37 横恋慕の気配④
まさかリナは私を騙したのか!
許せない。許せない。許せないッ!
リナの軽率な行動をはっきりと理解した私は、感情が煮えたぎり一気に体温が上昇した。
「陛下。私が間違っておりました。ジュディットを他の男の元からすぐに連れ戻し、当初の予定どおりジュディットと結婚いたします。今から彼女を探します」
「無理だ。お前がジュディット様と結婚を願っても手遅れだ。この国の王太子は、あの聖女と禊の儀を済ませている。あの聖女以外、お前の闇魔法を継承できないからな」
「どういうことですか?」
「この話はジュディット様から聞いて知っているだろう」
「闇魔法を継承できない……?」
「ああ。精霊を介した契約は、女狐が死んだあとも消えることはない」
「私は知りません。精霊の話なんて聞いた記憶もありません」
「いいや、聞いているはずだ」
ジュディットから聞いていたって? 聞かされていないぞ。
いや、もしかしてだ。
あの女の話なんか興味もなかったせいで、大半のことを聞き流していた。聞かされたのかもしれないが記憶にない。
禊の儀など所詮、ただの形式的な意味合いかと思っていた。だが違ったのか。
急に降って湧いた事態に緊張で口が渇く。
私は本当に……リナを正妻に迎えなくてはならないのか……。
違うよな。そう信じたいが、陛下が嘘をつく利点が見つからない。
そうなれば認めたくないが、やはり真実なのか――。
……嘘だ。嘘だと言ってくれ。
リナがいなくなれば、私の世継ぎに闇魔法が継承されないのか……。
黒魔術を使ったことで跳ね返りの痣があると言われたリナである。即刻処刑したいところ。
だが、そんな女でさえ失うわけにはいかない私は、床に膝を付け、陛下へ深々と頭を下げる。
「国王陛下。お許しください。禁術である黒魔術を行使したリナですが、私以外、闇属性を受け継ぐ王族はおりませんし、この件にはどうか目を瞑ってください。リナを処分しないでください」
喉の奥が張り付く感覚の中で、何とか伝えた。
会ったこともない二つ年の離れた弟は、精霊の呪いで魔法が使えない。
王族の恥である弟は、身を隠すように自然の多い土地で療養生活のような暮らしを送っている。
そんなやつは結婚さえ無理に決まっているのだ。
それに王弟には、王子一人に王女が四人いるが、揃いも揃って髪も瞳も赤くはない。彼らの母親が側室だからなのか……。初めて気づいた。
「あの聖女を処分したくとも。結界と王宮の瘴気だまりの問題がある以上、今は責任を取って働いてもらわねば困るからな。但し二度と政務をさせるな。昨日の書類は、ただ印を押しただけの、でたらめだと私の元へ苦情が入った」
「でたらめ……だと」
「何から何まで問題ばかり起こしよって」
「申し訳ございません。陛下の仰るとおりにいたします。リナは聖女の仕事だけをさせますから。お許しください」
「いいからさっさと泉へ向かえ!」
一先ずリナの処刑については免れたため、よろよろとした足取りで陛下の部屋をあとにした。
……だが本当に、私を騙したリナを妻にしなければならないのか。こんな地獄のような話があるのか……。
――昨日まではリナとの生活が楽しみでしかなかったのに、今は絶望しかない。
いいや。この際だ。
リナの黒魔術の件を私は知らない振りをして、リナとの関係を円満に続けさえすればいいんだ。
今までどおり私の前では痣を隠してくれれば、知らない振りくらいしてやれる。
陛下だって目を瞑ってくれるんだし。
うまくいく。なんら問題はない。
私の前で従順なリナであれば、それでいいんだ。
鼻に付くジュディットより、横に置いておくぶんには都合が良い。
今後、国民の前で幸せな王太子夫妻の姿を見せ。ゆくゆくは、国を象徴する国王夫妻になる道が、私にはあるのだから。
そうやって自分に言い聞かせれば、まだまだ希望は見えてきた。
◇◇◇
投稿を待っていただいておりました読者様、投稿が遅くなってしまい申し訳ありません。
そして、最新話までお読みいただきありがとうございます。
ここのシーンが短編の最後です。
毎日投稿を大切にしている私ですが、ちょっと多忙でして、投稿ペースを落とします。
土日は、投稿できそうにありません。申し訳ありません。
予定では月曜日、アンドレ視点で投稿いたします。
引き続きよろしくお願いしますm(__)m、
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