表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

51/109

48 連れ戻す

◇◇◇SIDEフィリベール


「リナは何故、王宮へ来ないんだ!」

 目の前の聖なる泉へ絶叫したが、独りきりのこの場では、誰からも返答はない。


 この泉へ来る途中、王宮の門番へ「リナが来たら、聖なる泉へ真っすぐ来るように」と言伝を命じた。


 結界に祈りを捧げると言っても、一時間。

 中央教会から馬車で来るとはいえ、十時には着くはずだろう。


 もうすぐ太陽は頭の真上に差し掛かるが、リナは王宮へ姿を見せない。


 到着次第、泉の瘴気を浄化してもらおうと思っていたのに、この場から動くこともできない。


 先日まで、美しい水が湧いていた泉。

 それが今では、真っ黒などろどろの液体が、ぐつぐつと煮えたぎるお湯のように気泡が浮きあがっている。


 この場に長く居れば、瘴気に当てられそうだ。気が滅入る。


 筆頭聖女である母上の光魔法が枯れているというのは、痛手だった。


 今動ける聖女は、リナしかいないのだから。

 そのリナも、結界を張るのに手一杯となれば、この瘴気だまりを浄化することもままならない。


「ああぁ──もう! この国には動ける聖女がいないのか! くそぅっ」

 地面に大の字で転がった次の瞬間、思い出した。

「あ……。もう一人……いるな」

 私は間違っていなかった。

 あの女を追い出すとき。殺さない判断をしたのは大正解だった。


 ドゥメリー公爵がどこに捨て置いたか知らないが、まだ生きているだろう。


 あの女を探し出し、瘴気を払うなり、結界を張るなり、務めを果たしてもらうか。


 ジュディットの見ている景色が分かれば場所も特定できるだろう。思わず右口角が上がる。


 自分と結んだジュディットの魔法契約の痕跡を追ってみるため、自身の魔力へ意識を集中する。


「よし! 契約自体は残っているから、あの女が生きていることは間違いない」


 あの女。何かを感じ抵抗しているのか……。原因は分からないが、何かに妨害される。


 奇妙だな。私の魔法契約のある先を探せば見つかるはずなのに、居場所を特定できない。

 魔力もないくせに、こんな芸当ができるのか? いや、気のせいだろう。

 おそらく私自身の感情が乱れているせいだなと、一旦、冷静になる。


 時間を空けて、後でもう一度試してみるか。


◇◇◇SIDEフィリベール


「ああああ~! 酷い。きりがない!」


 瘴気だまりと初めて直面したが、根気勝負は、いよいよ限界だ。


 濁った泉から、次から次へと魔物が生まれてくる。とはいえ雑魚魔物だ。

「私が見張る必要などない!」


 出現する魔物の大半が湖から這い出る魔虫であり、たまに出てくる大きなものでも魔犬止まり。


 この場に政務を運んできた事務官に押し付けようとしたが、「攻撃魔法は使えない」と、逃げられた。


 侯爵家の男だ。真っ赤な嘘だと分かるが、事務官では確証もない。

 この場を託すこともできなかった。


「はぁ〜あ」

 瘴気だまりがこれ以上拡大する前に浄化したいところだ。


 生まれたばかりの雑魚魔物とはいえ、さすがに長期戦は耐えられそうにないからな。


 汚れた泉の前に座り、かれこれ何時間経ったのだろう。

 リナの到着を願ったが、昼を過ぎても来ないところをみると、今日は王宮へ姿を見せない気がしてならない。


 結界を張っただけで魔力が枯渇すると言っていた。大司教が意地悪く、リナへガラス玉を与えなかったのだろう。何かにつけて、あのガラス玉をもったいつける男だ。私が代わりに受け取って、リナに渡すか。


 そうなれば、誰かこの場を通りかかった際に、その者へ瘴気だまりを一度任せ、中央教会へ行ってみるか。


「――誰か来い」

「――――そろそろ誰か来るだろう」


「――はぁぁぁぁ、どういうことだよ。いくら待っても誰一人通りかからない!」


 人の気配もあまり感じないが、騎士団の大半が援軍に出ているのか……。


 そうだ! あの女の行先を探ってみるか――と再び、魔法契約のある先を窺がう。


 大量のシーツが見えたところで、プツリと接続が切れた。

 あの女、魔法陣から何かを感じて抵抗しているのかもしれない。それ以降、一切追えなくなった。


「一体何をしたというのだ」


 だが、少しだけ見えた映像。大量のシーツということは――。やはり辿り着いた先は、売春宿なのか?


「またしても男か……」


 そうなんだ。リナから聞いた話。全部が全部嘘ではなかった。

 それもあったからこそ、陛下からとんでもない事実を伝えられるまで、リナを信用していた。


 そう……。黒魔術の話はまんまと騙されたが、好きな男の話は真実だったのだ。


 ジュディットの男の影を調べれば、一人の人物が浮上した。


 王宮騎士団の第二部隊長のシモンと常日頃親密で、禊の儀の日は、二人でこそこそ隠れて何かをしていたようだからな。


 王太子の婚約者でありながら、堂々と不貞を働きやがって。


 不愉快な出来事の連続だな。全くもって腹立たしい。


 そんな風にイライラしていれば、一人の衛兵が、私の元へ報告に来た。

 門番がわざわざどうしたというのだと思いながら、近づいてくる姿に視線を向ける。


「ドゥメリー公爵から伝言を承っております故、報告に来た次第です」


「おい! どうしてこの泉に来るように告げなかった」


「我々はドゥメリー公爵へ直接王太子殿下の元へ向かうようにお伝えしたのですが、お時間がないとのことで、即刻、帰られました」


「チッ。何なんだあの男は。それで用件は何だ」


「ご息女のリナ様は、しばらく殿下の元を訪ねることはできませんと。以上、それだけです」


「あ~ッ、話にならん。頭にきた! お前は、この泉を見張っていろ! 魔虫が生まれたら、見逃さず退治しておけよッ!」


 公爵もリナも、ふざけたことを言いやがって。


 リナの魔力が結界を張って枯渇していようが、ガラス玉で魔力を補ってでも、この泉を何とかせねばマズい事態になるだろう。


 何はともあれガラス玉を受け取るために、中央教会へ向かうことにした。

次話は、再びアンドレ!

引き続きよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ