ほら、町の人が見てるじゃないか!
「塔の場所がわかったよーー!」
「そうか、助かったよ」
抱きついてくるレアの頭を撫でてやる。
「ご主人様〜〜……、今の女は誰にゃ?」
腕に抱きついたまま、笑顔で聞いてくる。
「え!? 場所を聞いただけなんだけど……」
「それなら……、ご主人様は獣人族が大好きだから仕方ないのかと思ったにゃ」
確かに猫耳とか、犬耳とか好きだけども……。
「え!? 今の人は獣人族の人だったの!?」
「においと気配でわかるにゃよ」
「そうなんだ」
レアも獣人の人造人間だからわかるのだろうか?
「それより早く行くにゃ」
「ああ」
俺達は塔を目指して進む。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「この! この!」
ルルアのリュックから大きなマジックハンドが飛び出して、蟻型の魔生獣のガルムアントを殴りながら戦っている。
「私も行くよーー!」
狙いは完璧。
「えーーい!」
エイルの投げた小型爆弾はルルアが戦っているガルムアントでは無く、後ろにいるガルムアントに命中して爆散した。
「や、やった! 一応命中!」
ルルアの方も大きなマジックハンドのグーパンでラッシュをかけて倒した。
「ふ〜……、なんとか倒しましたね」
「やれやれ……」
「この辺りはガルムアントの縄張りだから仕方ないわよ」
エイルは焦りながら二人に説明した。
「でもエイルさん、なんで塔までの近道を知っているんですか?」
「あ〜……、え〜と……、多分こっちの方が近いかな〜って……」
ルルアの問いかけに誤魔化しながら話す。
「…………そうなんですね」
説明出来ないエイルにルルアは何か言えない理由でもあるのかな? と、それ以上聞く事は無かった。
その後、何度かガルムアントを倒しながら塔まで到着する。
「ケンジ達はもう中に入ったのかな?」
高くそびえ立つ塔を見上げながらエイル達は気を引き締めて塔の中へ入って行った。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「やっと着いたな」
この塔は海辺近くの崖の上に建っている。
緋燭の塔とはまた違い、外観もだいぶ違うし、別の色をしている。
「ここは紫紺燭の塔ですにゃ」
「ここで俺がパワーアップ出来るんだよな?」
「そうですにゃ。 早く入りましょ」
腕を引っ張られながら中に入る。
紫紺燭の塔の中は行き止まりの部屋が多く、ゲームに出てくるような仕掛けで溢れている。
中に入れば勝手に光る燭台がいくつかある部屋で、一つだけ灯されていない燭台を引くと壁が開き、上への階段が現れる。
また、別々の部屋でスイッチを押さないと開かない扉など、楽しいけど面倒臭い。
こんな仕掛けが沢山あるからなのか、魔生獣は全然いない。
その辺は楽でいいな。
「結構上に登ったつもりだけど、まだ先があるのか……」
「面倒臭いにゃ……」
初めは楽しかったけど、流石に疲れて来た……。
やっと階段を発見し、登ると、叫び声が聞こえて来る。
「なんだ!? 誰かいるのか!?」
「このにおい……、ルルアにゃ!」
「ルルアだって!?」
俺達は階段を走って登ると、柱が一本あるだけの広い部屋に出る。
その部屋には大きな鎧がエイル、マブルさん、ルルアを襲っていた。
「エイル!」
俺の呼びかけにエイルが気がついた。
「ケンジ!!」
「今、加勢する!」
俺は長剣を抜き、動く鎧に向かって走る。
動く鎧の大剣を長剣で防ぐが、一撃でひびが入る。
「くそっ! なんて力だ!」
力で押され、動く鎧の追撃を躱し、一度皆んなの元へ。
「なんでこんな所にいるんだ!?」
「説明は後じゃ」
「その様ですねっ!」
レアは振り下ろして来た動く鎧の剣を躱すと腕に飛び乗り、駆け上がるとホルスターから短剣を抜き、動く鎧の顔に突き刺す。
だが動く鎧が頑丈なのか、短剣が折れてしまった。
「硬いですね……」
レアは動く鎧から飛び降りると、困った様に言う。
「恐らくこの鎧には私の牙や爪も効かないでしょう」
動きは遅いが、防御力と力に特化したやつなんだろう。
俺の長剣がもつか……?
ルルアはマジックハンドの拳をグーにして、ラッシュをかけるが、動く鎧には効いていない。
「エイル! 小型爆弾を!」
「は、はい!」
鞄をゴソゴソと探る。
「…………す、すいませ〜ん、使いきっちゃいましたあ〜!」
マジか……、でも帝国領に入ってバタバタして錬金する暇無かったからな……、仕方ない……。
動く鎧は大剣を振り回し、どんどん迫ってくる。
「ケンジさん! これを剣に付けて付けて下さい!」
ルルアが俺に向かって投げて来たのは、俺が預けていた魔導法術機だ。
上手くキャッチするが、動く鎧が迫って来ていて取り付ける時間が無い。
「私にお任せ下さい!」
レアは動く鎧に向かって走り回り、俊敏さを活かして撹乱する。
そしてルルアもマジックハンドで応戦だ。
この魔導法術機は剣に挟み込む様に取り付けが出来る。
ただ、剣のグリップにサイズが合わなくて苦戦する。
「キャア!」
レアが動く鎧に吹き飛ばされた。
いつの間にか俺の近くまで来ていた動く鎧は俺に向かって剣を振り上げた。
「しまっ……!」
魔導法術機を取り付けるのに集中し過ぎていた。
だが振り下ろされた剣は途中で止まった。
「早く魔導法術機をお願いします!」
ルルアがマジックハンドで止めてくれた。
「あまり持ちません!」
マジックハンドで動く鎧の両腕を押さえているが、向こうの方がパワーがあるのか、リュックから煙が上がり始めている。
グリップのサイズが合わないが、もうこれでやるしか無い。
俺は魔導法術機に魔力を込めると、刀身に火が着いた。
動きが止まっている鎧に俺は飛び上がり、剣で垂直に頭部へ斬り込んだ。
動く鎧は硬く、頭部もわずかに溶けているだけだ。
「うおおおおお!!」
サラマンダーの足を斬った以上に魔力を込める。
魔導法術機が赤く光ると刀身は溶けて無くなり火は炎となる。
その炎は動く鎧を真っ二つに斬った。
「勝った……」
半分になり、床に倒れている動く鎧は機械仕掛けのアーティファクトだった……。
レア曰く、この塔の番人なのかも知れないとの事だ。
とりあえず全員無事だったので、俺はレアに言われるまま、動く鎧が守っていた一本の柱に手を当てる。
すると、柱が開きエレベーターが出現する。
「これに乗ればパワーアップする場所に行けるはずです」
狭いので、俺とレアだけエレベーターに乗り、下層に下りて行く。
「まさか、あんなアーティファクトがいるとは……。 でもこの塔も調べ尽くされているはずなのに、なんで居たんだ?」
エレベーターで下りながらレアに話す。
「多分、ご主人様に反応して動き出したのかも知れません」
「俺に? という事は人造人間に反応したって事か?」
「そうだと思います。 恐らく帝国の兵士が散々この塔も調べているはずです。 それなのに残されているって事は、この塔の中には何も無く、動きもしないアーティファクトだけが残されていたって事でしょうね」
「そうか……、動く鎧もあの大きさじゃ持ち出す事も出来ないだろうしな」
「このエレベーターもご主人様がスイッチとなって動いているはずです」
「俺しか動かせないなら、いくら調べても無駄ってことか」
「そうです……にゃ」
その語尾、無理しなくても良いと思うのだが……。
俺達を乗せたエレベーターはどうやら地下まで伸びている様で、ゆっくりと地下に到着した。
読んで頂きありがとうございます。
次話も頑張ります。
そしてミニ劇場は今回もお休みです。
ごめんなさい。
時間出来たら書きますので……。




