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21 新生筆頭聖女のリナ①

◇◇◇SIDEリナ


 リナを馬車まで送ってくれたフィリへ、「行ってくる」と伝え中央教会へ向かう。


「あ~、なんて幸せなんだろう」


 昨日、姉を追い払ったあとは、そのままフィリの部屋に泊まってしまったけれど、まあ、お父様もお母様もリナがどこにいるか分かっているし、怒られることはないものね。


 癪に障る姉は、どこかでのたれ死んでいるか、運良く生きていたって奴隷にでもされているころかしら。ざまぁないわね。


 公爵家の長女というだけで、王太子妃になるなんて許さないんだから。

 リナの方がよほど適任なんだから、目障りな姉がいなくなってくれて、せいせいしたわ。


 王太子の部屋で一晩過ごし、フィリ専用の食堂で共に過ごせば、既に王族になった気分だ。


 公爵家の食事も豪華だけど、さすが王宮。

 どれもこれも最高級の素材が並んでいるんだから、やっぱり王太子妃を目指して正解だった。


「これから毎日この生活が続くと思うと、最高だわ~」


 王宮を馬車で出発してほどなくすれば、車窓に荘厳な教会が見えてきた。


 最高潮に気分がいいけど、「姉がいなくなった」ことを大司教に報告しなくてはいけないのだ。


 姉が失踪したにもかかわらず喜んでいれば、不審に思われるだろう。

 そう考え、移動する馬車の中で、何度も深呼吸を繰り返し気持ちを整える。


 中央教会の裏手で馬車が停止するころには、高揚する感情を抑え、悲嘆に暮れる顔を浮かべた。


 鏡の前で何度も、表情の作り方を研究してきたんだもの、悲し気な妹に扮するのは余裕だ。


 馬車を降り、いつものように関係者用の扉へ向かうと、まるでリナを待つように、大司教自ら外で待ち構えていた。


 何をしているんだろうと首を傾げたが、まあリナには関係ない。取りあえず気を引き締め、沈んだ顔に徹する。


 向こうもリナの存在に気づいた。目と目を合わせたまま近づく。


「リナ様おはようございます、いえ、こんにちは」

 そわそわとした様子の大司教へ、瞳を潤ませ告げる。


「ごきげんよう大司教様。姉が昨日から帰ってこないんですの」


「ん? 遠くで瘴気でも発生しましたか」

「お恥ずかしいことに、結婚が嫌で逃げ出したみたいで」


「なんですと! いつまでたってもジュディット様が教会にいらっしゃらないから、お迎えに上がるところだったんですぞ。ジュディット様が失踪されたとなッ⁉ それは一大事ではないか!」


 衝撃でよろつく大司教は、瞬時に青ざめた。

 そこまで心配せずとも、リナがいるから安心してと、穏やかに声をかける。


「大丈夫よ。お姉様の代わりにリナが祈りを捧げるから」


「当然でございます! ジュディット様がいらっしゃらないのであれば、一刻も早く祈禱室へお入りください」


 は? 何が「当然」よ!


 こっちが下手に出て取り繕ったというのに、リナを見くびる姿に納得がいかない。なんなのよ!


 偉そうな言い方をしやがってと思っていれば、彼はブツブツ言いながらリナの手を引こうとする。不愉快だ。


「何よ! 祈りの練習なのに大司教は過剰に反応しすぎだわ。少しは落ち着きなさい」


 そう告げると大司教の眉間に深い皺ができた。


 ──は? 何その態度……。

 次期筆頭聖女のリナに無礼じゃない。


 筆頭聖女? いいえ違うわね。

 近々、唯一の聖女になるんだわ。


 そもそもリナと王妃様しか、この国に聖女と名乗れる者は存在しないんだもの。


 それ以外に光の加護がある貴族は、ポーションさえまともに作れやしない。

 せいぜい擦り傷を治せるくらいだし、彼女たちは聖女とは到底いえない。


 それに光魔法の加護は年を重ねると減退するから、王妃様が聖女を引退する日は近いはず。大司教が一番分かっているはずだ。


 これからはリナを丁重に扱いなさいと、司教と聖女の力関係を見せつけた。


「リナ様。わたくしは一つもお大袈裟なことは言っておりません! 聖女様の祈りがこの国全体に結界を張っているのです。それがなくなれば、国の外から凶悪な魔物が入り込みます。瘴気から出てくる、生まれたばかりの知恵のない魔物とは、受ける被害が桁外れに違いますから」


 へ? 何それ。

 全くもってリナの想像を超える話が耳に届いた。


「結界? それは筆頭聖女の王妃様が張っているんでしょう」

 きょとんと告げると、すぐさま「いいえ」と否定され、大司教が話を続けた。

 

「この国の結界は、ジュディット様が五歳になったころからずっと、お一人で維持なさっていましたから。ジュディット様より後で聖女様と認定された、リナ様がご存じないのは当然ですね」


「嘘でしょう⁉ 王妃様も毎日ここに来ているじゃない」


「ええ、来ているだけです。それは現筆頭聖女様である王妃殿下に伺えばすぐに分かることですぞ」


「聞いてないわよ、そんなこと」

「まあ特段、リナ様へお伝えする必要はございませんでしたから」


 お前に知らせる価値もない。そう馬鹿にされ腹の中が煮え立たぎる。


 たけど「落ち着きなさい自分」と何度も言い聞かせた。


 ここで感情的になって、この話に食いつくのは得策ではない。

 我を失い姉のことでボロが出たら大変だもの。


 ここは一先ず、しおらしくして、すんなり納得しておくか。


「分かったわよ……。じゃあ何をすればいいの? リナは結界の祈りなんてものは、知らないわよ」


「光魔法の加護がある方が祈祷室へ入れば、すぐに分かります。そのまま一時間は絶対に出てこないでください」


 教会の中に入れば、乱暴に祈祷室へぽいっと放り込まれ、重い扉を閉められた。

 するとすぐに、魔力が体から抜けていく異変を感じ、立っていられなくなった。


 我慢できずにその場でガクンと、石畳に膝をつく。


「え⁉ 何これ。変な感じがするわ」


「リナ様お静かに。黙って祈りを捧げてください。中央に祈祷台がありますから、そこまで向かってください」


「ま、待って。この部屋の中、ざわざわして気持ち悪いわよ」


「慣れれば問題ありません。ジュディット様は祈祷室が一番落ち着いて眠れると仰っていましたよ」

 は? あの姉は何なんだ⁉


「眠れるって⁉ 周りにいっぱい魔物が見えるわよ」


 無理矢理押し込められた、この部屋──天井に青い空が見える。

 それに壁一面、大きな魔物がうようよしている。


 その中でも大きな黒い蜘蛛が、リナに向かって気持ち悪い腹を見せているんだけど。


「うぐぅッ、気持ち悪い──」


 ここで眠るって……、あの姉はどんな図太い神経をしているのよ……。


「あ~、それは結界の外にいる魔物でしょう。祈祷室自体がこの国に張られた結界を模していますから」


「そういえば結界は、この国と隣国との境界線に張っているんだっけ」


「いいえ違います。隣国との境界から我が国側に二十メートル手前で張られております」


 は? 何だその無駄な距離は? 次から次へと知らない事柄が浮上し、ムッとして言い返す。


「なんでニ十メートル手前なのよ!」


「魔物によっては皮だとか牙とかに希少な物がありますから。ですが、この国にそもそも魔物は存在しないでしょう。——けれど、一歩結界を出れば隣国で生まれた魔物が、この国の結界で行き場を失いうじゃうじゃしていますからね」


「だから、なんなのよ! もっと分かりやすく言いなさいよ!」

 老いぼれの言いたいことがさっぱり分からない。


 ただでさえ不愉快な場所に入れらて気が立っているのに、まったりとした口調で回りくどい説明をされ、いらいらが募る。


「その二十メートルは、狩りのためにわざと用意した空間です。ジュディット様が日々、王宮の騎士団を引き連れて、そこへ素材採取に出ておりましたから」


「はぁ? 王太子の婚約者が何やってんのよ。バッカみたい!」


 いい子でいようと考えていたけど、思った以上に姉が不可解な行動をしていて本音を吐いた。


 それに老いぼれが、いちいちリナを馬鹿にするから心底腹が立つ。後でフィリに告げ口してやるわ。



視点を変えた先はリナでした。

しばらく、王都の二人をお届けします。

引き続きよろしくお願いします<(_ _)>

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