39 気になるあなたは……僕の暗殺者②
イヴァン卿が不貞腐れた顔をしながら僕を見てきた。
「中央教会で『ジュディ』は魔力なしに登録されていないし、『エレーナ』のガラス玉は、先日、俺がもらってきたばかりだからな。司祭に『ガラス玉をくれ』と頼んだ俺が怪しまれ、危なく転売容疑をかけられて捕まるところだった」
「ははっ。とんだ災難でしたね。わざわざ遠くまで行ったのに」
「笑いごとじゃないだろう! 散々な目にあってやっと戻ってきたら、アンドレに続いてナグワまで変な女に騙されておかしなことを始めているし。ああー、どうなってんだよ!」
「別に僕は騙されていないですよ」
「得体の知れない激ヤバな女をアンドレの家に置いている時点で騙されているだろう」
「それは……」
「あ~あ。ジュディが白なら、かの令嬢のことを忘れるいい機会だと思ったんだけどなー。駄目だったか」
「あの方のことは……はじめから期待していなかったから、もうどうでもいいんですよ」
「本当にすまん。俺が『絶対に妹に乗り換える』と言い続けたせいで、アンドレに余計な期待をさせたのが全部悪いんだ」
「別に恨んでいませんし……」
「気を持たせ続けて本当に申し訳なかった。――だけど、なんだってアンドレが好きになるのは、面倒な女ばっかりなんだ? 俺の苦労も考えろよな。あのご令嬢の次は、これだもんな――」
彼は「はぁ~あ」と大きなため息をついた。
――余計なお世話だ。
兄気取りのイヴァン卿の親切心なのは分かっているが、勝手に人の感情を決めつけて文句を言っている。もういい加減にしてほしい。
「失礼ですね。誰がジュディを好きだといいましたか? そんな感情はありませんよ」
「そう、そう、そのまま諦めろ。あの子は絶対に駄目だ。さっさと追い払え。いつ本性が出てくるか分からないからな」
「今の彼女は記憶もないですし、問題はありませんよ。余計なことはしないでくださいね」
「駄目だ。あんな危険な女に同情をかけるな。ここに置いておくのは許可しない。早急になんとかしろよ。急に記憶を取り戻して何をやらかすか分からんからな」
「……分かりましたよ」
とは言ったものの、彼女と一緒にいたい自分がいる。
――これが何からくる感情なのか……このときの僕はよく分からなかった。
――愚かなことに、あとで知らされる驚愕の事実に全く考えが及ばなかったのだから。
そのせいで彼女の初めてを逃すことになるとは、悔やんでも悔やみきれない。
「あ~あ。昨日、半日以上中央教会に拘束されていたから、やっと王太子の婚約者に会えると思ったが、やっぱり最後まで会えなかったな」
「彼女の顔が分からないから気づかなかっただけでしょう」
「さすがに服装で大体の家柄は分かる。俺の目には高位貴族らしき令嬢は映らなかったぞ。まあ隠れていたのかもな」
「そうですか……」
「まあ、今までアンドレには言わなかったが、公式の場に現れないから、人前に出られないような顔をしているって、社交界で噂されているぞ。ブサイクなんだろう」
「止めなさい! 人の容姿をとやかくいうのは、どうかしていますよ」
「いや絶対ブサイクだ。カステン辺境伯領も結婚パレードのルートに入っているから、アンドレも間もなく見られるだろう」
「……」
「まあ、ブサイクな顔を見たらアンドレの未練もなくなるだろう。ジュディでも、かの令嬢でもない、もっと普通の女に恋をしてくれ」
「いい加減にしてくれませんか。誰がジュディに恋心があると言いましたか? 僕は彼女に興味はありませんから」
「よし言ったな。ナグワがあの女に心酔しているから、厄介な事態になる前になんとかしろよ! 森に戻せ!」
「分かっていますから、余計なことに口を出さないでください」
胸がジリジリして不愉快だ。
そう思い、イヴァン卿の前から立ち去った。
そのとき抱いた焦燥感をそのままにしたのを後悔するとは、このときの僕は知らなかった。
◇◇◇
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次話は、ジュディに戻ります(≧∇≦)/!!




