49 離したくないあなたは……僕の暗殺者①
◇◇◇SIDEアンドレ
倒れたジュディを見つけてからというもの、鼓動が煩い。
意識のない彼女に直面して始めて気づいた。彼女と離れるのは無理だと。
ジュディが僕の前に現れてから、常に賑やかしい彼女が次は何をしでかすかと見ていて飽きない。
隠れて生きてきた僕にとって、初めて経験した楽しい時間だった。何も持たないジュディが、自分と重なる気がしたから。
僕を害する存在なのは分かっているのに、時間の許す限り、傍にいて欲しいと願ってしまう。
彼女の前で油断してはいけないと、冷たい態度を取った。
だが、ぐったりする姿を見て頭が真っ白になるくらいなら、初めから止めておけばよかった。
僕が楽しげにしていれば、彼女はもっと愉快な姿を見せてくれた気がしてならない。
自分は彼女の暗殺対象なのだろう。そんなジュディとは、この先ずっと一緒にいられないことは分かっている。
頭では分かっているが、今後、無理やり突き放すことは、自分にはとてもできそうにない。
震えながら呼吸する僕は、彼女を抱えたまま乱暴に邸宅の扉を開く。大きく開いている隙に体を滑り込ませれば、その直後、ガンッと耳に響く音を立て扉が閉じた。
「おっ、おい! どうしたんだよ彼女に何があった⁉」
音に驚きリビングから出てきたイヴァン卿と廊下で出くわす。
まだいたのか……。ジュディが来てから、この家に入り浸りすぎだろうと苦々しく思う。
「寄宿舎の屋上で倒れていた」
「変な事件じゃないだろうな!」
「それは問題ないでしょう。持っていたガラス玉の魔力は尽きていましたが、周囲に負傷者はいませんでしたから」
「ああ、そうだったな。ジュディが魔猪を仕留めたんだって。第一部隊長が興奮気味に言うくらい、攻撃魔法の使い手らしいからな。まあ、ガラス玉はそれで使い切ったんだろう」
「いいえ。雹弾二発の魔力消費は、たかが知れていますから」
「にッ、二発⁉ たったそれだけで二頭の魔物を退治したのか!」
イヴァン卿が目を見開き、言葉を失う。
「ジュディを寝かせたいので、もういいですか」
彼の横を当然のようにすり抜け、彼女の部屋へ向かう。
するとイヴァン卿も僕の後ろを付いて来た。
招いてもいないのに、相変わらず遠慮の欠片もない人だと、冷めた感情を抱く。
部屋に着けばすぐに彼女をそっとベッドに寝かせ、布団をかけた。
イヴァン卿は部屋にある椅子をベッドサイドまで持ってくると、当然のように腰掛けた。
彼の考えていることが分かり、少しばかり戸惑いを抱く僕から、ふうぅ~っと、深い息がこぼれる。
僕が何を言っても、彼はここに居座る気だろう。それでも主張はすべきか。
「どうして部屋まで付いてきたんですか」
「さっきここにナグワが来て彼女を探していた。今ごろ寄宿舎でも探し回っているだろう。俺が彼女を見ていてやるから寄宿舎に戻れよ」
「イヴァン卿がジュディの横にいるくらいなら、彼女一人の方が余程ましですよ」
「ナグワがここに戻ってくれば、間違いなくこの子を自分の部屋に連れていくだろうな。でなければ、ナグワがこの邸宅に居座るだろうさ。あいつ、完全にこの子の恋人のつもりだったぞ」
「彼に、そんなことはさせませんよ」
「アンドレが言ったところで、あの強引な男が引くわけないだろう。ややこしい事態になる前に、この子の問題をなんとかしろ!」
「そのつもりですが」
「まあ今は、俺とジュディが一緒にいると分かれば、この邸宅に乗り込んで来ないだろう」
我が道を進むナグワ隊長のことだ。寄宿舎を探し回ってもジュディが見つからなければ、再びこの部屋に戻ってくる姿は、想像に容易い。
それに仕事を頼んでいたジュディの姿が見えなくなり、僕もいないとなれば、エレーナが心配するのも事実だ。……それでも彼女といたい。
「やはり僕が一緒にいます」
「駄目だ。まさか、この子に気を取られているんじゃないだろうな。言っただろう。この子は危険だ。今、気を失ったのだって、記憶を取り戻したからじゃないのか? 目が覚めたときが一番危ないだろう。とりあえず目が覚めるまで、俺が見ていてやるからナグワの元に行ってこい」
「僕が戻るまで、余計なことをしないでくださいよ」
「ああ」と静かに返してきたイヴァン卿へ、ひとまず託すことにした。
お読みいただきありがとうございます。
大変恐縮ですが、多忙につき、土日の投稿をお休みいたします。
毎日楽しみにされている読者様もいらっしゃることと存じます。申し訳ありません。
次話は、ジュディ!
…以降はフィリベールを予定しております。
引き続きよろしくお願いします<(_ _)>




