53 離したくないあなたは……僕の暗殺者②
◇◇◇
ベッドから起き上がると、アンドレから買ってもらった服が目についた。
もう畑に行くわけでもないし、せっかくだから着替えるかと思い立ち、特に気に入っている一着に袖を通し寄宿舎へ向かう。
この白いワンピースは、少しだけ大人っぽい印象を与えるデザインだ。胸の辺りから袖にかけ、透ける素材でできているのが珍しくて一目ぼれした。
お高い品だったため、ちょっと気が引けたのだが、アンドレが値段も気にせず気前よく買ってくれたものだ。
ふんわりと広がるスカートが可愛いくて、無意味にスカートを摘まんで広げてみた。
乙女なんだから、今までこんな格好をしていた気もするが、ずっと憧れていた感覚がある。
着替えを済ませ、気持ちを新たに屋上の扉を開けると、ふわっと温かい風が吹く。
「あら、ジュディちゃん。起きて大丈夫なのかい?」
扉の近くにいたエレーナがすぐにわたしに気づき、顔を向ける。
そんな彼女の少し後方にいるアンドレが、目をパチクリさせている。
「ご心配をかけました。すっかり元気ですから」
「そんなことを言って、無理してないのかい?」
「ええ。本当にもうなんともありません。お仕事を途中で投げ出してごめんなさい」
しゅんと小さくなって伝えた。
「いいの、いいの。そんなことは気にしないで。ここは片付いたし」
「あっ……洗濯が全部終わってる……」
「アンドレさんにシーツを全部乾かしてもらったところだからね。私は上階から敷いてくるから」
そうなれば、わたしは下の階から各部屋にシーツを敷きに行けばいいのだろう。
仕事はそれで十分に理解した。
にこっと笑いかけてくるエレーナは、洗い終わったばかりのシーツを半分ほどカゴに詰めて抱え、パタパタと速足で寄宿舎の中へと入っていった。
そうすればアンドレとこの場に二人きり。わたしの傍に歩み寄る彼が、不安気な声で名前を呼んだ。
「ジュディ……」
「部屋まで運んでくれたのはアンドレでしょう。ありがとう」
「もう起きて大丈夫なんですか? ここに来るとは思ってもいなかったので驚きました」
「へへっ、すっかり目が覚めたもの」
「屋上で何があったんですか?」
真っすぐ見つめてくるアンドレが、怖いくらい真面目な口調で訊ねてきた。
「あ~ぁ、心配かけてごめんなさい。アンドレに手伝ってもらわなくても、自分でシーツを洗ってみたくて。魔法を発動してみたんだけど、風魔法に失敗しちゃったのよ。ふわっと自分の体が浮いて驚いたわ」
「本当にそんなことですか? 倒れているジュディの雰囲気からは、そうは見えなかったけど」
「本当よ。その前は水魔法でちょっと失敗したのよ。思いのほかたくさん水が出てきて、びっくりしちゃったわよ」
「なんだ……そうですか。ほどほどにしてくださいよ。僕がどれだけ心配したと思っているんですか」
「またまた、ふふふ。そんな顔をして大袈裟なんだから」
「もう、無理なことはしないでくださいね」
安堵のため息を零すアンドレだが、張り詰めた表情は一向に緩む気配がない。
きっと彼が心配してくれたのは真実だろう。雇い入れた新人が倒れていたのだから。
彼に嘘を吐いたことも、余計な心配をかけたことも申し訳ない。
けれど、これ以上不安にさせまいと、にっこりと笑いかける。
「うん。次からはもっと気をつけるわ。運んでくれたお礼は、いつか返すわね」
「当然のことをしただけですから、気にする必要はありませんよ」
お礼を返すと言ってみたものの、確かに返せる見込みはない。にこっと笑って誤魔化した。
「ふふっ。さぁてと、わたしも部屋を回ってくるわね」
「待ってください。ジュディはその格好で兵士たちの部屋に入る気ですか⁉」
「うん? そうだけど」
「早番や非番の兵士に遭遇したらどうするつもりですか⁉ 僕も一緒に行きますよ」
「どうしてよ、一人で大丈夫だから問題ないわ」
「その服は……。肌が透けているでしょう。兵士たちが動揺するから駄目です」
「何を言ってんのよ。誰も動揺なんてしないわよ」
「僕は動揺してますけど。どちらにしても、二人の方が早いでしょう」
穏やかな笑顔を見せるアンドレに「一人で大丈夫だ」と何度も断ったのだが、しつこい位譲らない。
結局、二人で寄宿舎の中を、一部屋ずつ回ることになった。
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