35 横恋慕の気配②
そもそも兵士用の寄宿舎が、すぐ横にあるにもかかわらず、アンドレはどうしてこの立派な邸宅で暮らしているのだろうか?
この建物を使わせてもらっていることに、改めて疑問が湧く。
カステン辺境伯とどういう関係なのだろう?
これを聞き出せば、また、図々しいと怒られるかもしれない。だけど気になってしょうがない。
お怒られたらそのときだと割り切り、勇気を持って訊ねてみることにした。
「アンドレとカステン辺境伯は、どういう関係なの? 寝室が四部屋もある大きな邸宅を普通は無関係の人間に任せきりにしないでしょう」
「はは、気になりますよね」
「まあね」
「イヴァン卿は母方の遠い親戚に当たるんですよ。この話はイヴァン卿自身が軍のみんなに聞かせているから、そのうち耳に入ることでしょう」
「そう」と、納得したような、しないような返答をする。
「買った服はここに置いておくので、中を確認してくださいね」
扉からすぐの壁際に置こうとしたアンドレは、箱を持った腕を伸ばす。
「ああ~良かったわ。これで、明日から着る服に悩まなくて済むわね」
それに今晩のパジャマも。
「ふふっ。どうせ、仕事中は作業着を羽織るんですから、中に何を着ても大差はないでしょう。ジュディが見つけた僕のシャツでいいですよ」
アンドレの言いたいことは分かる。
調理場では白い袖のある羽織りものを着ている。スモックというらしい。
服は全部隠れて見えないから、中に何を着ていても確かに関係ないが明日は外出予定だし。
「一応アンドレは上司だから報告しておくわね。明日朝食を終えてから、第一部隊のみんなと魔猪の子どもを探しに行くのよ」
「え? どうして勝手なことを決めているんですか!」
「ちゃんとエレーナさんの承諾もあるから大丈夫よ。だから自分の服が届いてよかったわ」
「あの服で……」
放心するアンドレが、床に置きかけていた段ボール箱をドンと音を立てて落とした。
「どうしたの? 大丈夫?」
「なぜ、そんなことになっているんですか? 僕は聞いていないですよ」
「だから、今、言ったじゃない」
「いや、そうではなくて……。新しい服って……。肩の出た服や透けた服を着ていくつもりですか?」
「ふふ、可愛いわよね」
「お、お止めなさい。魔猪を探すのに新しい服を着ていっては汚れるから……僕のズボンとシャツにした方がいいですよ」
諭すように言われた。
確かにアンドレの言うとおりだ。新調したてのワンピースで畑へ行くのは気が引ける。
「あ、それもそうね。じゃあ、隊長と買い物へ行く時にそれを着ようかな」
「買い物まで一緒に行くんですか……? まあ、僕がとやかく言うことではないですが……」
「ふふっ。熱烈に誘われちゃったのよ、デートみたいに」
懇願されたことを冗談めかして告げた。
「何をふざけたことを言っているんですか? 朝は早いんですし、大概にして早く寝るんですよ」
急に視線の合わなくなった彼が、うつむきがちに背中を向けた。
そして、やら一人で考えごとを始めたアンドレは、そのままとぼとぼと元気なさげに立ち去っていった。
「はい?」
どうしたというのだと首を傾げる。
アンドレの怒る地雷と元気のなくなるスイッチが、さっぱり分からないなと思いながら、段ボール箱を開け、箱の中身を全て引っ張り出す。
「あれ? おかしいな? 待ちかねたパジャマが入ってない⁉︎」
しまった! 下着に気を取られ、パジャマを買い忘れていたんだ。
げんなりするわたしは、致し方なくアンドレのシャツを着て眠る羽目になった。
◇◇◇
読み進めていただきありがとうございます<(_ _)>
次話は、王都の人物に視点が移ります。
ブックマーク投稿をしてもらえると、大変ありがたいです。【ブックマークに追加】をポチリ、一手間ですが、ぜひともお願いします。
この先も、引き続きよろしくお願いします!!!!




