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5 出会い②

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 えぇ〜。急に怒ってどうしたっていうのよ⁉︎


 何何何? 何が彼の地雷だったのか分からないんだけど……。

 年齢、仕事……。

 いや違うな。こんなたわいもない質問で憤慨するわけはないもの、普通。


 やはり厚かましいお願いを、前置きもなしに頼んだのがまずかったのかしら……。


 凄く優しそうな殿方に見えていたのに、かなり気が立っているようで、穏やかな笑顔から一変、冷たい表情に変わり果てたんだけど。


 固く口を結ぶ彼は、これ以上何も喋るなと言わんばかりに威圧的な空気を放つ。


 ああ駄目だな。完全にわたしは警戒されている。

 そもそも自分のこともよく分かっていないのに、どうやって騙すというのだ。

 詐欺師なんかではないと、心の中で虚しく叫ぶ。


 困惑しきりに、まごついていれば。彼から、ほら動けと急かされる。

 まいったな。頭が痛くて動きたくないのに。


 本当のところ、もう少し寝ていたかったけど仕方ない。

 こうなれば動き出すしかないかと、渋々諦めをつけた。


 とはいっても、立てるかどうかも自信がない。それくらい頭がズキズキする。


 それでも、こうしていても仕方ないなと、ベットからゆっくり足を床に下した。


 恐る恐る動いてみたが、めまいはしない。

 良かった。これなら何とか動けそうだ。

 そう思い、アンドレを見やれば、仏頂面は変わらないため、苦笑いを返す。


 まあどちらにしろ、森の中からわざわざ運んでくれた彼には感謝している。


「お世話になったわね、本当にありがとう」

 そう言って立ち上がり、見えている扉へ向かって歩き始めた。


 事務所とはいっても、造りは普通の家のようだ。この部屋の扉を開ければ、廊下に繋がった。


 幅の広い廊下を右から左へ流すように見渡せば、左側の突き当りに扉があり、その上の窓から外の光が見える。


 出口はそちらだろうと、進むべき道を決めた。


 そして、外に繋がると見込んだ扉のノブへ手をかけると、アンドレから声をかけられた。


「君の忘れ物。置いていかないでくれますか」

「本当にわたしのコートかしら?」


「白々しい方ですね。どうせ後から『俺の女に手を出したやつはお前か』と、お仲間が来る計画なんでしょう。厄介な物を残すのは、やめてください」


 まるで紳士の見本のような立ち姿のアンドレから、見覚えのない白い外套を、ぐいっと押し付けられた。


 彼がそう言うなら自分の物なんだろう。試しにそれを、ふわっと広げて羽織ってみた。


 着丈が膝の少し上まである薄手のコートは、生地の目の粗さや縫製の手抜きが目立つから、よくある既製品だろう。


 これでは販売地域は特定できないし、着古した感じが何とも所帯じみている。


 ──だけどこの外套。

 あながちアンドレの言葉は嘘ではない。そう思わせるくらいにしっくりくる。


 折り返された袖の長さも、ウエストの絞りも、わたしにピッタリである。仮にわたしのコートでなくとも、自分の物として貰っておくか。


「何から何まで感謝するわ、それじゃあね」


 彼に改めてお礼を告げたものの、私を警戒する彼からの返答はない。


 弱り果てた女に、そこまで怖がらなくてもいいのになと思うけど、なんだろう……?


 そんな彼には何を言っても不審者疑惑を払拭できそうにないなと諦め、そのまま外へ出た。


 そうすれば、外に広がる景色は、ぐるぐると回っているみたいだった。


 ……信じられない。全くもって見覚えのない景色と空気が、周囲を支配している。


 こうなってしまえば、どこへ行くべきか焦点が定まらず、ただ辺りをぽけぇ~っと見渡すしかなかった。


 進むべき先は、どちらが正解か分からないけど、とりあえずとぼとぼと歩みを進める。


 そうすれば、大きな湖が見えてきて、周囲一面に、まるで緑のじゅうたんのように、短い芝が広がっていた。


 目に飛び込んでくる綺麗な景色に少しだけ心が弾み、足取りが軽くなる。


 そのまま水辺まで駆け寄り、澄んだ湖を覗き込むと、女性の姿が映る。琥珀色の瞳。菫色の真っすぐストンと伸びる長い髪の美人がいる。


「綺麗な人……」

 見たまんまの感想を、ぽつりと呟いた。


 顔が分かったところで相変わらず、自分に関する記憶はさっぱり思い出せない。


 少しだけ水辺から離れ、芝に腰を下ろす。

 

 自分が何者で、どこへ行き、何をすればいいのか分からない。


 言葉も物の名前も分かるのに、自分という存在だけ失った気分だ。何故に……。


 自分を取り戻す手掛かりを探そうと、必死に記憶をしぼりだしてみたところで、何も思い浮かばない。


 ──変な感じ。

 過去の自分がぽっかりと抜け落ちている。

 ……それに、頭がドクンドクンッと脈打つように痛い。


 もう、動き回る気になれないわたしは、芝の上で横たわり、再び目を閉じた。


 ◇◇◇


「──ねえ、聞こえていますか?」


 誰かが何かを言っているけど。あぁぁ~、ふわふわと優しくて、あったかい。


 起きなさいと言われている気がするけど、そんなことはどうでもいいやと、頬から伝わるぬくぬくとした感触に浸る。


「目を開けてくれませんか。そろそろ起きた方がいいですよ」


「ああ~、煩いなぁ。何だって言うのよ」

 わたしを気に掛ける優しい声に、寝ぼけながらに答えた。

「朝ですよ」


「これ以上、温かい布団から追い出されたくないのよ、放ってくださいまし」


「いい加減に起きてくてください。いつまで寝ているつもりですか! 人を寝台扱いまでして、本当に図々しいですね」


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