41 初めて②
「きっとナグワ隊長なら駄目とは言わないでしょう」と、彼の参加を歓迎した。
話の切れ目ができたところで、厨房から持ってきていたマグカップをアンドレのトレーにコトンと乗せた。
朝から奮闘した、例のコーヒーゼリーだ。どんな反応をするかと期待で胸が踊る。
微笑むわたしは、じっとアンドレを見つめた。
すると「これは?」と、眉間に皺を寄せ訝しむ。
「アンドレのためだけに、特別に作ってみたの。冷やして固めるために朝早く起きたのよ」
「わざわざ早起きして僕のために?」
「そうよ。おいしくできたはずだから食べてみて」
ねッと、満面の笑みで勧める。
「ジュディが、たった一人で作ったんですか?」
「うん。だからアンドレが来るのを待っていたのよ、ふふっ」
アンドレに笑顔を向けたが、怖いくらい固い彼の表情は変わらない。
少し前までおどけて笑っていたのに、どうしたというのだろう。
てっきり喜んでくれると思っていたのに、全く喜んでいない彼はピリピリとした空気を放つため、胸がチリチリする。
おかしいな。気に障る事でも口走ったのかもしれないと、不安になって彼の顔を覗き込む。
すると低い声で喋る彼は、今しがたトレーに乗せたコーヒーゼリーを静かに突き返してきた。
理解できないわたしは、戻ってきたマグカップとアンドレの顔を交互に見る。
「ん? どうしたの?」
「僕だけに作られたものは、食べる気はありませんから。そんな特別なことはしないでくれますか」
「え、あ、こ、これは服を買ってもらったお礼で……」
「理由が何であれ、要らないものは要らないから」
「……冗談でしょう」
「二度とこういうことはしないでください。僕は個人的に作られたものを食べる気はありませんので」
「どうして……。わたし、アンドレのために……」
「何を言われようと食べる気はありませんから」
「嘘よね。わたし……初めて自分で作ったのに。てっきり喜んでくれると思って」
「頼んでもいない余計なことはしないでください」
「じゃあこれは……」
「ジュディが食べるといいですよ。もし食べないなら捨ててください」
冷たく拒絶された。
あまりのショックに全身が氷のように冷え、唇が小さく震えたまま止まらない。
予期せぬ反応にどう言葉を返していいか分からず、ただ呆然とする。
謝った方がいいんだろうか? いや、悪い事はしていない。そんな必要はない。
――そう考えると、それ以降は押し黙るだけだった。
気落ちしたわたしは白いマグカップに目をやる。
魔法で氷を作り、アンドレが来るまでキンキンに冷やしていたのだ。陶器にできた結露がたらりと伝り落ち、カップの底に円を描いて広がった。
昨日のうちにエレーナから作り方のレクチャーを受け、アンドレのために作ったゼリーである。
カフェでコーヒーを注文したアンドレだし、これなら彼も食べてくれる気がしていたのに。
「分かったわ、もう作らないから」
「……ええ」
突き返されたゼリーをとても食べる気にはなれず。口を付けずに厨房へ戻しておいた。
後で食べる気になれるか分からないが、捨てる気にもなれない。とりあえず再び冷やしておく。
頭が混乱して今は判断できないし、あとで考えることにした。
もやもやした気持ちでスモックを脱いだわたしは、ナグワ隊長と待ち合わせした厩舎へ向かう。
そこにはすでに、魔猪狩りに同行する許可をナグワ隊長に取り付けたアンドレの姿があった。
読んでいただきありがとうございます。
誤字報告ありがとうございます。大変ありがたいです。
いつもは、次の投稿用に第一段の確認原稿がストックされているのですが、今日は、これを投稿すると空っぽに……。
なんてことだろう……。
次話、視点はジュディでいきます。
商業関係の作業と並行作業中につき、投稿が遅れてしまうかもしれませんが、頑張りますのでよろしくお願いします。




