45 気づかない二人④
アンドレの部屋をノックしたが、彼は不在のようだ。
シーツを剥がすだけだし、寄宿舎と同じだろうと考え、彼の部屋の扉を開け歩みを進める。
そのままベッドへ向かい、シーツは難なく回収した。
このあとの洗濯はアンドレに頼むように言われたのだが、はて、アンドレはどこへ行ったのやら。
彼の戻りを待とうとすれば、机の上にある栞に目が止まった。
ガラスの瓶に、ざっと十枚近く立ててある。
何だろう。凄く気になる。
そう思って机に近づくと、どれも見た目は同じだ。
思わず、その一枚を手に取ってみた。
上質な厚紙に四葉のクローバーが貼られ、上には緑のリボンがくくられている。
いかにも本に挟めて使う栞なのだが。魔力が込められているのか?
――やっぱりだ。この栞、魔法の加護が付いている。
「なんの加護だろう?」と思い、裏面へひっくり返してみた。
そうしたところで、何の変哲もない無地である。何も書かれていない。
「これ……守護の魔道具だわ。この系統の魔法を使えるのは……」
「ジュディ! あなたはこの部屋で何をしているんですか?」
横から急にアンドレの声が聞こえ、顔を向ける。
「ああ、戻ってきたのね。シーツを洗おうと思って取りにきたのよ。って、言っても、洗うのはアンドレに手伝ってもらうようにエレーナさんから教えてもらったから、戻ってくるのを待っていたのよ」
「それで人の物を勝手に物色しているんですか……。よりによって、それをどうするつもりですか?」
彼はわたしが手に持つ栞に視線を向けた。
「凄く珍しいものを持っているなと、驚いただけよ」
すると、ふんと冷笑が返ってくる。
「そうでしょうね。ある方から頂戴したものなので。僕の知る限り、それは世間には出回らない貴重な物です。返してください」
「ええ、もちろんよ。取る気はないもの。だけど、少しだけこれを貸してくれないかしら?」
この栞に付与されている光魔法に触れていれば、何かが起きる気がする。
今も頭の中がチリチリする。けれど、この栞を持っているためなのか、理由ははっきりしないけれど、頭痛が和らぐ気がする。
そのため無理を承知で願い出た。
「駄目です。人のものを当然のように貸せと言うのは失礼ですよ」
「頭が痛くて……これを持っていると落ち着くから。いっぱいあるし、一枚くらい、いいでしょう」
「ジュディは、ただの頭痛のために欲しいと言っているんですか? それは誰にも譲る気はありません。すぐに手を離しなさい」
「ぇ……」
「……ジュディは本当に自分よがりな性格ですね」
「ごめんなさい」
咄嗟に謝罪を口にし、机の上にそれを急いで戻そうとしたときだ。
『ボンッ』と音を立て、手に持っていた栞が消失した。
――その瞬間。この部屋の空気が凍てついたのは、言うまでもない。
恐る恐るアンドレを見ると、真っ青になって固まっている。
「ごめんなさい」
「……頭痛が解消してよかったですね。僕の部屋から出ていってください」
「あ、いや……」
どういうわけか、突然魔道具が消えたのに、頭痛は全然良くなっていない。
何かある気がしてならないが、怒る彼に言い返すのをやめた。
「シーツは洗濯場にまとめておきなさい。午後に行くから」
胸にずんと響きそうな低い声で告げられた。
「うん。お願いね」
そう言い残し、彼の横を通り抜けた。
いつもありがとうございます。
次話はアンドレ!
からのフィリベールで!!!




