表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

44/109

41 初めて②

「きっとナグワ隊長なら駄目とは言わないでしょう」と、彼の参加を歓迎した。


 話の切れ目ができたところで、厨房から持ってきていたマグカップをアンドレのトレーにコトンと乗せた。

 朝から奮闘した、例のコーヒーゼリーだ。どんな反応をするかと期待で胸が踊る。

 微笑むわたしは、じっとアンドレを見つめた。


 すると「これは?」と、眉間に皺を寄せ訝しむ。


「アンドレのためだけに、特別に作ってみたの。冷やして固めるために朝早く起きたのよ」


「わざわざ早起きして僕のために?」


「そうよ。おいしくできたはずだから食べてみて」

 ねッと、満面の笑みで勧める。


「ジュディが、たった一人で作ったんですか?」

「うん。だからアンドレが来るのを待っていたのよ、ふふっ」

 アンドレに笑顔を向けたが、怖いくらい固い彼の表情は変わらない。


 少し前までおどけて笑っていたのに、どうしたというのだろう。


 てっきり喜んでくれると思っていたのに、全く喜んでいない彼はピリピリとした空気を放つため、胸がチリチリする。


 おかしいな。気に障る事でも口走ったのかもしれないと、不安になって彼の顔を覗き込む。


 すると低い声で喋る彼は、今しがたトレーに乗せたコーヒーゼリーを静かに突き返してきた。


 理解できないわたしは、戻ってきたマグカップとアンドレの顔を交互に見る。

「ん? どうしたの?」


「僕だけに作られたものは、食べる気はありませんから。そんな特別なことはしないでくれますか」


「え、あ、こ、これは服を買ってもらったお礼で……」


「理由が何であれ、要らないものは要らないから」


「……冗談でしょう」


「二度とこういうことはしないでください。僕は個人的に作られたものを食べる気はありませんので」


「どうして……。わたし、アンドレのために……」

「何を言われようと食べる気はありませんから」

「嘘よね。わたし……初めて自分で作ったのに。てっきり喜んでくれると思って」


「頼んでもいない余計なことはしないでください」

「じゃあこれは……」


「ジュディが食べるといいですよ。もし食べないなら捨ててください」

 冷たく拒絶された。


 あまりのショックに全身が氷のように冷え、唇が小さく震えたまま止まらない。


 予期せぬ反応にどう言葉を返していいか分からず、ただ呆然とする。


 謝った方がいいんだろうか? いや、悪い事はしていない。そんな必要はない。

 ――そう考えると、それ以降は押し黙るだけだった。



 気落ちしたわたしは白いマグカップに目をやる。

 魔法で氷を作り、アンドレが来るまでキンキンに冷やしていたのだ。陶器にできた結露がたらりと伝り落ち、カップの底に円を描いて広がった。


 昨日のうちにエレーナから作り方のレクチャーを受け、アンドレのために作ったゼリーである。

 カフェでコーヒーを注文したアンドレだし、これなら彼も食べてくれる気がしていたのに。


「分かったわ、もう作らないから」

「……ええ」


 突き返されたゼリーをとても食べる気にはなれず。口を付けずに厨房へ戻しておいた。


 後で食べる気になれるか分からないが、捨てる気にもなれない。とりあえず再び冷やしておく。

 頭が混乱して今は判断できないし、あとで考えることにした。


 もやもやした気持ちでスモックを脱いだわたしは、ナグワ隊長と待ち合わせした厩舎へ向かう。


 そこにはすでに、魔猪狩りに同行する許可をナグワ隊長に取り付けたアンドレの姿があった。

読んでいただきありがとうございます。

誤字報告ありがとうございます。大変ありがたいです。


いつもは、次の投稿用に第一段の確認原稿がストックされているのですが、今日は、これを投稿すると空っぽに……。

なんてことだろう……。


次話、視点はジュディでいきます。


商業関係の作業と並行作業中につき、投稿が遅れてしまうかもしれませんが、頑張りますのでよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ